↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/36

4-8

次に気がついたとき、朱は薄暗い「狐のお社」の中に立っていた。


自身の右手が、冷たい鉄の感触を掴んでいる。 握られていたのは、狐の妖刀だった。


朱の脳裏に、この後の展開が鮮明によみがえる。 このままこの刀を狐に手渡せば、あの「強制契約」が発動し、狐は死を免れない。


だが同時に、渡さずに狐を生かす道を選べば、朱自身がマテリアル——姫巫女としての力をこの場で失うことになってしまう。


(どうすればいい……。どちらを選んでも、地獄だ……)


朱が苦悶の表情を浮かべた、その時だった。 彼らの前に佇む狐が、すべてを見透かしたように静かに口を開いた。


「力の喪失、やはり怖いか?」


あながち間違っていない問いかけだった。


朱がどう答えるべきか、必死に思考を巡らせていると、狐は自らあまりにも唐突な解を提示した。


「心配するな。今回の契約の代償を、お主から受け取るつもりはない。……その方法も、お主らは知っているな?」


そう言って、狐は自らの鋭い爪を胸へと突き立てた。 生々しい音を立てて、その手で己のコアを抉り出す。


「なっ……!?」


朱は、ただ困惑するしかなかった。


(……そうか。あいつは、これを僕にやらせたいのか)


吹に続き、この狐までもが目の前で命を散らしていく光景。その変わらない残酷な収束を目の当たりにして、朱はハッと気づかされた。


あの人の魔神が言い遺した『今の君と同じ絶望を与える存在となってくれ』という言葉の真意。


あいつは僕をただの駒として転移させたのではない。


かつて自分が辿った『すべての仲間との別れ』を、この僕に別の過程でもう一度最初からそっくりそのまま追体験させているのだ。


動けない朱の前で、狐は静かに語り続けた。


「もう十分生きた。未来のため、この魂が役立てるなら本望だ。——汝らに、祝福を」


狐の圧倒的な覚悟を前にして、朱もまた引き裂かれそうな心を無理やり決めざるを得なかった。


朱は自然と理解した。


おそらく、どれほど足掻いて過程を変えようと、結果は変わらないのだ。


ここで妖刀を渡さず、大蛇の強制契約を回避したとしても、狐が死ぬ未来だけは絶対に曲げられない。


いや、変えてはならないのだ。 死んでいった者たちの覚悟を、無駄にするわけにはいかない。


それに少なくとも——前の世界よりも、吹も狐も、理不尽に苦しまずに逝くことができている。


「……すまない」


背後から引き留める雫の悲痛な声を無視し、朱は狐の差し出したコアを一刀の下に叩き切った。


視界が再び白光に包まれ、場面が強制的に跳んでいく。


次に朱が目を開けた場所は、激しい土煙が舞う戦場だった。


討伐隊の隊長と西の魔神「虎」が、互いの命を削り合っている決戦の最中。


大気を引き裂き、隊長の絶叫が響き渡った。


「——『リンカーネーション』!!」


朱は、悲鳴を上げるボロボロの身体に鞭を打ち、必死に立ち上がった。


このままでは隊長と虎は相打ちになり、その虎の残滓を利用して今度は「龍」が大地を崩壊させる。


そしてそれを食い止めるために、翠姉さんが命を落とすことになる。


(変えるんだ。どうせ結果が変わらないのだとしても……あんな死に方だけは、絶対にさせない!)


朱は、己の全存在を声に込めて激しく叫んだ。


「殺してはいけないっ!!」


その唐突な制止の言葉に、隊長も、そして虎すらも驚愕に目を見開いた。


死線が交錯するその中心へと、朱は躊躇なく割り込んだ。


誰もが一瞬で弾き飛ばされるかと思ったその刹那、朱の放った凄まじい覚悟が二人の力を弾いて狂わせる。


一人の乱入者によって、決戦の場は混沌とした「三つどもえ」へと変貌を遂げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。