第50話:秋の冷え込みと、生ぬるい懐中しるこ
第50話:秋の冷え込みと、生ぬるい懐中しるこ
(投稿日2026年9月26日)
9月26日、土曜日。
猛暑で茹だるようだった呉の街にも、ここ数日の秋雨ですっかり冷たい空気が入り込み、急激な冷え込みを見せていた。
こうも肌寒いと、なにか甘くて温かいものが食べたくなる。俺はホットの『特注デカフェ烏龍茶』をマイボトルに詰め、愛用の電動アシスト自転車で近所のスーパーへと向かった。
買ってきたのは、お湯を注ぐだけで簡単に作れる昔ながらの『懐中しるこ』だ。
部屋に戻り、冷えた身体を温めるためにエアコンの暖房のスイッチを入れる。同時に、部屋の乾燥で顔の深いシワの奥がダメージを受けないよう、加湿器もすかさずフル稼働させた。短頭種のパグにとって、秋から冬にかけての温度と湿度の管理は命がけなのだ。
「ふぅ……。この前、1課の狂犬チワワどもが『寒い寒い』とキャンキャン喚いていたが、南米原産のチワワも、体温調節が下手なパグも、寒がりなのは同じようだな」
俺はトム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル』のDVDをセットし、お椀に割って入れた懐中しるこに、チンチンに沸いた熱湯を注ぎ込んだ。
香ばしいもなかの皮がとろけ、中から甘い粉末あんこが溶け出して、部屋中に至福の香りが広がる。
だが——。
「……フゴォォ……ッ」
俺はお椀を前にして、恨めしそうに唸り声を上げた。
忘れていた。犬型獣人である俺は、極度の『猫舌(犬舌)』なのだ。おまけに人間のようにつぼめた唇で「フーフー」と息を吹きかけて冷ますこともできないため、熱湯で作ったドロドロのしるこなど、この平たい顔で口をつけようものなら大火傷で即死してしまう。
画面の中では、俺が心底憧れるタフなトム・クルーズが、極寒の雪山でスマートなアクションを繰り広げている。
一方の俺は、暖房と加湿器が効いた生ぬるい部屋で、熱々の懐中しるこが『安全な生ぬるさ』に冷めるまで、ただひたすらに待て!を食らわされた犬のように見つめ続けているのだ。
おまけにこのしるこは、内臓脂肪レベルE(再検査でC判定)の身体に牙を剥く、糖質とカロリーの爆弾でもある。
20分後。
すっかり生ぬるく、もなかの皮もドロドロにふやけきった懐中しるこを、俺は短いマズルを突っ込んでハフハフと強引に丸呑みした。
「……フゴッ、ズビッ……。甘い……うまい……」
熱々ではないし、カロリーの罪悪感もすごい。スマートさの欠片もない。
けれど、冷え切った身体に染み渡るその濃厚な甘さに、俺の股の間に挟まった短い『巻き尾』は、秋の訪れと小さな幸せを噛み締めるように、パタパタと揺れていた。




