第23話:18日の給料日と、生々しい控除額
第23話:18日の給料日と、生々しい控除額
(投稿日2026年7月18日)
7月18日、土曜日。
世間の一般的な企業は25日給料日が多いが、我が社は毎月18日が給料日だ。
理由は単純。創創業者のフレンチブルドッグである黒川会長が元自衛官であり、「防衛省の俸給日に合わせるのが一番気が締まる」という謎のこだわりが、そのまま会社の就業規則になっているからだ。
ただし、今月のように18日が土曜日に被る場合、給与は前倒しで17日の金曜日に振り込まれるのが会社のルールである。
だが悲しいかな、昨夜はチワワどもが散らかしたクレーム処理の尻拭い残業で深夜まで呉の街を駆けずり回っており、口座の着金を確認する余裕すら無かった。
土曜の昼下がり。冷房をガンガンに効かせた自室で、俺はスマホからWEB明細画面を開き、生々しい数字の羅列に目を凝らした。
『総支給額:500,000円』
一瞬、目を見張った。
基本給に加え、内訳の欄には『特別営業手当:120,000円』の文字。
営業1課のチワワどもが起こした特大クレームの火消しや、あの泥酔したドーベルマン社長の命がけの接待……あの一連の地獄労働が、きちんと「危険手当」として評価されていたのだ。あの狸親父の会長も、完全に無情というわけではないらしい。
……だが、歓喜も束の間。その下にズラリと並ぶ「控除額」の項目に、俺のパグ顔は一気に引きつった。
『社会保険料(健康・厚生年金・雇用):-77,200円』
『所得税・住民税:-45,800円』
『組合費・その他:-5,000円』
『差し引き手取り額:372,000円』
「……フゴッ!? どんだけ持っていくんだよ!!」
思わず画面に向かって惨めな悲鳴が漏れた。
額面50万の歓喜から一転、12万以上が税金と社会保険料の波に呑まれて露のように消え去っていく。特別手当が乗ったせいで標準報酬月額も源泉徴収額も容赦なく跳ね上がっているのだ。社会のシステムというものは、パグの狭い気道を締め上げる満員電車並みに情け容赦がない。
「……はぁ。だが、手取りで37万か」
内臓脂肪レベルEの、ぽっこりと出たシワの寄ったお腹を撫で下ろす。
チワワのケツを拭き、足元の短い身体で駆けずり回り、汗と涙と涎を流して稼ぎ出した37万円。
今夜はちょっとだけ贅沢をしてやるか。とはいえ、サシの入った良い肉を食えば、俺の膵臓は一発で急性膵炎を引き起こして救急車行きだ。
駅前のスーパーで、特売の「オーストラリア産・超赤身牛ブロック(脂身ゼロ)」でも買ってこよう。硬くなりやすい赤身肉を出汁でじっくり低温調理し、短頭種の弱い顎でも噛み切れる柔らかいローストビーフに仕上げるのだ。
隣人の田中でも呼んで、キンキンに冷やしたデカフェ烏龍茶で乾杯しよう。
過酷な労働と、容赦ない控除、そして加齢による健康制限。
それでも手元に残った泥臭い重みに、俺の股の間に挟まった短い巻き尾は、今日だけは静かに、誇らしげに揺れていた。




