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『サラリーマンパグ吉 ~今日も尻尾は上がらない~』  作者: 水前寺鯉太郎


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第46話:同期の絆と、絶品の水キムチ

第46話:同期の絆と、絶品の水キムチ

(投稿日2026年9月19日)

 9月19日、土曜日。夜。

 なつみさんに連れられ、シェパード副隊長の実家の居間へと通された俺は、そこに鎮座している予想外の巨体を見て、パグ顔を硬直させた。

「……フゴッ!? ど、ドーベルマン工藤隊長!? なんでいるんですか!?」

 相変わらずの殺し屋のような面構えでビールグラスを傾けていた隊長は、俺を見て「グルゥ……」と喉の奥で低く唸った。彼なりの歓迎の挨拶だ。

 すかさず、すでに上機嫌で顔を赤くしているシェパード副隊長が笑い飛ばした。

「そりゃそうだろう山田君。俺と工藤は、若い頃からの同期だからな。同期の家で休日に飯を食うぐらいたまにはするさ」

 過酷な警備の現場をくぐり抜けてきた、大型犬同士の重厚なバディの絆。俺は思わず居住まいを正した。

 そんなこんなで、なつみさんや奥さんも交え、賑やかな焼肉パーティが始まった。

 テーブルの中央には、娘から俺の「急性膵炎の恐怖」を聞きつけた副隊長が、朝からスーパーをハシゴして買い集めてくれた『特上の純・赤身ブロック肉(脂身ゼロ)』が山のように積まれている。

 おまけに、俺の顎が弱いのを知っているドーベルマン隊長が、無言でキッチンバサミを手に取り、俺の皿へ赤身肉を小さく切って放り込んでくれるという至れり尽くせりのVIP待遇だ。

 そして何より俺の舌を打ったのは、副隊長の奥さんが手作りしてくれた『水キムチ』だった。

「山田さん、犬型獣人にはネギやニンニクが猛毒でしょう? だから、それらも唐辛子も一切使わずに、リンゴや大根の甘みだけで発酵させた特製なんですよ」

 奥さんの完璧な気遣いから生まれたその水キムチは、肉の脂をサッパリと洗い流す極上の美味さだった。料理ブログ『社畜P』の血が騒ぎ、俺は思わず「あまりに美味すぎるので、ぜひ作り方を教えてください!」と平伏してレシピを乞うてしまった。

 宴もたけなわとなり、すっかり出来上がったシェパード副隊長が、ニヤニヤと俺となつみさんを交互に見比べた。

「で? どうかね山田君。うちの娘との距離は、今日のデートで少しは縮まったかな?」

「フ、フゴォォッ!?」

 俺は狭い気道を詰まらせ、激しくむせ返った。

「め、滅相もないです副隊長! 俺なんてただの愚痴のゴミ箱というか、ただの不格好な中年パグですから! なつみさんのようなエリートに釣り合うわけが……!」

 全力で謙遜し、冷や汗をダラダラ流してパニックになる俺の横で、なつみさんが顔を真っ赤にして立ち上がった。

「ちょっとお父さん! デートじゃないってお昼にお茶しただけだって言ってるでしょ! やめてよもう!」

 ペチペチと父親の肩を叩く娘と、ガハハと笑う副隊長。そして、その様子を無言で微笑ましく見守りながらビールを煽るドーベルマン隊長。

 話は尽きることなく盛り上がり、気がつけば時計は23時を回っていた。

 会社の過酷な社内政治を忘れさせてくれる、温かくて騒がしい休日の夜。

 胃袋を安全な赤身肉と絶品の水キムチで満たし、俺の股の間に挟まった短い巻き尾は、帰り道の夜風の中で、今日一番の幸せな振れ幅で揺れていた。

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