第28話:寂れた村で買い叩かれる鉱石資源
「この前ヘズンに行った時、気になったんだが……」
「どうしたの?」
「ヘズンに向かう道中、街道を左に曲がったらどこに辿り着くんだ?」
ある日の朝、俺はロイゼン南の街道から続く行き先をエスネアに訊ねていた。
「ミスラ村だよ」
「なら、今日はそのミスラ村とやらに行ってみるか」
村というからには住んでいる人は少ないと分かりきっている。
人の少ない場所には当然お金も集まらない。
そう考えると、あまり価値のない場所かもしれない。
ただ、生活拠点にしているロイゼンのすぐ近くなんだ。
どんな場所か、そのくらいは知っておいたほうがいい。
ミスラへ向かう途中、ゴブリンたちが幾度となく襲い掛かってきた。
街道を歩いていれば、魔物に襲われにくいって話だったんだけどな。
「このあたりの魔物は街道を歩いていてもお構いなしなんだな」
もっとも今更苦戦するような相手ではない。
「ゴブリンの分類は一応亜人だよ。佐伯くんも覚えておいてね」
「一応?」
「うん、一応。みんな亜人も魔物扱いしてるから」
だったら何でエスネアはわざわざ訂正したんだよ!
冒険者ギルドの昇格試験にでも出題されるのか?
ちなみに亜人の定義は好戦的な種族、かつ二足歩行をする、人間と同じ言葉を喋る、道具を扱うのいずれかに該当するものらしい。
オークやコボルトはもちろんのこと、サキュバスやネコマタなんかも亜人に分類されるようだ。
めんどくさいから魔物扱いしておくけどな。
ミスラに続く道が厄介なのは魔物だけではない。
整備されているとはいえ、坂道や段差が多い。
おまけにミスラは未だに見えてこない。
はっきり言って魔物と戦うよりも、長時間歩くことのほうがよっぽど大変だ。
「もー、しんどいんだけど。ミスラまでまだー?」
俺はもちろんのこと、湊もすでに疲れ気味だ。
「そろそろ着くよ」
エスネアはまだまだ余裕そうだ。
「ぐしゃぁぁぁぁ」
今度はゾンビの群れが襲ってきた。
エスネアによれば、これまでの雑魚と大差ないらしい。
だが、個人的には戦いたくない。
何せ相手はゾンビだ。
他の魔物より毒性の高い病原菌を撒き散らすとしか思えない。
というか、こいつらを22万ゼビーもしたフルメタルウィップで叩きたくない。
「逃げてもいいか?」
レベル92の俺にとっちゃ、どうせ大した経験値にもならないんだ。
わざわざ倒す意味がない。
「何で逃げるの?」
「いつもの潔癖症だよ」
エスネアの前では、もう潔癖症と開き直ったほうがいいだろう。
一々突っ込まれるのも面倒だからな。
「うーん、でも結構良い経験値だよ。特にまだレベルの低い愛華さんにはね」
「じゃあ湊さん、こいつらの処理は頼むわ」
「えー……」
湊は思念ダンジョンにいた地を這うゾンビなら、散々倒しまわっていただろ!
若干雰囲気は違うけど、今回だけ嫌がるのはよく分からん。
まっ、レベル上げには必要な過程だ。
頑張ってくれ。
「≪メイクアップ≫」
……何でいきなり変身したんだよ。
甘カワなファッションと、頭に付けられた大きなリボン。
この格好は明らかにエスネアを真似ている。
「佐伯くんのことは私が守るからね」
湊はなぜかエスネアになりきって、ゾンビたちを突き刺していく。
その行為に意味はあるのか?
「何してるんだ?」
「スキルで生成した武器なら、後で手入れしなくて済むじゃん」
武器を汚したくないから、エスネアの真似をしながら戦ったのか。
良い発想だとは思うけど、エスネアの疑似スキルを使わないなら真似しなくてもいいだろ。
しかも演技がヘタクソだ。
ちなみにスキルで生成した武器の殺傷力は0だ。
そのため、普通に倒すよりもずっと効率が悪い。
「ふーっ、やっと着いたー!」
数々の魔物を倒しながら、俺たちはようやくミスラへと辿り着いた。
奥には鉱山があり、採掘拠点として成り立った村のように見える。
鉱夫と思われる人々の姿もあったが、その表情は皆暗い。
少なくとも一発当てて一攫千金を、という雰囲気ではない。
「疲れたし、さっさと宿を探そう」
「そうだな」
村の調査は明日やればいい。
今日はとりあえず休もう。
「あら、お泊りですか?」
「はい」
「三人で2400ゼビーとなりますが、よろしいですか?」
「大丈夫です」
ロイゼンの宿代は一人あたり2000ゼビーは取られるのに、ミスラでは800ゼビーで済むのか。
そこまで離れているわけじゃないのに、価格が違い過ぎる。
提供される食事の量こそ少なかったが、宿のサービスは決して悪くない。
安いのは有難いが、もう少しお金を取ってもいいんじゃないか?
ミスラで一泊した翌朝、俺たちは市場調査から始めた。
村の奥に採掘場があるため、鉱石の価格が安いのは当たり前だ。
だが、いくら何でも安すぎる。
全ての鉱石価格を把握しているわけじゃないが、大半が5割以上安く売られている。
交通の便が悪いだけで、ここまで物価に違いが出るのか?
「お、お願いします。これでも我々は限界で……」
近くから悲痛な様子で訴える老人の声が聞こえてきた。
何かあったのだろうか?
「少し気になるな」
「村の奥で言い争ってること?」
「ああ」
「揉め事は佐伯にとっての契約チャンスだもんね」
湊は俺を悪魔みたいな扱いしやがって!
……でも契約のチャンスだと思っているのは否定できない。
「とりあえず近づこう」
俺たちは聞き耳を立てるため、近くの物陰に身を潜めた。
「鉱石はロイゼンやヘズンのほうでも余ってるんだよ。それでも仕入れてやってるんだから有難く思え!」
「そんなことを言われてもこれじゃ生活が……」
偉そうな小太りの男は行商人のようだ。
ミスラに立ち寄る人々が少ないことを利用して、鉱石を安く買い叩いているらしい。
追い詰められている痩せ細った老人は、恐らくこの村の村長だろう。
「俺はわざわざこんな辺鄙な村にまで足を運んでいるんだ。その時間にどれほどの価値があるのか分かっているのか?」
この偉そうなおっさんこそ、鉱夫たちの時間の価値を考えていないだろ?
「エスネア、あの行商人のレベルと資産はどのくらいだ?」
「レベルは84で、資産は約3500万ゼビーあるよ」
「行商人にしてはかなり強いな」
一応俺のほうがレベルは高いが、装備を加味したらあの行商人のほうが格上だ。
下手にトラブルを起こすべきではない。
しかも相手はかなりの資産を持っている。
仮に殴り合いで勝てたとしても、今度は傭兵を連れてくる可能性も否定できない。
「あの行商人が帰るまで待つか」
俺たちは行商人が帰る姿を確認すると、すぐさま村長らしき老人から話を聞くことにした。
「ちょっといいですか?」
「は、はぁ…… 何でしょう?」
「あの行商人はどれだけ安く鉱石を買い叩いたんですか?」
「み、見ておられたのですか」
「はい。ビジネスの花が咲いてる気がしたので」
……期待を持たせるために商人っぽく気取ったつもりだが、これじゃ半分詩人だな。
さすがにセンスのない言葉選びをしたと思う。
「び、ビジネスの花ですか……」
案の定、変な印象を与えてしまったよ。
「とりあえず要求価格だけでも教えてくれませんか?」
「こちらがハイランド殿が要求してきた買い取り価格の一覧です」
「……」
さすがにあり得ないだろ。
これじゃロイゼンの市場価格の10%にも満たない。
完全に舐められているよ。
「じゃあ、不偏石と、天王石と、始原石を合計で10キロ分、ハイランドの提示した倍の価格で買い取ります」
「あ、ありがとうございます」
比較的高価格で取引される鉱石三種、これだけ買っても合計で約15万ゼビーだ。
これをロイゼンに持ち帰れば、約90万ゼビーは稼げる計算だ。
自分で露店を開かず、中間業者に流すだけでも30万ゼビーは堅いだろう。
買わない理由はない。
もはや鉱石の運送をやっているだけで余裕で生活できるレベルだ。
とはいえ、ロイゼンとミスラを何度も行き来したくはない。
それに俺は自分の人生を楽しむため、日々の生活を同じことの繰り返しにしないと決めたんだ。
ならば結論は一つしかない。
この仕事は九葉にやらせよう!




