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3-8

「……嘘、だろ……」


朱の口から、乾いた掠れ声が漏れた。


全力を尽くした一撃は、龍の『アポカリプス』という絶対的な因果の前に、跡形もなく消し去られてしまった。


マテリアルの輝きは完全に途絶え、傷だらけの肉体にはもう指一本動かす力すら残されていない。


だが、朱の瞳の奥の光はまだ消えていなかった。


鉛のように重くなった四肢に鞭打ち、血に濡れた地面に爪を立てて這いつくばる。


(まだだ……何か、何かあいつを倒す手立ては……っ!)


脳細胞を狂わせるほどの速度で思考を巡らせた。


勝算などゼロに等しい。それでも朱は、動かない右手を必死に伸ばす。


「……まだ、終わって、ない……っ!!」


朱が血を吐きながら執念を滾らせた、まさにその刹那——。


絶望の静寂を切り裂いて、昏い空の彼方から鼓膜を劈くほどの膨大な力の塊が飛来した。


ドォォォンッ!!


大地を爆裂させるような凄まじい着地音。


巻き上がる土煙の奥から現れたのは、あの「催眠の檻」から自らの凄絶な執念だけで這い上がってきた少女——皓城雪だった。


「……あはっ、あはははははっ!!」


土煙の向こうから響いたのは、鈴の鳴るような、しかし底知れぬ狂気を孕んだ少女の笑い声だった。


その場にいる全員の視線が、突如乱入した彼女へと集まる。


ゆっくりと煙が晴れ、露わになった雪の顔を見て朱は息を呑んだ。そこに、かつての冷静沈着な解析班の面影など、微塵も残されていなかったからだ。


血の滲む唇を吊り上げ、雪の瞳は眼前に佇む仇敵——龍だけを凝視している。


「雪、さん……? なんで、ここに……いや、その力は……っ!?」


朱は困惑に目を見開いた。彼女の華奢な身体からは、死んだ翠姉さんのものと同じ黄金のオーラが、制御を失った間欠泉のように噴き上がっていた。


雪は一歩、また一歩と龍へ歩みを進めながら、腹の底から響くような怨嗟の声を叩きつける。


「——よかったわ。本当に、本当によかった。嬉しいわ、龍。あなたがまだ、そんなに元気でいてくれて」


あまりのプレッシャーに、魔神であるはずの龍の貌が、初めて看過できない動揺に引き攣った。思わず半歩後退りしながら、龍は目の前の異常な存在を凝視する。


「馬鹿な……っ。姫巫女は私が確かにこの手で殺し、その魂を塵に還したはずだ。さきほどまでただの無能な人間、ただの観測者であったはずのお前が、なぜ……『姫巫女の力』を宿している!?」


驚愕に目を見開く龍に対し、雪は頭を抱えて、さらに高く狂ったような笑い声をあげた。


「わからない? 脳の構造が単純なのね。私はクローン計画のバックアップ素体の一人。翠様が死んだ瞬間、次代の姫巫女へと自動的に引き継がれるはずのエネルギーパスを……組織のシステムごとハッキングして私に強制誘導し、無理やり奪い取ってやったのよ!」


雪の言葉が進むにつれ、彼女から放たれる異様な力の波動が戦場の大気を歪めていく。


「ああ、そうよ。すべては、私の人生のすべてはお前を殺す……ただそれだけのためにあったのよ!! お前だけはこの私の手で肉の一片、魂の一粒にいたるまで嬲り尽くさなければ……ッ、気が済まないからなぁッ!!」


怒号とも歓喜ともつかない雪の絶叫が響き渡ると同時に、彼女の背後に天を衝くほどの黄金の術式が展開された。


龍がその圧倒的な輝きに身構えた瞬間、雪の双眸から一切の光が消え去り、ただ底なしの闇のような殺意だけが溢れ出す。


完全に初代の血脈を掌握した雪の手から、時空をも消滅させかねない暴虐の光が、龍へと容赦なく解き放たれた。


「『リンカーネーション』ッッ!!」

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