第48話:C判定の生還と、黄金のさつまいも
第48話:C判定の生還と、黄金のさつまいも
(投稿日2026年9月24日)
9月24日、木曜日。
今日は、あの春の健康診断で『内臓脂肪レベルE(要精密検査)・肝機能異常』を叩き出した俺の、運命の再検査の日だった。
ここ数日、味気ない茹で豆腐とササミで悪あがきをした結果、手渡された診断結果の用紙には……燦然と『C判定(要経過観察)』の文字が印字されていた。
「基準値は前回よりかなり良くなってますね。即入院の危機は脱しました。この調子で生活改善を続けましょう」
「フ、フゴォォ……ッ! ありがとうございます……!」
医師の言葉に、俺はパグ特有の深いシワを寄せ、涙目で深く頭を下げた。
健康体のA判定には程遠いが、死の淵であるE判定からは見事な生還だ。
病院を出た俺は、再検査を乗り切った自分への『ご褒美』を買うべく、首に保冷剤を巻き、愛用の電動アシスト自転車で日傘をさしながら近所のスーパーへ向かった。
とはいえ、まだC判定の身。脂の乗ったステーキや、バターたっぷりのケーキなど食べれば、再び急性膵炎の恐怖がチラつく。俺が向かったのは青果コーナーだ。
「……秋といえば、これだよな」
手に取ったのは、丸々と太った立派な『さつまいも』だ。犬型獣人にとって、脂質ゼロで強烈な甘味を楽しめるさつまいもは、秋の最高のスイーツなのである。
ホクホクのご褒美をカゴに入れ、精肉コーナーを通りかかると、そこには大量の鶏むね肉とササミを吟味しているペキニーズの田中の姿があった。
「……田中くん。またそれを買っているのか。俺は再検査のために3日食っただけで、味気なくて頭がおかしくなりそうだったぞ」
本心からの畏怖を込めて声をかけると、田中は無表情のまま、ずっしりと重いササミのパックを持ち上げた。
「何を言ってるんですか、山田さん。これはトレーニングする者たちの血肉となる、最高の相棒ですよ。私はこの食事に一切の手を抜くつもりはありません」
相変わらずの筋肉の狂信者ぶりに、俺はひきつった笑みを返すしかなかった。
家に帰り、俺は買ってきたさつまいもを綺麗に洗い、鍋に放り込んでじっくりと丸茹でにした。
茹で上がった熱々のさつまいもを鍋から取り出し、真ん中からパカッと割る。湯気とともに、黄金色に輝くホクホクの身が顔を出した。
パグの分厚い肉球では、薄い皮を綺麗に剥くことなどできない。俺は皮ごと両手で挟み込み、犬特有の猫舌に注意しながら、短いマズルを近づけてハフハフとかぶりついた。
「フゴッ……あむっ……! ぅうまい……!!」
自然の濃密な甘さが、ササミと豆腐で枯渇していた舌と脳髄に染み渡っていく。
高級肉でも、豪華なフルコースでもない。36歳のサラリーマンの最高のご褒美が『茹でたさつまいも』だなんて、客観的に見れば惨めかもしれない。
けれど、内臓脂肪を気にして食べるこの素朴な秋の味覚は、信じられないほど俺の心を満たしてくれた。
黄金色のさつまいもを頬張りながら、俺の股の間に挟まった短い巻き尾は、健康への第一歩と確かな甘味を噛み締めながら、幸せそうにパタパタと揺れていた。




