↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/36

1-2

彼女の監視任務は、若輩者である僕にその大半が委ねられていた。


異例の抜擢だった。当然、性別の壁や休息の必要性から、僕以外にも大勢の隊員が配備されている。


それだけこの任務が組織にとって——そして世界にとって——重要かつ危険であるという証左だった。


にもかかわらず、翌朝の目覚めは最悪の警報によって叩き起こされた。


『緊急事態発生! 対象“二一五号”ロスト! 各員直ちに捜索を開始せよ。武器の携行・使用を許可する。繰り返す——』


素人に抜けられるような監視網ではなかったはずだ。だが、彼女は消えた。


発信機は沈黙し、一部の隊員は抵抗の間もなく無力化されていた。


「本体」との接触。その最悪の可能性が脳裏をよぎる。それを防ぐために、僕はイレギュラーとして常に彼女の傍にいたはずなのに。


現場の被害状況、魔物の特性、闇を好む彼らの習性——。


組織の精鋭たちが導き出した「予測地点」へ、隊員たちが散っていく。


けれど、僕は独り、通信機を握りつぶさんばかりの力で逆方向へ走っていた。


組織の「正解」などどうでもいい。僕の直感だけが、彼女の行き先を指し示していた。


「はぁっ、はぁっ、……っ!」


——君は、そこにいた。


駅地下一階。色とりどりの装飾に彩られた「食と甘味の空間」。


家族連れや恋人たちが溢れるスイーツフェアのメインストリート中央で、蒼海 雫は立ち尽くし、ぼんやりと天井を見上げていた。


「雫ッ!」


鋭い声。雫は、抜けた魂が身体に戻ったかのように、ゆっくりとこちらを向いた。


「朱、君……」


群衆を力任せにかき分け、僕は彼女の肩を強く掴む。


「なんで来た! 行ってはダメだと言っただろうッ!」


怒号に近い叫びだった。周囲の喧騒が引き潮のように引き、好奇の視線が突き刺さる。


これほど人の往来が多い場所なら、魔物は出ない。本体との接触も、現時点では否定された。


けれど、その安堵以上に、彼女が僕を裏切って危険を冒したことへの憤りが勝った。


「なんで、こんな場所のために……! 君は、自分がどれだけ危な——」


言いかけて、喉元で言葉を飲み込んだ。


「危ない存在か」……。それを口にすることは、僕たちが築いてきた偽りの関係を、今この場で終わらせることを意味していた。


僕が言い淀んだ隙を、彼女は見逃さなかった。雫は僕の腕を振り切り、脱兎のごとく走り出した。


「っ! 待てッ!」


仮にも戦闘訓練を積んだ僕が、一般人の脚力に遅れをとるはずがない。


だが、幸福を謳歌する群衆が壁となり、僕の進路を阻む。対して彼女の前には、不思議と道が開けていく。まるで、何かに導かれているかのように。


最悪の過ちだった。


早々に仲間に連絡を入れるべきだった。通信機を無効化し、独断で彼女を連れ戻そうとした僕の傲慢が、事態を修復不能な場所へと押し流していく。


追いついたのは、彼女と初めて出会った場所——。光の届かない路地裏。


「ここは……!」


そこには生気と呼べるものが一切なかった。


太陽はまだ高いはずなのに、ここは永遠の夜に沈んでいるかのように冷え切っている。温度が、物理的な感覚を超えてガクリと落ちた。


「よぉ、小僧……。久しぶりだな」


暗闇から、湿り気を帯びた声が響く。


僕は最速で腕を上げた。耳元の小型端末で応援を呼ぶ——その指先が届くより早く、一条の閃光が空気を切り裂いた。


パキィィンッ!


「よそうや、お仲間に連絡なんて。せっかく二人っきりになれたんだしよぉ」


一瞬にして、通信機が粉々に砕け散った。


目の前に立つ「それ」は、蒼海 雫の姿をしていた。


だが、その声は彼女のものではなく、瞳の奥に宿る光は——底なしの濁った闇だ。


僕たちは未だに、その名を測りかねている。


「よせよせ。小僧一匹で俺に勝てるわけがないだろう? ……安心しろ。今日は『話』をしに来ただけだ」


魔物は雫の唇を歪め、愉悦に満ちた笑みを浮かべた。


「いやー、それにしても思い出すなぁ。ここで初めて会った日のことをよぉ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。