第21話:猛暑の徒歩20分と、特製レバ炒め
第21話:猛暑の徒歩20分と、特製レバ塩炒め
(投稿日2026年7月13日)
月曜日の昼下がり、俺は7月の呉に降り注ぐ、殺人的な猛烈な日差しの中で外回りの渦中にいた。
午前中のクレーム処理を終え、手軽にネギ抜きの牛丼で済ませようかとも思っていたのだ。だが、訪問先の担当者――脚の長いサルーキから「駅の反対側に最高の焼肉丼を出す店がある。ここから歩いてすぐですよ」と強く勧められ、断りきれずにそこを目指す羽目になったのだ。
だが、大型視覚ハウンドにとっての「歩いてすぐ(10分)」は、生まれつきの絶望的な短足と狭い気道を持つ俺にとって、実質30分以上の過酷な死の行軍を意味していた。
足の長いサルーキなら優雅に交わせる地熱も、体高が低く顔面がアスファルトに近い俺にとっては灼熱のフライパンの上を歩くようなものだ。低い視界には猛烈な照り返しが容赦なく襲いかかり、首のシワの間に大量の冷や汗が溜まっていく。
「フゴッ……ヒュー……ヒュー……ッ」
気道をヒューヒューと鳴らし、熱中症で意識が飛びそうになるのを必死に堪えながら、俺はようやく目的の年季の入った食堂へ辿り着いた。
注文したのは、奮発して焼肉丼の「上」。
もちろん、店員には「タレにはタマネギのエキスが入っているはずだから、タレは一切かけず、塩と胡椒だけで焼いてくれ」と手慣れた風に付け加えるのを忘れない。消化に時間のかかるホルモンのトッピングは見送った。
そして、もう一品――サイドメニューの『レバ炒め(小)』を、これも塩のみで注文。
運ばれてきたレバ炒めは、モヤシやニラなどの有毒な余計な野菜すら入っていない、純粋に厚切りのレバーだけを香ばしく炒め上げた無骨な一皿だった。
パグの太い指先では、人間のように箸を細かく扱うことはできない。俺は割っていない割り箸を両手の肉球で挟み込み、スコップのようにしてレバーを掬い上げ、口の中へ強引に放り込んだ。
途端に、濃密な鉄分と芳醇な肉のコクが口腔いっぱいに広がった。
人間なら癖が強すぎると敬遠するかもしれない独特の血の香気が、犬型獣人としての俺の本能を激しく揺さぶる。過酷な徒歩と激しいパンティングで水分と塩分を失い、疲弊しきった身体に、命の源泉が直接注入されていくような感覚だ。
「……うまい、塩分が染み渡る……!」
塩だけで焼かれた焼肉丼も、肉の旨味がストレートに米へ染み込んでいる。犬食いスレスレの無様な格好で汗だくになりながら、俺はあっという間に丼とレバ炒めを平らげてしまった。
冷たいお茶を飲み干し、涎と汗にまみれた顔をタオルで拭う。
満腹になった重い胃袋とともに店を出ると、外には相変わらずの容赦ない太陽と、まとわりつくような潮風が待ち構えていた。
「……さて。午後も、泥臭く踏ん張るか」
駅へ戻る帰りの30分を思い、軽く眩暈を覚えながらも、俺は重い革鞄を強く握り直した。
俺の短い巻き尾は、汗ばんだスラックスの裏で、静かに次の火消し現場へと向かっていた。




