第10話:急成長
ロジーの剣に≪ロイヤリティ契約≫を結んだ二日後、俺たちは三人でエスネアの個室に集まっていた。
今日はロジーが依頼をこなすと約束した日──つまり俺に膨大な経験値が還元される日だ。
還元率は3%とはいえ、急成長が期待できる。
その過程を観測するため、エスネアはずっと俺のステータスを映し出していた。
三人横に並んでベッドの上に座る。
まるで友人の家で一緒にゲームをするみたいだ。
「あれ、もうレベル上がってない?」
「3レベルは上がってるよね」
「目的地に辿り着かずとも、魔物はいるからな」
「つーか佐伯はほんと非力だよな」
「うるせーよ!」
俺の力はレベル13になった今でも9しかない。
そんな俺に対して湊の力はレベル1の時点で25はあったはずだ。
そりゃ笑いたくもなる。
「エスネアはずっとステータス共有してて大丈夫なのか?」
ホログラムのように映し出された俺のステータスは、エスネアの≪鑑定≫によるものだ。
長時間使い続ければ、身体への負荷だって大きいはずだ。
「何が?」
「ずっと共有してたら、身体にかかる負荷が大きいだろ?」
「大丈夫、大丈夫! 疲れたら佐伯くんが癒してくれるって信じてるから!」
精神疲労ならともかく、肉体疲労の回復に必要なのは休息だよ!
……でもその事実をストレートに伝えたら、雰囲気をぶち壊すことは間違いない。
そのくらいは恋愛偏差値の低い俺だって分かる。
問題はどうやって返答すればいいか、分からないんだよな。
このままだと無視したことになってしまうのだが……
「ほーら!」
返答に迷っていた俺に、湊がわざとらしくもたれかかってきた。
しかも押し倒す勢いだ。
「おわっ!」
「えぇっ!」
押し出された俺の身体はエスネアを巻き込んで、ベッドの上で一緒に体勢を崩してしまった。
「いきなり何やってんだよ!」
俺一人に対してならともかく、エスネアを巻き込むな!
「佐伯がださすぎるから、助けてやったんじゃん」
「えっ……」
意地悪な悪戯ではなく、助け舟を出されていたのか……
さすがに恥ずかしい。
「もう! 押し倒す時間はまだだよ!」
「あ、ああ……」
今の状況はまさにハーレム系の物語で見る展開だ。
けれど適切な返答ができずに焦った挙句、助け舟を出されて恥ずかしい思いをしている。
理想を思い描いたワンシーンのような体験をしているのに、俺はこの状況に今後耐えられるかと不安になっている。
なんというか、すごい勿体ない。
後で湊に非モテマインド改善の訓練を頼むべきか……
「あれっ、何で佐伯くんのMPがこんなに失われてるの?」
「ぷっ!」
減少した俺のMPを見た湊は、笑いを抑えきれずに吹き出した。
思う存分笑ってくれ。
心配されるよりはよっぽどいい。
「ロジーがレベル上げを始めるまで、休んでていい?」
今の一瞬で、俺はどっと疲れてしまったよ。
一度精神をリラックスさせたい。
「いいよ。膝枕する?」
「それじゃ遠慮なく!」
こういう誘惑ならどんどんやってくれ!
身体を寄せるだけで気持ちよくなれるコミュニケーションは簡単だからな。
「あっ、始まったよ!」
だが、それから一分もしないうちに俺のステータスが動き出した。
ロジーが魔物討伐を始めたのだろう。
さすがにタイミングが悪すぎる。
「おいおい、嘘だろ!」
俺は次々更新されていくステータスに思わず声を上げた。
さっきまでレベル13だったのに、もう20を超えている。
あり得ないペースだ。
「ようやく俺の異世界生活が軌道に乗るんだな」
≪ロイヤリティ契約≫を活かして、異世界生活を軌道に乗せる。
ようやくその第一歩を踏み出したのだ。
収入こそまだ安定しないが、この勢いでレベルが上がれば冒険者として最低限認められるくらいにはなる。
そうすれば、エスネアに依存しきった状態から脱せるわけだ。
25、28、31、33──ただ自分のステータスを眺めているだけで、次々とレベルが上がっていく。
まるで買い需要が高まった株価の値動きを見ているようだ。
レベル39、ついにはエスネアのレベルをも上回った。
還元率はたった3%だ。
それなのにこれほどサクサクとレベルが上がるのはさすがにやばい。
数時間が経過すると、俺のステータスは微動だにしなくなった。
ロジーはもう十分仕事したと判断したのだろう。
「還元率3%でもこれだけレベルが上がったのに、12%ってやばくない?」
レベルアップを続けた俺の最大還元率は12%にまで成長した。
これは単純に還元される経験値が、4倍に膨れ上がったことになる。
普通に考えてやばすぎる。
王宮のクズどもはこんな俺を役立たずだと決めつけて手放したんだ。
愚かすぎて笑えてくるよ。
名前:佐伯 豊
レベル:51
HP:459 / 459
MP:1295 / 1295
力:17
防御:109
魔力:218
魔法防御:112
素早さ:53
ユニークスキル≪ロイヤリティ契約≫
成長補正・追加効果
ロイヤリティ契約(生命・物質)
契約解除(遠隔)
還元率調整
還元要素調整
最大同時契約数:25
※現契約数:2
最大還元率:12%
状態:普通
所持金:0ゼビー
次のレベルまでに必要な経験値:2,098,881
これが今の俺のステータスだ。
HP、力、素早さ以外はエスネアを上回った。
これならもう冒険者として肩を並べられるはずだ。
新たに覚えた追加スキルはいずれも地味だが、有難いものが揃っていた。
契約解除の遠隔化が便利なのは言うまでもない。
仮に解除したい契約対象が行方不明になっても、遠方から対処できるのだ。
最大同時契約数の枠を無意味に埋め続けることはなくなる。
還元率の調整は契約対象に感づかれにくくなるのが主な利点だ。
仮に契約対象が経験値を100%還元していたら、どんな鈍感な人間でもおかしいことに気づく。
逆に1%だったら気づかれるとは思えないが、経験値はほとんど入らない。
このバランスを自分で管理できるのは大きい。
要素の調整は「経験値だけ還元してほしい」「お金だけ還元してほしい」といったときに有効だ。
経験値と違って、お金は還元されていればすぐに気づく。
俺のスキルの正体を感づかせないためにも、還元要素は限定したほうがいい。
「これだけレベル上がっても魔法は覚えねぇんだな」
湊の言葉が浮かれていた俺に突き刺さる。
ほんと、何で俺は魔力とMPは高いのに魔法が使えないままなんだ?
「それは仕方ないよ。魔法はレベルで覚えるものじゃないもん」
「じゃあどうやれば覚えられるんだ?」
俺はエスネアに疑問をぶつけた。
魔法がレベルで覚えるものじゃないなら、まだ俺にだって可能性は残されている。
ただ、あまり期待はしていない。
すぐに覚えられるなら、エスネアが今まで黙っていたとは思えないからだ。
「方法は二つあるけど、現実的なのはマジックオーブを取り込むことだよ」
「マジックオーブか。思念ダンジョンのコアを素材に作るんだったな?」
「うん、よく覚えてたね」
金になりそうな話だったからな。
「じゃあ、素材を集めたときはエスネアに作成を頼むよ」
「……」
「どうした?」
「完成品を直接買ったほうが早いよ! うん、絶対そのほうがいい!」
技量が足りなくて作れないのを誤魔化したな……
でもエスネアの主張は正しいはずだ。
地球ではみんな仕事で稼いだ金を使って、食料や日用品を買い揃えている。
それはこの世界だって同じはずだ。
自分のできることで稼いで、それ以外はお金で買い揃える。
これが最大効率となる行動だ。
自作にこだわるのは時間の無駄でしかない。
「マジックオーブを買うなら、いくらになるんだ?」
「安売りされているときでも1500万ゼビーはするよ」
「たっか!」
「安いわけないじゃん! 安かったら私だってバンバン魔法を使ってるもん!」
「はははっ、それはそうだな」
俺の≪ロイヤリティ契約≫を活かせば、1500万ゼビーを稼ぐことだって夢じゃない。
とはいえ、俺はまだこの世界に来てから1ゼビーも稼げてないんだけどな。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
1章はここまでになります。
2章ではお金の話が中心になる予定です。




