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4-4

人の魔神が、退屈そうに雫へと指を振った。


「お喋りはそこまでだ」


不可視の圧力が、弾丸となって雫を襲う。 雫は反射的にシールドを展開した。


しかし激突の瞬間、耳を劈くような破壊音が響き渡る。 防壁は一瞬で粉砕され、雫の身体は無残に後方へと吹き飛ばされた。


「……あ、ぐっ……!」


地面を転がる雫を見下ろし、青年はつまらなそうに首を傾げた。


「おや、おかしいな。今の攻撃は、蛇の光線よりも出力を落としたはずなのに。それなのに、ここまで容易に貫通してしまうなんて。やはり『契約の不完全性』の弊害か。どうやら、時間の経過とともに盾の強度自体が下がっているようだね」


青年は手元の空中に数式を浮かべ、満足そうに頷いた。


「まあ、いいデータが取れたよ。感謝する」


「しず、く……。 雫!」


朱の身体が、本能的に動いた。 すべての気力を失っていたはずの足が、泥を蹴る。


倒れた雫の元へ駆け寄り、その身体を抱き起こした。


「雫、しっかりしろ! 雫!」


雫はかすかに目を開けた。 血に染まった唇が、震えながら小さな音節を紡ぐ。


「……あける、くん……」


それは今の雫が意図してそう呼んだのか、それとも失われた記憶がそう呼ばせたのか、朱にはどちらでもよかった。


直後、雫は糸が切れたように意識を失い、その手から力が抜けた。


朱の中で何かが、確かに色づいた。


怒り、悲しみ、そして執念。 彼はポケットの奥から、ずっと肌身離さず持っていたものを取り出した。


あの日、雫から受け取った二つで一つのストラップ。 朱はその片方を、気を失った雫の小さな手にそっと握らせた。


朱は、静かに立ち上がる。


その瞳からは、先ほどまでの絶望の色が消え去っていた。 極限の冷徹な殺意だけが、その眼差しに宿っている。


「お前を倒す」


朱は人の魔神を見据え、静かに布告した。


「お前を倒して、すべてを終わらせる……!」


人の魔神は、声を上げて笑った。


「ハハハ! 面白いことを言うね。もはやただの『人の身』に戻った君に、一体何ができるというんだい? 君には何も、そう、何一つとして残ってはいない。戦う力も、仲間も、何もないんだ。その状況で、どうするつもりなのかな?」


至極、真っ当な問いだった。 今の朱は、ただの傷だらけの一般人に過ぎない。


だが朱は静かに、自らの腕時計に目を落とした。


「確かに、君の言う通りだ。今の僕には、なんの力も残っていない」


秒針が、静かに時を刻む。


「マテリアルも、姉さんも、多くの仲間たちも、組織の誰一人として、もうこの世には残っていない。——そう、だからこそ、たった一つだけ残された力があるんだ……」


朱が言い終わると同時に、天空が割れた。


灰色の雲を突き破り、目も眩むような純白の『光の柱』が、真っ直ぐに朱の頭上へと降り注いだ。


つい先ほどの龍との戦いでも見た光の柱。青年は歓喜に目を輝かせ、拍手を送った。


「いいぞ! いいぞ、紅瀬朱!」


青年は、恍惚とした表情で叫ぶ。


「組織の誰一人として残っていない今の状況であれば、皓城雪の次の『姫巫女の後継者』は、消去法で君になるわけだ! ……もっとも、組織が健在だったとしても、彼女は君を指名しただろうけどね」


光の柱の中で、朱の意識は歴代の英霊たちの精神世界へと接続されていた。


そこには翠姉さんも、雪さんもいた。二人は何も言わない。


ただ優しく、愛おしそうに朱の背中を見守るように微笑んでいた。


その意志を、すべての力を朱は受け入れる。 白銀の輝きを身に纏い、朱はもう一度、人の魔神に向かいあった。

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