第3話:≪鑑定≫と誘惑
屋台が立ち並ぶエリアを離れた俺は、特に人の集まる商業区へと足を延ばしていた。
人の集まる場所なら、金も集まる。
当然仕事も集まる。
だからこそ、俺はこのエリアで仕事を探すことに決めた。
その目的で商業区を歩き回っていると、一人の見知らぬ少女が俺に声をかけてきた。
「ねぇねぇ、私に付き合ってくれない?」
その少女は甘カワなファッションが印象的で、頭には大きなリボンを付けていた。
幼い顔立ちで積極的に誘ってくる彼女は、まるで童貞キラーだ。
「悪いが、今はそれどころじゃ……」
今は生活の基盤を整えるのが最優先だ。
可愛い女の子に誘われたのは嬉しいが、遊んでいる場合ではない。
「お金がなくて、食事に困ってるんだよね?」
「どうして分かる?」
「≪鑑定≫で覗かせてもらっちゃった♪」
≪鑑定≫はラノベで定番スキルの一つだが、アイテムの特徴や性能を知るためのものだ。
しかしその使い方は、俺が知っているものとは違った。
「人の心を読み取れるのか?」
もし、可能なら仕事探しを手伝ってもらいたい。
「さすがにそれは無理だよ!」
「えぇっ、じゃあどうやって言い当てたんだよ?」
「これを見れば分かると思うよ!」
彼女は発光する球体を宙に浮かべた。
その球体は次の瞬間、ホログラムのように映し出されたデータへと変わった。
名前:エスネア・ティルミット
レベル:38
HP:460 / 460
MP:725 / 725
力:110
防御:63
魔力:128
魔法防御:51
素早さ:84
スキル≪鑑定≫
成長補正・追加効果
・鑑定(全対象)
・データ共有
・オート鑑定(簡易)
特殊技能:錬金術
技能レベル:8
解放レシピ:金属加工(初級) 糸の加工(初級) 皮の加工(初級) 薬品の加工(初級)
状態:普通
所持金:約200万ゼビー
その他:なし
次のレベルまでに必要な経験値:320,950
この光景はスキル検査を受けた時に見たものと同じだ。
しかもあの時は表示されなかった項目まで追加されている。
「こんな風に佐伯くんのステータスも覗かせてもらったんだ」
「なるほどな」
ステータスを覗けば、名前が表示される。
だから名前を知っていたことは、もはや驚くに値しない。
「それで何で自分のステータスを公開したんだ?」
「自己紹介がめんどくさいじゃん!」
……結構雑な性格だな。
レベルは38。
冒険者ギルドで聞いた話と照らし合わせれば、Eランク冒険者の資格を持っていても不思議ではない。
さらに錬金術まで扱うことができる。
これだけ多才ならば、食うに困ることはないだろう。
「ちなみに王宮のスキル検査装置は、錬金術で鑑定スキルを再現したものだからね」
「俺の疑問をさらっと先読みしたな」
「えへっ」
俺はスキル検査装置のことに全く触れていない。
それなのにエスネアが装置のことに触れたのは、俺がここにいる経緯を把握しているからだろう。
つまり転移者であることはもちろん、追放されたことまでお見通しなわけだ。
「自己紹介も終えたことだし、私に付き合ってくれるよね? ねっ?」
エスネアは人の思考を見透かしたように話す一方で、相手の理解を待たない節がある。
≪鑑定≫に依存した対話を繰り返してきたためだろう。
「いや、ちょっと待て! 先に目的を聞かせてくれ」
「先行投資だよ」
「俺の≪ロイヤリティ契約≫に目を付けたのか?」
「そうそうっ、そういうこと!」
相手の特性に目を付けて誘うその手口は、まるで詐欺師のセールストークだ。
それでも俺は彼女の誘いに乗った。
収入を得る貴重なチャンスと思ったからだ。
「じゃっ、付いてきてっ!」
「分かった」
連れられて向かった先は街外れの小さな家だった。
室内にはゴミが散乱しており、大きな錬金釜が部屋を圧迫するように置かれていた。
人を招くつもりだったとは思えない。
「一人で暮らしているのか?」
「うん!」
エスネアは悲壮感を全く感じさせない。
両親に不幸があったわけではなく、自分から決別したのだろう。
「とりあえず一緒にご飯食べよっ?」
「あ、ああ……」
俺はようやく食事にありつけた。
しかも可愛い女の子と一緒だ。
後は部屋が綺麗だったら、完璧だったんだけどな。




