1-1 初めてのダンジョン実習
ダンジョン実習の開始日――。
(ついにこの日が来ちゃったよ……)
ステラは身も心も重く引きずりながら、学舎の裏手にある訓練用の人工ダンジョンに向かって歩いていた。
和気あいあいと話をしながら前を歩く三人の男子と一人の女子は、ステラの実習グループのメンバーたち。剣や杖を片手に身軽そうに歩いている彼らの背中を、ステラは恨めしげな目で睨まずにはいられない。
代わりにステラの背中にあるのは、巨大なリュック。詰め込まれているものは、全員分の食料や回復用の魔法薬、寝泊まり用の毛布などなど。
ダンジョンには五階層ごとに地上への転移門があって、いったんそこに到達すれば、いつでもその続きから実習を再開することができる。
一年生が最初の五階層にたどり着くには、平均で一週間ほどかかると言うので、必要物資は余裕をもって十日分。
はっきり言って、一人で運ぶにはかなり重い。
『女の子一人に荷物を持たせるのは……』とためらう人も、『重そうだね。半分持とうか?』と気遣う人も皆無。
この能力至上主義の学園において、性差はまったく考慮されないのだ。
(体力は普通にあるから、運べないこともないけどね!)
実習グループのメンバーは、五クラスから一人ずつ選ばれていて、全員合わせた能力値が平均になるように組まれている。Eクラスでも最弱のステラが組む相手となると、どのクラスでも能力値の高い人たちばかり。
メンバーが集まって初顔合わせをした時、ステラがオールひと桁のステータスを開示したところ、彼らの目から興味は失われた。
『こんなステータスで魔法使いになれるものなの?』
『いてもいなくても関係ないよな』
『頭数をそろえるためにいるんだろ』
ステラは戦闘要員として役に立たないと早々に見切りをつけられて、荷物持ちという役目を担うことになった。
もっとも、どのグループでもEクラスの学生が荷物持ちになるのは恒例らしいので、ステラに限ったことではないのかもしれないが。
その後、何度か行われた打ち合わせでも、メンバー四人が戦略や準備について話している傍ら、ステラはただそこに座っているだけ。完全に空気扱いだった。
こうして実習が始まっても、ステラは荷物を自動で運んでくれる道具のようなものでしかない。
各階層に現れる魔物を倒しながら能力値を上げるというのが、ダンジョン実習の趣旨なのだが――
(これじゃ、何のための実習なのか分からないでしょ!?)
ステラにとっては憂鬱極まりない時間の始まりだった。
二百年前の学園創設当時から百年かけて造られたダンジョンは、苔むした大きな石が積まれた塔の地下にある。その荘厳な塔を見上げれば、悠久の時の流れを感じずにはいられない。
ふもとにある鉄の扉の向こうに、地下一階につながる階段があるという。
扉の前に一年生が全員集合すると、実習担当の女性教師が最後の注意事項の説明を始めた。
すでに何度も繰り返し聞いていた内容なので、これから始まる実習に興奮している学生たちは、おしゃべりの方に夢中だ。
もちろん、ステラもこの扉をくぐるのは初めて。この中に現れるという魔物も書物で知っているだけだ。
いよいよ本物のダンジョンや魔物をこの目で見られると思うと、さすがのステラも興奮に気分が高揚してくる。
「――では、けっして無理はせず、事前の計画通りにダンジョンの攻略を進めてください。半年間の実習を終えて、皆さんの能力値がどれだけ上がっているか、楽しみにしています」
教師の説明が終わると、ダンジョンの錆びついた扉がギギッときしむような音を立てて開かれた。
「まずは第一グループ、入ってください」
教師の合図で第一グループの五人が扉をくぐって、その五分後には第二グループが呼ばれる。
ステラが所属しているのは第五グループ。
待つこと十五分ほどで、「第五グループ、時間です」と声がかかった。
先頭にリーダーのルーカス、続いてエミリー、ジョセフ、ヴァージルと、Aクラスから順に一列に並んで歩いていく。そんなわけで、ステラが扉をくぐるのは最後だ。
(しんがりって、普通は強い人がやるものじゃないの?)
後ろから襲われる可能性を考えていないのか。それとも、ステラが襲われたところで捨て駒としか思っていないのか。
そんなことを考えていると、周囲の薄暗さも相まって、余計にステラの気分は暗く落ちていった。




