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2-5

「……姫巫女様。あんたの戦い、ずっと横で見させてもらったぜ。……不格好で、でも誰よりも気高かった」


隊長の声は、もはや人間のそれではない。大気を震わせ、山を揺らす唸りに近かった。


赤い命の蒸気が激しく噴き出し、彼の輪郭を陽炎のように歪めている。


「あんたら姫巫女の最終奥義『魂を形にする』技……俺なりに解析させてもらった。人の身でもな……失うものが何もない今の状態なら、一瞬だけならその高みに届くはずだ」


翠が驚愕に目を見開く。それは姫巫女のみが代々受け継いできた秘奥義だった。


それをただの人間が、己の命の燃焼だけで模倣しようとしている。再構築しようとしているのだ。


「やめて! それをしたら、あなたの存在すら消えるわ! あなたという魂が、世界から抹消される!」


「構わねえ。最強が、化け物に背を向けて死ぬわけにはいかねえんだよ。……朱、雪! お前ら、よく見ておけ。これが『人間』の、たった一度きりの意地だ!」


凝縮された魂が、一点に結合されて形を成す。


「リンカーネーションッ!!」


それは一瞬に永遠を込めた閃光だった。世界を白濁させるほどの光が爆発する。


だが、無限の進化を終えた虎は、その圧倒的な光を前にしても、一歩も退かなかった。


その貌にあるのは恐怖ではない。真の強者だけが持つ、獰猛な歓喜だった。


「面白い! 面白いぞ、人間! 我を喰らって見せろぉォォッ!!」


虎は逃げなかった。避けることさえ、己の絶対性に対する侮辱だと知っている。


彼は「アポカリプス」によって得た神のごとき硬度の肉体をもって、人間の命のすべてを真正面から迎え撃った。


凄絶な激突だった。隊長の放つ命の閃光と、虎が纏う進化の黒い圧力が空間の真ん中で正面から押し合う。


ギチギチと、世界そのものが軋む悲鳴が響く。虎の爪が、隊長の光を強引にねじ伏せようと肉体ごと迫る。


一刹那の間に、虎の皮膚はさらに硬化し、隊長の光を弾こうと無限に進化し続けた。


「おおおおおおおッッ!!」


隊長が吼える。光の出力がさらに跳ね上がった。


自らの魂の輪郭を削り、削り、削り尽くしながら、虎の進化の速度をその執念が上回っていく。


バキィィィン!!


そしてついに、世界を固定していた因果の壁が粉砕された。


隊長の魂が、全細胞が、粉々に砕け散る。


それと同時に、限界を超えて研ぎ澄まされた光の楔が、虎の剥き出しのコアを真っ直ぐに貫いた。


ドゴオオォォォォ!!


虎の断末魔さえも聞こえない。空間そのものが崩壊するほどの衝撃が宮殿を包み込んだ。


最強の男と、最強の魔神。互いの誇りと矜持をぶつけ合ったまま、二つの影は白銀の光の中に消えていった。


後に残されたのは、粉々に砕けた虎の残骸だった。そして、かつて最強と呼ばれた男の、静かな亡骸だけだった。


魔神の誇り高き命を、人間の意地が確かに討ち取ったのだ。

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