第12話:不快な人間だったので、弱みを握ってやりました
≪ロイヤリティ契約≫を活かして、ゼビーを安定して稼ぐにはどうすればいいか?
真っ当な方法なら、皆が使いたくなるものをこちらで提供するに限る。
もっともこの方法では、踏み倒しを阻止する以外にスキルを使う利点がない。
これでは何のためのチートスキルか分からない。
しかし、騙し討ちするかのように契約を結べば悪評が広まる。
そんなことをすれば、当然エスネアや湊にも迷惑をかけてしまう。
無理やり契約を結ばせても同じだ。
ならばどうすればいいか?
その答えは簡単だ。
悪評が広まらない相手を選べばいい。
この世界は治安が悪く、盗賊や山賊の存在が珍しくないと聞いている。
だったら彼らを捕らえ、見逃す代わりに契約を結ばせる。
この手順が一番良いのではないか?
「……と思うのだが、どうだろう?」
「やめた方がいいかな」
「どうしてそう思う?」
「稼いでる盗賊や山賊って、みんな私たちより強いもん」
「大して稼げていない賊相手でも収入0よりマシだ」
「じゃあ普通に思念ダンジョンを探そうよ。その方が稼げるもん!」
エスネアには塵も積もれば山となるという概念がないのか?
「じゃあ街中の悪人を狙ってみる?」
湊の案はなんか危うい気がする。
「悪人でも無抵抗な相手を狙えば問題になるだろ!」
「よわっちぃのを怒らせて返り討ちにすれば、一応契約を迫る大義名分はできるじゃん」
「当たり屋かよ!」
「佐伯の案も倫理的には終わってるし、アタシの言ったことと大差ないよ」
……さすがにお前の案よりはマシだと思う。
「それでさ、さっきちょうどいい鴨が近くを通ったんだよね」
「誰をターゲットにするつもりだ?」
「ロジーって冒険者いたじゃん。あいつの取り巻きの女」
エスネアが喋る度にピリピリしていた女たちか。
あいつらは別に悪人ではないと思う。
でも不快感を撒き散らしていたし、トラブルを起こしても俺たちの悪評に繋がる可能性は低い。
だったら湊の案に乗って、やっちゃっていいか!
「よし乗った! って言いたいところだけど、あいつらの強さと収入はどうなんだ?」
あの時はギルド内の全員を≪鑑定≫していたんだ。
エスネアなら当然把握しているだろう。
「一人だけレベル72だったけど、あとの三人はレベル15前後だったよ」
何でさらっと一人やばいのが紛れ込んでいるんだよ!
「収入は分からないけど、レベル72の人は700万ゼビーは持ってたと思う」
「あとの三人は?」
「よく覚えてないけど、みんな6桁だったはずだよ」
「なら弱い三人のうち誰かを狙えば解決だな」
大金を持っていないとはいえ、表の街で生きている人間だ。
最低限の収入はあると見込んでいい。
湊が見かけたロジーの取り巻きを探し、俺たちは街中を歩き回った。
ターゲットを探し回ること数十分。
人通りの少ない街外れでついにその姿を捉えた。
エスネアの≪鑑定≫によれば、相手のレベルは17。
名前はドミー・ルーザーだ。
主にドミーと話す予定の湊はまだレベル13だが、比較的ステータスの高い彼女なら心配はいらない。
「よっ、あれからロジーになんか問題起きてる?」
湊は何の迷いもなくドミーに声をかけた。
「別に何もないわよ」
湊に話しかけられたドミーは、あからさまに不機嫌な態度で返答した。
「そっか。それなら良かった」
「用が済んだなら、さっさと帰らせてもらうわよ」
「ちょっと待ちなって。アタシたちもロジーの仲間に入れてもらいたいって思ってるんだからさ」
お前こそ待て!
仮に仲間入りを認められたら、どうするんだよ!
「冗談じゃないわよ! 特にロジーさんを勝手に≪鑑定≫したそこのガキンチョだけは絶対にありえないわ」
「えー、エスっちを妬んでるの?」
「誰があんなガキンチョを妬んでるですって!」
「だっておばさんさぁ、エスっちが錬金術を使えるって言っただけでめちゃくちゃ睨んでたじゃん!」
「だーれがおばさんよ!」
「え、あんた以外に誰がいるの?」
「このクソビッチがっ!」
ドミーはついに怒りを爆発させ、湊に平手打ちをかました。
バチーンと激しい音が響く。
「おばさんさぁ、イライラしてると皺が増えるよ」
だが、湊は笑いながらドミーをからかい続けた。
よく平気でいられるものだ。
「まだ言うかっ! 死ね! このクソビッチ!」
ドミーは懐からナイフを取り出し、湊を突き刺そうとした。
「はーい、ストップ!」
けれどもこうなることは想定のうちだ。
予めタイミングを見計らっていたエスネアは、湊の前に立ちドミーの右手首を強く握った。
「いぎいいいぃぃ!」
握っていたナイフは地面に落ち、ドミーはすぐさま降参した。
「な、何のつもりよ!」
ドミーは降参したものの、怒りを抑えられずにいた。
あれだけ的確に煽られた挙句、悪者扱いされようとしているのだ。
沸点の低い女が耐えられるはずもあるまい。
「街中で人を殺傷しようとしたのは、明らかな犯罪行為だ」
「う、うるさいっ!」
俺は前に立ち、ドミーを責め立てた。
「その言動がロジーの顔に泥を塗ると分からないのか?」
「ぐっ……」
「お前をこのまま衛兵に突き出しても構わないが、その気があるなら示談にしてやってもいい」
「得体の知れない契約を私にさせるつもりかっ!」
意外と察しが良いじゃないか。
話が早くて助かる。
「ご名答だ」
「あの契約は何なのよ!」
「話すわけないだろ」
こいつに話すくらいなら、ロジーにだってきちんと伝えている。
「はぁっ!?」
「安心しろ。死ぬような契約じゃないし、病魔の呪いに蝕まれるわけでもない」
「だからなんなのよっ!」
「この取引に応じるなら衛兵に突き出すことはしない。それに今日の出来事も他言しないと約束しよう。ただし、お前が都合の良いように情報を捻じ曲げて被害者面するなら、こちらもお前の行いを全部話すつもりだ」
「ただの脅迫じゃないっ!」
「応じてくれないか、残念だ。エスネア、衛兵を呼んできてくれ!」
「はーい!」
エスネアは軽い足取りで歩きだす。
「ま、待って!」
本当に衛兵を呼ばれるのは、さすがにまずいと思ったようだ。
「契約を許可してやるから!」
「それでいい」
俺はすぐさま≪ロイヤリティ契約≫をドミーと結んだ。
これで彼女が得た収入は、俺に還元されるはずだ。
ただ、このやり方はあまりにリスキー過ぎる。
次はもうちょっと穏便な方法を選びたい。




