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三話 魔王死す

 捕捉されないように雪比は一気に雲の上までやってきた。

 そして風を見つけると背中の翼を使い、風に乗り家路へとつくのだった。


 城へ帰ったらお父さんは心配していて、私の帰りを待っているだろう。そして少し反省してもらって、夕食を食べたらお父さんが何か始める前に昔のことを聞こう。



 追い風に乗り、少し急いで帰った雪比が目にしたのは人気のない城下町と半壊した城だった。


「誰がこんな酷いこと……、お父さん!」

 お父さんや家臣の皆は無事なのか。

 四天王とお父さんを相手取れる物などこの世にはそういない。そうわかっているから雪比は壊れた城を見て、不安な気持ちしか生まれなかった。


 城の周りをぐるりと飛ぶ。

 中にはそこには誰の姿も見えなかった。忙しく歩いているメイドさんも、いつもならこの時間でも訓練をしているゴブリン兵も、誰の気配もしなかった。

 魔法が直撃したのかグチャグチャになっている中庭に着地する。


 雪比はその惨状に呆然と立ち尽くしていたが、遠くで小さな声がしたのを聞き、走りだした。


 皆がいないのは、お父さん達の戦いの邪魔になるから避難しているだけ、お父さん達はとっくに侵入者を捕えて、久しぶりに戦ったと笑っているに違いない。

 雪比は不安な気持ちを抑えこみ、声が聞こえた方へと走った。



 雪比が声がするドアを開けると、そこには床に座っている魔王とその周りに立つ三人の四天王がいた。


「雪比遅かったな。おかえり」

 何事もないようないつもどおりの魔王。その魔王に雪比はホッとして涙が出そうになり、それを隠すため魔王を抱きしめる。


「ゆ、雪比!? 反抗期は終わったのか!?」

 慌てる声もいつも通りだ。雪比は抱きしめたまま言った。


「お父さん、無事でよかった」

 その途端、魔王の身体が硬直した。そして四天王の魔王を見る目も更に冷ややかなものとなった。

 雪比はそのことに気づき、一歩、二歩と魔王から離れる。



「あー、姫様? 何か勘違いしているみたいだが」

 四天王兼魔王軍の大将。『双牙』と呼ばれる狼男、ヴォルフが腰の二本の長剣に手をかける。


「子供にまで心配をかけるとは、いやはや今回ばかりは反省してもらわないといけませんな」

 四天王兼コック長の巨大な鬼、小鬼丸が背負っている巨大な肉切り包丁を手にとって構えた。


「幻滅しました。女の子、しかも自分の娘を心配させて泣かせるなんて。姫様もこんな父親を持って災難でしたね」

 四天王兼魔王軍魔導部大将。『移動砲台』の二つ名を持つ鳥人族の女性。パスエルが右手に炎を宿した。


 雪比は周りの空気を感じ、四天王の場所まで下がった。


「お父さんがまた何かやったの? で、でも侵入者も追い払えたんだし……」

 雪比は侵入者相手に魔王が気合が入りすぎて、魔王城を壊してしまったのだと思った。

 しかし雪比がその言葉をいい終わる前に、四天王の殺気が膨れあがった。



「この惨状を作り出したのは全てこいつ(魔王様)だ(です)!!!!」

 高速で繰り出される剣で肉が削ぎ落とされ、巨大な包丁で骨ごと叩き折れる。そしてそれらは業火に飲み込まれて灰になっていった。



 雪比は叫ばれた言葉を反芻していた。城を半壊したのはお父さんが暴れたから? 皆いなかったのはお父さんから逃げていたから? 侵入者なんていなかった?


 父親に抱きついた恥ずかしさと怒りが一緒にこみ上げてきた。

 灰になった父親を風で集めて氷漬けにする。

 四天王の猛攻が収まった後には氷で固められた灰の山が一山あるだけだった。


「さて、馬鹿に対しての罰はだした。パスエル、大体復興にどれぐらいかかるか?」

 二本の剣を何事もなかったかのように収めて、話を始めるヴォルフ。

 魔王に仕える者の中でも最古参の一人だ。

 全盛期には劣るものの、その剣の腕は未だ衰えていなかった。


「ゴブリン軍に急ピッチで作業させます。それでも二ヶ月はかかるかと。他の種族の手を借りてもいいですが、反感は買うかと。後は龍王国からゴーレムを借り入れるという手段がありますが」

 パスエルはずれた眼鏡をかけ直した。四天王の中でも事務処理も受け持っている。

 最近……と言っても雪比が生まれる前だが、にスカウトされた。まだ魔王に仕えてから日が浅い四天王だ。その稀有な才能を魔王に見ぬかれて、英才教育を受けた結果、四天王となってここにいる。


 国の王が城を壊したから、税金を上げるというのでは国民は納得をしないだろう。何とかする必要があった。


「これを機に大規模な改修をしたらいかがかな? 魔王様が暴れたのは城を壊すためだったと言えば何の問題もあるまい。この城も古くなってきたところだ。城を改修するなら各種族からの人員も要請しやすいだろう」

 小鬼丸。小鬼とついているが、その身長は三メートルを超えている。

 過去には災厄と恐れられたこともあるゴブリンの王だ。

 こちらも最古参の一人で、魔王が魔王になる前から仕えているそうだ。



 それは名案だと三人が頷いたところで、お腹が鳴る音がした。

 思わず三人が音のする方向を見ると雪比がモジモジしながら立っていた。

 急いで飛んできたのもあってお腹が空いていたのだ。


「ああ、腹が減りましたな。夕食の分は埃を被っていますが、地下の食料庫は無事なはず。我が何かを探してきましょう」

 小鬼丸が身を屈めてドアをくぐると廊下にでていった。

 それを見たヴォルフがやれやれ、と首をふる。


「この城を人間に作らせたのが間違えだったんだな。扉も小さいし、窓が門代わりにになっているし」

 空を飛ぶ種族は大広間の窓を使って城を出入りしていた。


「種族ごとの執務室も足りなくなってきましたし、謁見の間ももう少し大きくして、四天王の私室も欲しいですね。城の基板ごと拡張しましょうか」


 二人共改修については乗り気なようで、楽しそうに話していた。



「本当に父がご迷惑を……」

 雪比は二人に対して頭を下げた。


「いや、姫様。頭上げてくれや。別に俺らは慣れてるってからよ」

「勘違いしやすくて、大切なものに対してが盲目になってしまうのは昔からですしね」

 二人は慣れたように苦笑いをしながら言った。


「一体何があってこんな事に?」

 ヴォルフは雪比が出て行ってからのことを話した。

 インキュバスを見ただけで勘違いした父親が超火力の魔法を放とうとしたところを、四天王達がすんでの所で止めて、そのまま勘違いした魔王を止める戦いと、四天王を乗り越えて進もうとする魔王との争いが魔王が冷静になるまであったと。

 雪比はそんな自分の父親の暴走に頭を抱えた。


「その人は無事なんですか?」

「もう保護されてるよ。確かに娘のそばにインキュバスを近寄らせたくねぇなぁ」

 魔王と同じ娘を持つ身としてヴォルフは少しは魔王に理解をしめしていた。だからといってこのような惨状を作り出した魔王に同情する気はないが。

「雪比ちゃん。誰かに恋してたりしないわよね」

 記憶の中にインキュバスという種族も思い当たらないし。魔王の護衛というのも新しい人が入ってきたな程度の思い出しかない。

 それに魔王は最近部屋に篭もりきりで、ほとんど会っていなかったのだ。


「特に印象に残っていませんね」

 そう言うと二人はホッとした顔をした。

 もしも本当に姫が魅了されていて、インキュバス族が次期魔王に名乗りを上げるために、魔王の護衛にインキュバスを送っていたのなら。四天王はとんでもない過ちをなしたということだ。


「いやー、もし魅了されてたなら、俺らが首を落とされないといけないところだった」

 そんな風に笑うヴォルフを見て雪比は暗鬱とした気分になった。


 もし私が本当に恋をしても、魅了にかかったと言われて、相手が殺されてしまうのだろうか、と。その前に私が説得するしかない。

 雪比はそう決心した。


「地下は無事だった。しかし調理器具は全て埃を被っているのでな。四人だけだ。簡単な食事にしよう」

 小鬼丸は五メートルはあるかと言われる巨大な魚と調味料を持ってきていた。


「まさかこれは……マグロ神剣?」

 ヴォルフが震え声で小鬼丸に確認する。

 いつしか魔王が疲れきって帰ってきたことがある。その時に持ってきたのが、このマグロ神剣だ。


「そうだ。過去、勇者が召喚した伝説の剣のうちの一振りだ。本来なら魔王様の許可が必要なのだが……ふむ、良いようだ」

 それから後は早かった。パスエルが氷で包丁とまな板を創りだし、小鬼丸が捌く。

 雪比とヴォルフは出来上がるのをただ待っていた。


「刺し身、カルパッチョ、タタキ、マグロ漬け丼。さあ、神聖な食材だ。早速いただこうぞ」

 氷で作られた皿にズラリと並べられた一級品の料理。それも短時間で作ったとは思えないほどしっかりと作られていた。


「「「「いただきまーす」」」」

 四人は思い思いに食べ始めた。


「何だこのトロ……舌の上に乗せた瞬間溶けて旨味が広がりやがる」

 ヴォルフが驚きながらマグロを次々と口に運んでいく。

「伝説の食材を調理できるとは料理人冥利に尽きる。この時をどれほど心待ちにしたことか」

 一方小鬼丸は静かに涙を流しながらも、バクバクと食べている。

「何これ?! 魚?! これただの魚じゃない!」

 パスエルもあまり好きではなかった魚の思わぬ美味しさに驚きながら口いっぱいに頬張っていた。


 雪比は黙々と食べていたが、一番にお腹がいっぱいになった。

 もっと食べたい。そう思ったが、食べ過ぎて少し気持ち悪くなっていたので、目の前でマグロが減っていくのを眺めていた。

 ふと父親のことを思い出した。料理の中でも特に米と刺し身が好きな父親。この時いなかったことを物凄く悔やむだろう。


「これ。少しお父さんに残してあげられない?」

 その言葉に夢中で食べていた三人は食べるスピードを遅くした。


「どうしたらあの魔王様の娘がこんな良い娘に育つのかしら」

「俺の娘にも見習わせたい。本当に魔王様には勿体無い人だ」

「あの父親から、こんなに優しい子が生まれるとは……母親の素質を受け継いだのだろうか」

 雪比は一番の忠臣からも馬鹿にされている自分の父親のことを改めて心配に思った。

 しかしこの国を雪比が生まれる前から引っ張ってきたのだ。カリスマがないわけじゃないだろう。



「しかしあの状態からどうやって復活するんだ? 灰になってるぞ?」

 ヴォルフが指差した方には氷漬けのまま変わらない灰があった。


「ふむ、魔王様ならどうにかして復活するのでは? 殺しても死なないと自称していたではないか」

 小鬼丸は呑気に酒瓶をあおりながら、マグロを食べていたが、それ以外の人は嫌な汗をかきはじめていた。


「少し待って。鑑定魔法を使うわ」

 パスエルが両手を広げ、空中に魔法陣を描き始める。そして部屋一面を埋めるような巨大な魔法陣が空中に描かれた。

 大量の円が組み合わされて作られており、それを描ききった時にはパスエルは両肩で息をしており、精神力を使い切り、今にも倒れそうな様子だった。


「これが、私の、最高の鑑定魔法よ」

 息を切らしながら、その魔法陣を灰に当てる。

 パスエルの目には鑑定結果が現れていたのだろう。

 フラッと倒れそうになったパスエルをヴォルフが支える。


 真っ青な顔でパスエルは呟いた。

「死んでる」


 雪比は何を言っているかわからなかった。


「え? 何これ? どっきり? 城を壊すところから仕組まれていたの?」

 誰も返事をしない。


 雪比は現実が信じられなかった。

 いつも飄々としている圧倒的強者。軍の猛者が何十人集まっても指一本で全てを片付けてしまう。あんなに強い父親が。

 そして自分も手を下したということがまず耐え切れなかった。


「灰が一箇所に集められ、凍らされているのが唯一の救いか……。雪比殿。すまなかった。父親である魔王様……いや、凪殿が力を失っていたのはわかっていたのに」

 小鬼丸は酒瓶を置き、静かに土下座をした。


 その様子を雪比はぼんやりと見ていたが、突然何かが切れた。

「何でっ!? 何でそんなに冷静なのよ! お、お父さんが死んだのよ?! 何で! 何でよ……お父さん……」

 雪比はそのまま泣き崩れた。パスエルが雪比の背中をさする。

 ヴォルフはそんな雪比を見て厳しい顔をした。


「まさか俺が生きている間にもう一度旦那が死ぬのを目にするとは、な。雪比様、泣いている場合じゃない。旦那が亡き今、あなたが魔王だ」

「ちょっと、まだ子供なのよ!? 何言ってるの!?」

 パスエルは感情的になり、神妙な面持ちの小鬼丸と、ヴォルフを睨みつける。その頬には涙が静かに流れていた。

 記憶をなくして荒野を彷徨っていたパスエルを救ってくれたのはたまたま散歩に出ていた魔王だ。それからパスエルは魔王を命の恩人として慕っていた。


 ヴォルフは厳しい顔のまま立ち上がり、マグロを数切れ抱えた。

「パスエル、後は任せた。俺達は旦那を生き返らせに行く。それが俺達にできる恩返しだ」

「はあ? 生き返らせる? そんなの無理に決まってるじゃない! 回復魔法でも、それどころかどんな禁術を使っても死者蘇生はできない!」

 パスエルは自分が炎の魔法を使わなければ、魔王が死んでいても助けられていたかもしれないということに気づいて、吐き気を覚えた。


「だが勇者はやってのけた。その時俺達は何もできなかった。今度は、俺達でやってみせる」

 ヴォルフはそれだけ言うと出て行った。


 それに続き小鬼丸も立ち上がる。

「パスエル。我々は魔王になる前からの凪殿の臣下だ。凪殿と我らの絆は切れていない。我らが一ヶ月たっても戻らなかった時、凪殿の死を公表せよ。ヴォルフはおそらく冥界の主へと会いに行ったのだろう。あいつと冥王は少しばかり面識がある。我は神に会いに行く。気まぐれな連中だが、凪殿にしてもらった恩は忘れていないだろう」

 そういって小鬼丸もマグロの頭を掴み、外へと出て行った。


「冥王? 神? 一体何のこと?」

 パスエルは自分ですらも聞いたことがない単語に驚きを隠せなかった。四天王という地位である以上どんな情報も持っていると思っていた。


 勇者が数百年に一度蘇る邪龍を殺し、平和を作り上げた日は神殺しの日と呼ばれる。

「神は邪龍で、死んだはずじゃ……」


 パスエルが思考の渦に入った時、パスエルにすがりついて泣いていた雪比は顔を上げた。

 勇者なら生き返らせることができる。


 その目には強い意志が宿っていた。

次回予告

魔王は死んだ。

娘はもう一度魔王を蘇らせに行くことになる。

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