第5話:本格スキル検証
「今日は商談の予定があるんだけど、佐伯くんも一緒にくる?」
「興味はあるけど、今日はスキルの検証をしたい」
計算の苦手なエスネアは、商談で損している可能性がある。
彼女のことを思えば、近くで見ていたほうがいいだろう。
だが、今の俺はスキルを検証したい衝動に支配されていた。
≪ロイヤリティ契約≫は発動しても気づかれにくい。
この特性を活かせば、王宮を対象にしても気づかれないはずだ。
税金は王宮を利用して徴収したわけではないが、掠め取れる可能性は十分ある。
まるで怪しいwebサイト上で横行する犯罪行為だが、相手が王宮のクズどもなら何の問題もない。
むしろ称賛されるべきだ。
それに2%の還元率なら、しばらくは気づかれないだろう。
──と考えていたが、その企みを実行できなかった。
王宮を警備する兵士たちによって、足止めされてしまったからだ。
追放された俺は王宮に入る資格がないらしい。
……まあ、妥当な判断だ。
王宮を諦めた俺は、次に高級武具屋を狙った。
この店の店主に罪はないが、善悪判断など二の次でいい。
まずは自分の利益最優先だ。
「ん?」
武具屋の外壁に触れて≪ロイヤリティ契約≫を発動した時、何か弾かれるような違和感があった。
もしかしたら、失敗したのかもしれない。
俺は店内に入って、会計をしようとする客の姿を注視した。
店に収益が入る瞬間を──すなわち還元されるタイミングを把握するためだ。
注視していた客は会計を終えた。
だが、俺の手元には1ゼビーも入ってこない。
やはり失敗したのだろうか?
それとも別のどこかに管理されているのだろうか?
……その答えは自分のステータスを開けば分かるか。
俺は一旦店の外に出て、自分のステータスを確認した。
名前:佐伯 豊
レベル:5
HP:75 / 75
MP:303 / 303
力:6
防御:22
魔力:47
魔法防御:28
素早さ:19
ユニークスキル≪ロイヤリティ契約≫
成長補正・追加効果
ロイヤリティ契約(物)
同時最大契約数:5
※現契約数:1
還元率:2%
状態:普通
所持金:0ゼビー
次のレベルまでに必要な経験値:274
所持金は0ゼビーのままだ。
今回は新たに現契約数が追加されており、「1」と数字が刻まれている。
だが、その1はエスネアのクレセントスピアだろう。
武具屋の店舗には≪ロイヤリティ契約≫を結べなかったと考えて間違いない。
何か理由があるのだろうか?
冒険者ギルドの建物であっても、同じように≪ロイヤリティ契約≫は失敗した。
依頼が貼り出されていた掲示板であっても結果は変わらない。
契約対象の規模によって、成否が決まるわけではないようだ。
少なくとも掲示板よりは、昨日契約したクレセントスピアのほうが大きい。
契約に成功したものもある。
それは道端に落ちていた木の枝だ。
当然ながら何の役にも立たない。
同時に契約できる対象は5枠だけだ。
そのうちの1枠を無意味に埋めておくわけにはいかない。
さっさと解除するに限る。
「……これ、どうやって解除するんだ?」
契約を解除する方法が分からない。
試行錯誤の末に契約解除できたが、その方法は枝を何度も折った結果だ。
契約対象が死んだから、解除されたようなものだろう。
真っ当な方法とは言い難い。
今日の検証はそう上手くいかないことが分かっただけだ。
これも成長への一歩とはいえ、軌道に乗るのはまだまだ先らしい。
「お、元気そうじゃないか」
検証を終えて帰る途中、俺はクラスメイトの片浜 智成に遭遇した。
彼は良くも悪くも目立たない男だ。
「運良く拾ってもらえたからな」
「湊さんと葛葉はどうしてる?」
「湊さんとはあれから出会ってない。日之影は盗み食いしてたから、通報してやったよ」
「佐伯って、容赦ないよな……」
「あいつには腹が立ってたんだよ」
「……」
一応冷酷な正義感ではないと弁解したが、片浜は依然として引き気味だった。
これはもう価値観が違うのだから、どうしようもない。
「ところで王宮組はどうしてる?」
大した情報じゃないとはいえ、一応情報提供はしたんだ。
俺だって知る権利はある。
「小川さんは釈放されて、今は僕たちと同じように活動してる」
処刑は免れたか。
「あとはアーリヤさんが、僕たちと意思疎通できるようになったよ」
「スキルの影響か?」
「うーん、それは分からない」
外国籍の両親を持つアーリヤ・ラシェードは、全くと言っていいほど日本語を話せない。
そのため、学内でコミュニケーションを取れる者はほとんどいなかった。
それでも俺たちと同じ高校に入学できたのは、外国人枠を活用したからだ。
「僕たちだって異世界の人と会話できてるんだ。スキルとは違う何か不思議な力が働いてるんじゃない?」
「かもしれないな」
片浜の言うことにも一理ある。
「王宮では何をやってるんだ?」
「大体のクラスメイトは基礎訓練を受けてるよ」
何人か例外はいるようだが、大半のクラスメイトはロイゼンの兵隊として教育されるようだ。
どうせ最後は捨て駒にされるのだろう。
「捨て駒にされる前に抜け出せよ」
「……そうだね」
俺は親切心で言ったつもりだが、片浜の表情は引きつっていた。
今まで捨て駒にされる可能性を考えてこなかったのだろう。
情報交換を終えた俺は、片浜と別れてエスネアの家に帰宅した。
「おかえりー!」
「ただいま」
エスネアはすでに商談を終えて帰宅していた。
それなりに上手くいったらしい。
「検証はどうだった?」
「残念ながら、上手くいかなかったよ」
俺は王宮やギルドを狙ったことは伏せて、建物を狙ったとだけ説明した。
危険な橋を渡っていると思われたくない。
「何であの槍だけ≪ロイヤリティ契約≫を結べたんだろうな」
「もしかして、私が許可したからじゃない?」
「あり得るな」
俺のスキルは≪ロイヤリティ"契約"≫なのだ。
文字通りに考えたら、所有者の許可が必要になる。
道端に落ちていた枝と契約できたのは所有者がいなかった──もしくは拾った時点で所有者と見なされたからだろう。
「許可の有無で結果が変わるかどうか、エスネアさんの所有物で試していいか?」
「ここで私が「うん」って言ったら、許可したことになるよね?」
「それはそうだな」
"許可"の検証って本当に面倒臭いな。
ただ、エスネアの家には丁度良い検証対象がたくさんあった。
それは捨てていないだけのゴミだ。
解除できない契約である以上、燃やすなどして処分できたほうがいい。
さらに勝手に契約を結んでも、エスネアが迷惑することはない。
捨てていないだけのゴミは、この二点を完璧に満たしていた。
エスネアのだらしなさが、意外な形で役立ったのだ。
……それでも、もう少し片付けたほうがいいと思う。




