第24話:住居のリスクヘッジを考えて
九葉はFランク冒険者として認められたが、その立場は依然として危うい。
今の九葉は脱走兵も同然だからだ。
しかも脱走したのは、マジックオーブを取り込んでしまった翌日。
バカでも関連性を疑うだろう。
「九葉、お前はその制服を売り払ったほうがいい」
事情を知っている者なら、制服を着ているだけで転移者だと察しが付く。
つまり今も制服で活動している九葉は、国に捕らえてくださいとアピールしているようなものだ。
「へっ?」
「佐伯は葉っぱの裸を見たいの?」
「絶対に言うと思ったよ」
もし立場が逆で、湊が制服を売り払うべきだと提案していたら、その時は俺が同じボケをかましていた気がする。
それくらい陳腐な茶化し方だ。
「俺が言いたいのは国に捕まらないよう、転移者という属性自体を隠せってことだよ」
「ああ、うん、そうだよな」
制服を着ているのは、転移者である可能性が高い。
九葉はこの理屈を理解していない気もするが、行動にさえ移してくれれば問題はない。
あとは手持ちの資金と相談して、目立たない服装を選ぶだけだ。
服の選択までサポートしなくてもいいだろう。
「あとは良さそうな仕事があったら、お前に斡旋することにする」
善意で仕事を斡旋するつもりはない。
人を雇えば稼げそうな時に、九葉を頼りたいと思っただけだ。
九葉は魔力が低いとはいえ、火属性魔法が使える。
サッカー部に所属していただけあって、肉体労働との相性はバッチリだ。
雇用者側の視点で考えれば、役立つことは間違いない。
若干人間性に問題はあるが、起用する場面さえ選べば問題ない。
「おお、その時は頼むよ」
俺の≪ロイヤリティ契約≫は人脈を広げる手段にはなり得ない。
けれども俺はこのスキルがなかったら、九葉と人脈を築くこともなかっただろう。
才能があるからこそ、九葉を上手く起用できるという自信に繋がったのだ。
だからこそ富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなるという現実を実感するよ。
「ああ、上手く生き延びろよ」
「互いにな!」
俺は九葉に別れを告げると、エスネアたちと共に帰宅した。
そして今日のことを振り返り、自分の中で得た感触の余韻に浸っていた。
九葉とは元々仲が良かったわけではない。
ただ、今日はあいつと話していて楽しかった。
その理由も分かっている。
まるで自分の思い通りにコントロールできたからだ。
マイペースな俺はよく周囲から、協調性や社交性がないと言われていた。
日之影ほどではないが、社会不適合者の自覚もあった。
そのため、将来社会人として生きる約40年間に悲観的だったが、九葉と話していて分かったことがある。
雇う側として人間関係を築くのは案外楽しいってことだ。
「おやすみー」
「ああ、おやすみ」
俺たちはいつものようにエスネアの家で夜を過ごすと、翌日は再びロイゼンの外へと足を延ばしていた。
その目的はロイゼン以外の街や村を視察するためだ。
国の上層部は無能なクズばかり。
財政悪化を理由に、国民への負担を強いることだって想像できる。
それに契約を迫り、搾取しようとする俺の行いは法的にグレーゾーンだ。
九葉のようにロイゼンでの立場が危うくなる可能性も否定できない。
だからこそ、俺は他の街や村をもっと知りたかった。
安心して生活できる拠点を増やしたいからだ。
今日向かう先は、ロイゼンの南にある街だ。
ロイゼンの南口から続く街道を真っ直ぐに歩けば、約1時間で辿り着くらしい。
「あっ、そうだ。佐伯くんはヘズンのことをどれくらい知ってるんだっけ?」
「ヘズンって誰だ?」
エスネアはまず「ヘズンって知ってる?」という質問から始めてくれ。
共有している前提の知識レベルがワンランク高いよ。
「人の名前じゃなくて、今向かってる街の名前だよ!」
……とはいえ、これから向かう街の名前なら、把握していると思われても仕方がないか。
俺が街の名前に無関心過ぎたよ。
「とりあえず何も知らないってことでおっけー?」
「ああ」
「うん」
湊も俺に続いて返事をする。
彼女もヘズンという街の名前を知らずにいたようだ。
「じゃあ、ちょこっとだけ注意点を説明させてね」
「ああ、頼むよ」
エスネアはヘズンの複雑な政治体制について説明してくれた。
彼女によるとヘズンは三つの区画に分かれていて、それぞれ微妙に異なる法律が整備されている。
各区画ごとに統治者が異なるためだ。
このことを踏まえて、エスネアに注意を受けたのは契約のことだ。
三つの区画のうち一つは、商売をするなら許可を得なければならない。
また別の区画では街頭勧誘が禁じられている。
つまり俺の≪ロイヤリティ契約≫を迫る行為は、二つの区画で法律に抵触してしまうわけだ。
しかも各区画を統治する貴族たちは、いずれも厳しく取り締まるよう指示を出している。
迂闊なことはできない。
ヘズンに辿り着いた俺たちは、エスネアの案内で街全体を歩き回った。
三つの区画のうち、一つ目の区画は仲間意識や縄張り意識が強い。
良くも悪くも村社会を思わせる。
二つ目の区画は統治者の貴族を崇拝する民が多い。
ノブレス・オブリージュの精神に満ちた貴族なのだろう。
なんというか、この世界の貴族とはイメージがかけ離れている。
三つ目の区画は商売が盛んで活気づいていた。
冒険者ギルドもこの区画にだけ存在しており、俺たちがヘズンで生活するならこの区画が一番好都合だ。
ただ、ギラついた人間が多く、若干居心地が悪い。
ヘズンの街を巡り終えると、辺りは日が沈みかけていた。
そろそろロイゼンに帰るべきだろう。
「今日はヘズンの宿に泊まっていかない?」
「さんせーい!」
「いや、ちょっと待ってくれ!」
エスネアがそう提案するのは分かるし、賛成する湊の気持ちも分かるよ。
ただ、明日は朝早くから予定が入っているんだよ!
「どうしたの?」
「養殖(レベル上げ)依頼の報酬は、明日の朝に渡す予定なんだ」
もちろん受け渡しの場所は、ロイゼンの冒険者ギルドだ。
「えぇー、ギルドに仲介を頼まなかったの?」
「≪ロイヤリティ契約≫の解除は、受け渡しの際にやってるからな」
「ねぇ、一つ聞いてもいいかな?」
エスネアは不思議そうな表情で俺に問いかけた。
「どうした?」
「佐伯くんは契約解除(遠隔)を取得したことに気づいてない?」
「……」
取得したことには気づいてたよ。
でも契約解除(遠隔)があれば、報酬の受け渡しを簡略化できるって発想に至らなかったんだよ!
「すまない」
とりあえず今日は一緒にロイゼンまで帰ろう。
報酬の受け渡し方法は、今更変えられないんだ。




