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異世界ロイヤリティ ~バカどもから搾取したお金で、俺は人生楽しませてもらいます~  作者: ファイアス
第2章:収入インフラを整えていく

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第14話:仮面に覆い隠された思念ダンジョン

「お、おい魔物だぞ!」

「こんな奴見たことねぇ!」


 まだ眠気が残る朝方、外では何人かの男が騒いでいた。

 街中に魔物が現れたようだが、慌てている様子はない。

 気にする必要はなさそうだ。

 もう一眠りしよう。


「佐伯くんっ! 早く起きてっ!」


 しかし、俺の二度寝はエスネアによって阻止されてしまった。

 いつもならまだ寝ている時間じゃないか。


「何かあったのか?」

「早く思念ダンジョンに行くよっ!」

「はっ?」


 まだ飯も食べてないんだが……


「魔物が出たって噂になってるし、急がないとすぐに先を越されるよ!」

「街中に現れた魔物って、幻獣だったのか?」

「そうだよ」


 つまり日之影のときと同様、街中に思念ダンジョンが出現したのか。


「で、湊さんはどうした?」

「もう食事を終えて、ダンジョン前にいるよ」


 先にダンジョンの位置は調査していたのか。

 これでもゆっくり寝かせてくれたんだな。


「先に食事をさせてくれ」

「歩きながらパンでも食べればいいじゃん」


 食べ歩きを平然と勧めるのか。

 文化の違いを感じるよ。


「走らなくていいんだな?」


 食べながら走るのはどう考えても無理だ。


「いいよ。目立つ動きをすると、思念ダンジョンの位置に目星を付けてるって疑われるし……」

「そういうものなのか」


 俺はエスネアに言われた通り、パンを咥えながら外に出た。

 目的地へ向かう途中、辺りの空き家を出入りする冒険者の姿が目に付いた。

≪鑑定≫を持たない彼らは、ああやって思念ダンジョンを探しているのだろう。


「幻獣が現れたっていうのに、慌てている人はいないんだな」


 子供たちは平然と外で追いかけっこをしている。

 屋台を営む者たちはいつも通りであり、誰も危機感を抱いていない様子だ。


「だって扉を塞いでおけば、普通は安全だもん」


 学校の校庭に犬が入ってきたくらいの認識か。


「おー、やっと起きたんだ」


 街の東へ向かうと、教会前で湊が座っていた。


「ああ、まだ眠いけどな」

「じゃあ、ダンジョンで寝てれば?」

「ダンジョンで寝たら死ぬだろ!」


 そもそも寝ていたら散策することだってできない。


「とりあえず早く入ろうよ」


 参拝者の少ない教会付近にあるマンホール。

 その中こそがエスネアの特定した思念ダンジョンの入り口だ。


「おっけー」

「分かった」


 先頭を歩くエスネアの呼びかけに従い、湊もマンホールの中へと入っていった。

 俺は最後に入り、後続を招かないよう蓋をした。


「えーっ、思念ダンジョンって日本だったの?」


 辺りの景色を見た湊は、驚きの声を上げた。


「ダンジョンマスターはまたクラスメイトだろうな」

「どゆこと?」

「実はだな──」


 俺は湊に思念ダンジョンの特徴を大雑把に説明した。


「じゃあ、アタシたちクラスメイトで殺し合うの?」

「ダンジョン化した時点でもう死んでる」


 ただ、ダンジョンマスターはダンジョン化した人の姿で現れる。

 おまけに言葉を喋れるだけでなく、意思疎通もできる。

 単なる思念体とはいえ、体感的には人を殺す感覚だ。

 仲の良い友人が相手だったら、誰だって戦いたくはないだろう。


「ダンジョンマスターが茜や瑠香だったら、絶対嫌なんだけど!」

「その時はエスネアに任せて、寝てればいいだろ」


 レベルの低い湊は、まだ戦力になるとは言えない。

 だったらエスネアに任せて、近くで寝ていればいい。


「佐伯と一緒に寝てたら、エスっちが怒るじゃん」

「俺は寝ねーから!」


 湊の真似して「寝てれば?」とからかったのに、俺が逆にからかわれるのかよ。


「佐伯くんは、前回みたいに居場所を特定できそう」


 エスネアが俺に問いかけた。


「ダンジョンマスターのか?」

「うん」

「残念だが全く分からない。そもそもこの辺りの景色は見たことがない」

「アタシも知らない景色だね」


 少なくとも高校の付近ではない。

 この思念ダンジョンの主は、どこか別の場所で想いを溜め込んでいるようだ。


「じゃあ幻獣を追っていこっか」

「どゆこと?」

「ダンジョンマスターの居場所は、幻獣の密集度合いで特定できるってこと」


 その話は俺も初めて聞いたよ。


「あ、そうそう。愛華さんはできるだけ弱った幻獣を狙ってトドメを刺してね」

「何で?」

「だって愛華さんのレベルが一番低いもん」

「う、うん。分かった」


 湊は引きつった様子で返答した。

 レベルが低い──すなわち弱いと言われたことが彼女のプライドを傷つけたようだ。


「佐伯くんは先頭に立っていてくれればいいよ」

「前に立つなら武器の一つは欲しいんだが、何か貸してもらえるか?」


 初めに借りていた槍は、湊が自分の武器のように使っている。

 そのため、俺は武器を何も持っていない。

 その状態で先頭に立っても袋叩きにされるだけだ。


「壁になってくれればいいよ」

「俺の役割は肉壁かよ!」


 三人の中で一番HPや防御が高いのは俺だ。

 そのことを考えれば、正しい采配と言える。

 しかし、俺は防具すらろくに身に付けていない。

 さらに回復役は不在だ。

 本当に大丈夫なのだろうか?


「やっぱ寝ててもいいじゃん」

「寝るわけないだろ!」


 ステータスの暴力に任せて囮になるなら、実際に寝ててもいいのかもしれない。

 ただ、普通に考えて怖すぎるだろ!


「ところでどっちに向かえばいいんだ?」


 俺が先頭を任されたのだ。

 進む方向は自分で決める必要がある。

 問題は目印となる幻獣は近くに一匹もいないことだ。


「適当でいいよ」

「分かった」


 勘の鋭いエスネアですら予測できないなら、適当に歩く以外の選択肢がないのだろう。


「何も出てこないけど、道あってる?」


 左の道を歩き続けること約5分間、早くも湊が俺の向かう先に異議を唱えた。


「向かう先を間違えたか、それとも別の冒険者に先を越されたか……」

「幻獣って倒してもしばらくしたら復活するし、単純に道を間違えたんだと思うよ」

「……じゃあ引き返すか」


 エスネア、俺は思念ダンジョンに詳しくないんだ。

 間違えたと思うなら早めに言ってくれ……


 俺たちはスタート地点に引き返した後、住宅の立ち並ぶ細い通路へと突き進んだ。

 住宅街を歩くこと約3分、俺たちは地を這うゾンビの群れを発見した。


「うわっ、キモッ」


 人間の姿をした存在が群れを成して地を這っているのだ。

 その光景は不気味でしかない。

 しかもゾンビたちは身体が腐食しており、悪臭まで漂ってくる。

 湊がキモいと言い出すのは当然だ。


「こいつらの攻撃を受けるのは、ダメージとは別の理由で嫌だな」


 こいつらの攻撃を被弾し続けたら、悪臭塗れになる気がしてならない。

 下手すればゲロ塗れになるかもしれない。


「動きはとろそうだし、佐伯くんは見てるだけでいいよ」


 そう言ってエスネアは次々とゾンビたちを串刺しにしていった。

 エスネアの後に続き、湊はトドメを刺していく。

 うん、どう見ても俺は要らない。

 これなら本当に寝ていても問題ない。


「つーか、こいつら襲ってこないじゃん」

「それは俺も疑問に思った」

「ちょうどいい経験値じゃん」


 それはその通りなんだが、思念ダンジョンに一番詳しいのはエスネアなんだ。

 もうちょっとそれっぽい考察をしてくれ。


「別の幻獣が出てきたな」


 住宅街をさらに突き進むと、今度は仮面を付けた天使が現れた。

 仮面の天使たちは胸元から別の仮面を取り出しては、地を這うゾンビたちに装着して回っていた。

 ゾンビたちは仮面を装着すると、服装も身体も綺麗になっていく。

 そして最後には立ち上がり、頭の上には黄色い輪っかが浮かび上がった。

 そう、時間をかけて仮面の天使へと変化したのだ。


「今度は別の意味でキモいんだけど」

「俺もそう思うよ」


 仮面は人格を偽る比喩として用いられることが多い。

 そんな仮面を装着することで綺麗な天使へと生まれ変わるこの景色は、どこかディストピアに傾いた思想を感じさせた。


「まさか……」

「佐伯くん?」

「何か分かったの?」

「ああ、ここのダンジョンマスターは九条だ」


 自分たちは救いの手を与える天使。

 可哀想なゾンビたちは自分たちが救うべき者。

 仮面は自我を覆い隠す。

 その仮面を受け入れたゾンビたちは、天使の一員となり救われる。

 こう解釈すれば、九条の思想をそのまま映し出していると分かる。


「あー、あいつか……」


 不真面目な態度が目立つ湊と、正義感を押し付ける九条が噛み合うはずもない。

 湊が俺と同じように、九条を嫌うのは当然だ。


「九条ってどんな人なの?」

「人助けする自分自身に酔って、主張を押し付ける害悪だ」

「偉そうに説教して悦に浸ってるカス」


 エスネアの質問に対する俺たちの答えはほぼ一緒だった。

 だからこそ湊の気持ちがよく分かる。


「……ねぇ、その人は私がトドメを刺していい?」


 俺たちの話を聞いたエスネアは、なぜか九条に苛立っていた。

 二人に面識があるとは思えない。


「いいけど、どうしたの?」


 湊は疑問を投げかけた。


「父上のことを思い出しちゃったんだもん」


「父上」か。

 その言葉選びだけ、どうもエスネアっぽくないな。


「私の感情をいつも無視するし、最後はお前のためって言うんだよ!」


 典型的なモラハラ人間だな。


「将来誰と結婚するかだって、全部勝手に決めちゃうの。しかも結婚したら、その夫に従うべきだって……」

「要はトラウマがフラッシュバックしたのか」

「そうかも……」


 この世界は男尊女卑の文化があると聞いていたが、想像以上に酷いな。

 エスネアが家出するのも当然だ。


「エスっちって、もしかして貴族の生まれなの?」

「うん、そうだよ」


 貴族相手にパパ活を持ちかけていた湊のことだ。

 エスネアの話を聞いて、何か察したのだろう。


「やっぱそうなんだ。じゃあ、トドメとかいいから一緒にぶん殴ろう」

「そうだね」


 エスネアは湊と意気投合する。

 九条のことは俺も死ぬほど嫌いだが、昨日思いっきり顔面を蹴り飛ばしている。

 だから鬱憤晴らしの機会は、彼女たちに譲ってもいい。


「エスネア、あまり感情を剥き出しにすると危険じゃないか?」

「そうだね」


 思念ダンジョンは強い感情を吸収しようとする特徴がある。

 下手に感情を出せば、ダンジョンの一部として取り込まれるだろう。


「飲み込まれそうになったら、後ろから抱きしめてね」

「あ、ああ……」


 後ろからとはいえ、怒りに支配された相手を抱きしめるのはかなり危険だ。

 そんな機会は絶対に作らないで欲しい。


「まずはこいつらで鬱憤晴らししようよ」

「そうだね」


 湊とエスネアは次々と幻獣を打ち倒していく。


「ん、これは……」


 二人がバッサバッサと敵を減らす中、地面に落ちていた白い仮面が視界に入った。

 幻獣は倒されると跡形もなく消えていく。

 それなのに仮面だけ残されたということは、これがドロップアイテムなのだろうか?


「エスネア、ちょっといいか?」

「何?」

「この仮面を≪鑑定≫してくれ」


 俺は拾い上げた白い仮面をエスネアに見せた。


「共有するね」

「ああ、頼む」


 エスネアの≪鑑定≫によって、仮面の詳細が映し出される。


 名前:信念の仮面

 分類:仮面

 防御力:18

 使用制限レベル:7

 所有者:佐伯 豊

 耐久度:100

 耐性効果:混乱無効 狂化無効

 属性耐性:なし

 改造効果:なし

 付与効果:なし

 備考:なし


「今の俺たちでも使えそうだな」

「九条の思念から生まれた残骸を身に付けるとか絶対嫌なんだけど!」


 湊の感情は分からないでもない。


「ここを出るまでは、その仮面を付けないでね。間違って攻撃しちゃいそうだし」

「仮面を付けても幻獣とは区別できるだろ!」


 もはや呪われたアイテム扱いだ。

 低い使用制限レベルの割には、それなりの防御力がある。

 しかも混乱と狂化を無効化できるおまけ付きだ。

 ろくでもない扱いをされているけど、これって絶対に価値ある装備だろ……

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