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雪の「変化」を感じて以降、完璧だったはずの理想郷は、目に見えてその綻びを露わにしていった。
街を歩いていても、学校の廊下を歩いていても、朱の脳裏を激しい「既視感」が襲う。
すれ違う生徒、街の雑踏の中に、明らかに「知っているはずなのに、顔も名前も思い出せない人影」が混じるようになったのだ。
一人ではない。十人ほどの、自分と同じくらいの年齢の少年少女たち。
彼らは授業中の教室の窓の外、夕暮れの通学路の電柱の陰、あるいは自宅の鏡の端に、世界のノイズのような歪みと共にふっと現れては消える。
彼らは何も言わない。ただ、血に汚れた制服や、包帯に巻かれた身体のまま、必死な形相で朱へと手を伸ばし、何かを訴えかけようとしていた。
彼らの瞳には、恐怖ではなく、狂気的なまでの「懇願」と「希望」が宿っている。
「……君たちは、誰だ? なぜ、僕を見るんだ?」
朱が声を大にして問いかけても、周囲の人間は誰も彼らの姿を認識しない。
隣を歩く雫も、書類を抱える雪も、ただ「どうしたの?」と壊れた機械のように同じ心配の表情を浮かべるだけだ。
だが彼らが現れるたびに、朱の胸の奥に押し込められていた蓋が、内側から激しく叩かれるような衝撃を覚える。
彼らは朱のために泣き、朱のために血を流し、そして自分の代わりに死んでいった——そんな絶対的な確信が、失われた記憶の残響となって静かに朱の精神を侵食していった。
彼らの伸ばす血塗られた手が、この美しいまがい物の世界の空気を少しずつ引き裂いていく。




