第9話:契約交渉
名前:佐伯 豊
レベル:10
HP:102 / 102
MP:406 / 406
力:8
防御:30
魔力:63
魔法防御:37
素早さ:23
ユニークスキル≪ロイヤリティ契約≫
成長補正・追加効果
ロイヤリティ契約(生命・物質)
契約解除
最大同時契約数:7
※現契約数:1
還元率:3%
状態:普通
所持金:0ゼビー
次のレベルまでに必要な経験値:3021
湊に再会した翌日、俺のレベルは無事10に上がっていた。
マウントを取る際に駆除したスロウスタートルの経験値のおかげだ。
エスネアから絶対必要と言われていた契約解除も取得できた。
これでようやく経験値を吸うための依頼を発注できる。
「やっと契約解除できるようになったよ」
「やったー!」
契約解除できるようになったと伝えると、エスネアはまるで自分のことのように喜んだ。
これが他者に投資する人間の価値観なのだろうか?
俺にはよく分からない。
「じゃっ、早速ギルドで契約してくれそうな冒険者を探そうっ!」
「エスネアさん、先に検証させてくれ。契約対象に「生命」も追加されたことだしな」
「ちゃんと距離感を縮めてくれたらね!」
エスネアの言う距離感とは、湊から「さん付け」はやめさせろと言われたことだ。
「分かったよ。エスネア」
「はーい」
俺はエスネアに≪ロイヤリティ契約≫を結んだ後、すぐに契約を解除することを試みた。
「無事解除されたよー」
想定通りの検証結果だ。
これで≪ロイヤリティ契約≫の解消を巡るトラブルは防げるはずだ。
「エスっちー、アタシはあの亀でレベル上げたいんだけどー」
俺たちが盛り上がる一方で、湊は≪ロイヤリティ契約≫にまるで関心がない。
自分がおこぼれに与れるとは思っていないのだろう。
……その認識でいてくれたほうが有難い。
「好きにしてくれていいよ」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「んー?」
「佐伯に貸してた槍をアタシに貸してって言ってるの!」
「え……?」
湊、お前が槍のことを話したの今が初めてだよな?
エスネアが困惑するのは当然だ。
「……昨日言わなかったっけ?」
「私は初めて聞いたよ」
「ごめん。言ってなかったかもしれない」
「貸すのはいいけどさ、失くしたら借金45万ゼビーだからね」
俺はその忠告を受けた記憶がない。
もしかして、エスネアも言ったつもりになっていたのか?
「はぁ!? この槍そんなにするの?」
「槍の本体は安物なんだけどね」
エスネアは俺が借りてた槍を手に取り、データを映し出した。
名前:ソレナリスピア
分類:武器
属性:斬20% 突100%
殺傷力:67
使用制限レベル:21(-20)
所有者:エスネア・ティルミット
耐久度:89
特攻対象:なし
改造効果:使用制限レベル-20
付与効果:なし
備考:なし
「高いのはこの改造効果のせい」
レベル1だった俺がレベル21の武器を使っていた──それが非力な俺でもスロウスタートルをサクサクと駆除できた理由か。
「エスっちすごいじゃーん! こんなこともできるんだー」
≪鑑定≫で共有されたものを初めて見た湊は、映し出された映像に夢中だ。
この調子だとエスネアの話は、耳に入っていないだろう。
「ってことで紛失しないでね!」
「はーい」
雑な返事をした湊はソレナリスピアを片手に、スロウスタートルが群がる街の南へと一人向かっていった。
それから数分後、俺たちも冒険者ギルドに向かうべく家を後にした。
「Sランク冒険者って、一日にどれくらい稼いでいるんだ?」
冒険者ギルドへ向かう道中、俺は依頼の交渉に必要な情報を確認していた。
「人によるよ」
「……じゃあ、どうやって出す報酬を決めるんだ?」
スキルで経験値を吸う依頼に相場などあるはずがない。
だからSランク冒険者の平均的な稼ぎを聞いたのだが、返ってきた答えは求めていたものとは程遠い。
「先に150万ゼビーを提示して、その額に見合った仕事をしてもらえばいいじゃん」
「……ないわ」
見知らぬ冒険者を信頼した上で、全てを任せるなどありえない。
しかもエスネアがこう口にするのは、器が大きいからとは思えない。
単に思考放棄しているだけだ。
「えー、投資してるのは私なんだよ!」
「いや、ちょっと待ってくれ!」
投資した相手に「たったそれだけ?」と言われたら、誰だって何様なんだと腹を立てるだろう。
もちろん俺にそんな意図はないが、エスネアはそう捉えてしまったようだ。
「すまない。文句を言ったわけじゃないんだ」
「じゃあ、どういうこと!」
「お金のことで損したくないし、させたくないんだよ! そのために依頼と報酬の出し方をきっちり練りたいんだ!」
エスネアは非モテの心を掴むのは上手いが、ビジネス的な駆け引きはまるでできていない。
だったら、俺が駆け引きの主導権を握るべきだ。
「そんなこと言っても、佐伯くんはこの世界の常識を知らないじゃん」
「そこはエスネアにサポートを頼みたい」
俺はエスネアの肩に両手を伸ばした。
「う、うん。分かったよ……」
なんとか分かってくれたようだ。
全く、迂闊なことを言うもんじゃないな。
「なら、まずは必要な情報を集めよう」
冒険者ギルドに辿り着いた俺たちは、まず受付嬢にSランク冒険者の平均収入を訊ねた。
しかし、その返答はエスネアと変わらない。
人による──ただ、それだけだ。
個人差がありすぎて、平均収入を調べる価値もないらしい。
「エスネア、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
俺はエスネアを連れて、ギルドの隅へと歩いた。
「≪鑑定≫でSランクと思われる冒険者を教えてくれ」
俺は周囲に聞こえぬよう、エスネアに耳打ちした。
自分自身が≪鑑定≫されていると悟れば、冒険者たちは不快に感じるかもしれないからだ。
「誰もいないよ」
「じゃあAランクでいい」
今回の依頼は直接受注者と対話することが必須だ。
金だけ支払っておけば、いつの間にか完遂してもらえるわけではない。
だったらこちらで受注者候補を絞り、直接取引したほうがいい。
この手順で請け負ってもらえば、待ち合わせの手間を省ける。
しかも、こちらから人材を選べる上に、俺のスキルが周知されにくい利点もある。
正規の手順を踏むよりよっぽど効率的だ。
「あの人と、あの人と、あの人だけだよ」
エスネアは順番に三人の冒険者を指差した。
「みんな数億ゼビー持ってるし、信頼できると思うよ!」
最初から信頼しない前提でいる俺とはえらい違いだな。
「ああ、そうだな。だが、貧乏人相手なら人件費を買い叩けるかもしれない」
「そんな危ない橋を渡ろうとしないでよ!」
「そこまで危ないか?」
「強い貧乏人と関わるなんて危険そのものじゃん!」
「……」
買い叩くことへの反感じゃなくて、強い貧乏人そのものを危険視しているのかよ!
……まあ、間違ってはいないか。
「ところで誰が一番高価な武器を持っている?」
「多分あの人かな」
エスネアが指差した先にいたのは、あまり強そうには見えない優男だ。
「話しかけにくい雰囲気だな」
優男の周囲には取り巻きの若い女が多数おり、気軽に話しかけられる雰囲気ではない。
しかも常に誰かが喋っている状況だ。
「私が話しかければいい?」
「その時は頼むよ」
「はーい」
面倒事を積極的に引き受けてくれるのは、頼もしい限りだ。
俺は受付近くにあった用紙とペンで、ささっと依頼書を書き上げた。
Aランク向けの依頼にしては、報酬額が若干安い。
それでも魅力的な依頼と映る文章に仕上がったはずだ。
その文章が以下の内容だ。
依頼内容
【レベル上げついでにできる簡単なお仕事です】自分のスキルを検証したいので、強力な魔物をたくさん狩ってほしい。
詳細
当方、運用ノウハウが周知されていないユニークスキルの持ち主です。
そのため、数多くの冒険者様に協力いただき、スキルの検証を行いたいと考えております。
当スキルを活用するには強力な魔物をたくさん倒していただく必要があり、そのため高ランクの冒険者様に絞って依頼をお願いしております。
依頼の流れを簡単に説明させていただきます。
まずは冒険者様の武器に私の契約スキルを付与させてください。
スキルの詳細はお伝えできませんが、武器が破損するなどのリスクは確認されていません。
契約対象となる武器は、実際にレベル上げで使うものを選んでください。
そして、その武器で魔物たちにトドメを刺してください。
検証結果はこちらのスキルを通じて確認できますので、冒険者様が管理する必要はありません。
ただし、リアルタイムでその影響を確認したいので、いつ依頼を遂行するか事前に教えていただけると助かります。
依頼を終えた後は契約スキルをすみやかに解除致します。
契約を解消せずに放置した場合、冒険者様自身が損失を被ることになるのでご注意ください。
その場合に発生した損失は、こちらで責任を負いかねます。
報酬
30万ゼビー。
「佐伯くんって商人をやってたの?」
「いや、やってないけど」
「ほんとに?」
「……何でそんなに疑念を向けられてるんだ?」
「だって佐伯くんの文章って、私が取引してる商人さんみたいなんだもん」
利用規約を真似た文章は、いくら何でも硬くなりすぎたか。
とはいえ、その文章が原因で機会を失うとは思えない。
このままでいいだろう。
「とりあえずこの文面に問題はないか?」
「うん。大丈夫だと思う」
「じゃああの優男に話しかけてくれ。肝心な部分は俺が話す」
「分かった」
いよいよ交渉の時間だ。
俺が緊張をほぐすために深呼吸をする傍ら、エスネアは何の迷いもなくターゲットに話しかけていた。
「ロジー・ハーゲットさーん。あなたにお願いしたい依頼があるんですが、よろしいでしょうか?」
「え、ああ」
エスネアに話しかけられたロジーは、困惑した様子で返答した。
見知らぬ相手に突然フルネームで呼ばれたら誰だって焦る。
それはロジーの取り巻きも同様だった。
「佐伯くん、依頼書を見せてあげて」
「えーっと、こちらになります」
俺は先程書いた依頼書をロジーに見せた。
「へぇ、付与術師タイプのスキルか」
……だいぶ違う気がする。
ただ、悪印象を持たれなかったのは有難い。
「なんか怪しくない?」
「見たことない人たちだけど、手慣れてそうよね」
「ロジーさぁん、やめておきましょうよ」
ロジーの取り巻きも、俺の文章を読んで商人と勘違いしているように見える。
実際は手慣れているどころか、転移してから数日の世間知らずなんだけどな。
「そもそも何でロジーさんに声を掛けたのよ?」
「私も知らないフルネームを知ってたし、ストーカーでしょ!」
その疑問が湧くのは当たり前だ。
まさか勝手に≪鑑定≫で情報を覗きながら、そのことを隠そうともしない人間がいるとは思うまい。
「まあまあ、みんな落ち着いて」
ロジーは優しい口調で取り巻きの女たちを鎮めた。
「僕に依頼した理由を聞かせてもらっていいかな?」
「はい、理由は極めてシンプルです」
「へぇ」
「この場にいる冒険者の中で、一番強いと判断したからです」
「ははははっ、僕が強そうに見えるかい?」
見た目で判断したら、正直強そうには見えない。
「君は≪鑑定≫の所有者かな?」
≪鑑定≫されていたことをすぐに看破するとは、さすがはAランク冒険者だ。
だが惜しかったな!
≪鑑定≫していたのはエスネアだよ!
「≪鑑定≫は私のスキルだよ」
取り巻きたちは一斉にエスネアのほうを向き、顔をこわばらせた。
勝手にロジーを≪鑑定≫されたことが、不快でたまらないようだ。
「あっははは、まさか二人ともスキル持ちとは驚いたよ」
その一方でロジーは笑いながら返答した。
余裕のある証拠だ。
「初歩的なものなら錬金術も使えるよ」
「多芸だね」
「えへっ!」
愛嬌を振りまきながら自己アピールをするエスネアに対し、取り巻きの女たちはさらに苛立つ様子を見せていた。
エスネアの若さと才能に嫉妬しているのが丸分かりだ。
「依頼のほうは受けてくれますか?」
不快感を露わにする取り巻きがいる中で、いつまでも雑談を続けたくない。
さっさと受けるか受けないかの結論を出してくれ。
「快く引き受けよう」
「ありがとうございます。それではレベル上げに使う武器と契約させてください」
「分かった。やってくれ」
俺はロジーの取り出した剣に≪ロイヤリティ契約≫を結んだ。
「エスネア、一応契約が結ばれたか確認してくれ」
「大丈夫だよ」
エスネアの≪鑑定≫によって、契約が結ばれたことは無事確認できた。
還元率は3%とはいえ、相手はAランク冒険者だ。
かなりの経験値を獲得できることは間違いない。
どれだけの勢いでレベルが上がるのか、楽しみだ!




