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4-9

激突の刹那、耳を劈く轟音が爆発した。


朱の放った渾身の介入が、隊長の放つ刃と虎の肉迫する爪を無理やり捻じ曲げる。


「が、はっ……!」


内臓を激しく揺さぶられ、朱の身体は弾き飛ばされた。


背中が冷たいコンクリートの壁に激突し、目の前が一瞬、真っ暗になる。


だが明滅する意識の境界線で、朱は歯を食いしばって目を開け続けた。


結果を見届けなければならない。その一心だけが、彼の細い息を繋ぎ止めていた。


「大丈夫っ!? なんでこんなことを……!」


「朱! 無茶よ、なんて無茶を……!」


駆け寄ってきた雫と翠姉さんの、引き裂かれそうな悲鳴が鼓膜に届く。


視線の先。巻き上がる土煙の向こうで、魔神である虎が膝を突き、激しく血を吐き出していた。


しかし、その身体は消えていない。生きている。


対して、隊長の身体は――粒子のような淡い光となって、静かに宙へと溶け始めていた。


隊長は、朱の叫びを受け入れたのだ。自らの命を燃やし尽くしながらも、虎に致命的なトドメを刺すことだけは、踏みとどまってくれた。


「……なぜだ」


崩れ落ちた虎が、信じられないものを見る目で、朱を睨みつけた。


「なぜ、我を殺さなかった。人間よ、これは我らへの侮辱か……!」


朱は、溢れ出そうとする血を容赦なく吐き出し、動かない身体で掠れた声を絞り出した。


「あんたの……あんたの死を、裏で利用しようとしている奴がいる。戦士の誇りごと、踏みにじろうとしているクソ野郎がいるんだ……!」


虎の細い瞳孔が、驚愕に大きく見開かれた。


直後、虎は天空のある一点――不気味に渦巻く雲の隙間を見つめ、これまでに見たこともないような、凄絶な「怒り」を爆発させた。


「我の戦いに、戦士の生き様に水を差したな……龍よ……ッ!!」


虎の咆哮が、大気を激しく震わせる。


「許せぬ。許せぬぞ……! 万死に値する! 戦いの中で死ぬ誉れを汚した罪、その身で償えぇぇぇ!!」


五大魔神の一角が、初めて見せた本気の全力。


それは凄まじい質量を持った一撃となって、天を駆けた。狙い違わず、龍の急所――あの「コア」へと、狂ったように命中する。


その場所は、前の世界で翠姉さんが自らの命を犠牲にして最期に放った一撃の座標と、完全に一致していた。


「オオオオオオオオッ!!」


死屍累々、満身創痍でありながら、虎は龍に向かって牙を剥き喰らいついていく。


世界を破滅へと導く魔神同士の激震。大地が悲鳴を上げ、天が割れていく。


朱の作戦は、完璧に功を奏した。


だが、この後に訪れる結末の理不尽さを思うと、朱はただ奥歯を噛み締めることしかできなかった。


「朱」


不意に、優しく頭を撫でられる感触がした。 振り返ると、翠姉さんがそこにいた。


あの時とは違う、少し寂しそうで、でも心底愛おしそうな確かな「笑顔」を浮かべて。


「この世界は、お姉ちゃんが守るから。……ごめんね、ちゃんとした本物のお姉ちゃんのようにはできなくて。でも、朱が守ろうとしたこの世界は、私が絶対に守ってみせるから!」


朱の目から、堰を切ったように涙が溢れ出す。


彼は顔をくしゃくしゃに歪めながら、力の限り姉の背中へと言葉を返した。


「――うんっ!!」


直後、翠の放った『リンカーネーション・オーバードライブ』の眩い白光が、破滅しかけた大地を包み込み、優しく癒していく。


その光の中で、瀕死だった虎は龍の爪に裂かれて地に落ち、残されたのは満身創痍の「龍」ただ一頭となった。

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