第94話 最強の副官
「お前が、、、転移者ルル・ルーンか。思ったよりもずっと小さかったな。」
城に飛び込んでルル・ルーンの前に立ったレイスは率直な感想を口にした。
(隣の男、、、いや、やっぱり違う。コイツで間違いない。)
レイスは一瞬だけルルを庇うように立つ「魔人王ベリアル」に目を向けるが、すぐに視線をルルに戻す。
ルルの容姿は青緑の長髪をした、男の子とも女の子ともとれる、高めに見積もっても15歳は超えていなさそうな子供。
外で感じたただならぬ気配から彼こそが「転移者」であるということを直感し飛びかかったものの、いざ目の前にしてみると、レイスもその中にいるフレイヤも彼が転移者の一角であるということを信じきれずにいた。
それほどまでにルル・ルーンの見た目は幼く、「宇宙の支配者」の異名にそぐわなかったのである。
「「小さい」なんて心外だな。それにイメージと違うのは俺も同じだ。一応写真は見たことがあるが、まさか見た目どころか性別すらも違うなんてな。」
ルルはレイスの姿を上から下まで観察しながら呟いた。軽い口調とは対照的にルルは全身から鋭い殺気を放っている。側近をほぼ全員倒されたことに怒り心頭なのは瞭然であった。
「正直、驚いている。まさか偉大なこの俺をここまでコケにできる人間がまだこの世に存在していたなんてな。せっかくこの俺が皆のために「完璧な国」を作ってやったってのにそれもメチャクチャにしやがって。骨の髄まで分からせてやる。お前のような賊ごときが世界を導く使命を持った選ばれし者に逆らうとどうなるのか」
「やかましいわ!!」
ルルはうっすらと笑みを浮かべながら挑発すると、突然レイスが怒鳴った。つい先程まで冷たい目で自分を見ていたレイスが急に怒声を浴びせてきたことで、ルルは驚いて口を閉じる。
一方レイスはため息をついて苛立ちを抑えるように頭を掻きむしった。
「だから嫌いなんだ。自画自賛を欠かさなかったりなんでもかんでも自分の思い通りになるって考え方をしてるのが。言っておくが、覚悟するのはお前のほうだ。ここからはお前の望み通りになることなんて何一つ無いぞ。」
呆れたようにそう呟くと彼はルルを氷のように冷たい目で見下ろしながら指差した。
「覚悟しやがれ、その伸びに伸びまくった無駄に高い鼻っ柱をへし折ってやるよ。」
レイスの怒声に一瞬気押されたルルだが、彼に手招きされるとすぐに気を取り直したように余裕の笑みを顔に浮かべて見せた。
「フフフ、、、本当に面白い奴だ。この俺にそんな口を聞ける奴がまだ存在したなんてな。いいだろう、そんなに俺と戦いたいというなら戦ってやろうじゃないか。来るがいい。」
ルルの言葉が終わるか終わらないかというタイミングで殺気だったレイスが突っ込んでいく。しかし、それに対してルルは全く反撃をしたり防御をしたりするような様子はない。彼は相変わらず余裕そうな笑みを浮かべており、レイスはそれを気にせずかあれの顔面に拳を叩き込もうとする。
しかし、その拳がルルに届くよりも前に、10神王の1人「魔人王ベリアル」に手首を掴まれて止められてしまった。
「、、、、、、ッ!」
「ただし、このベリアルを倒せたらな。」
ルルはおちょくるような笑みを浮かべた。ベリアルは表情を変えずにレイスの手首を強く握りしめ、レイスの屈強な手からミシミシと音が鳴る。
「大人しそうな面持ちの若い執事」といった風貌の男とは到底思えないような握力に、さすがのレイスも面食らった。
そしてベリアルは腕に渾身の力を込めたまま、レイスを振り回して壁に叩きつけた。
「うわぁぁっ!!」
レイスの体は壁をいくつも突き破っていき、10部屋分ほど進んだところでようやく停止した。
「イッテ~、、、あのドラゴンの家の壁よりさらに硬いじゃねーかよ。」
不平を言いながら起き上がったレイスはベリアルに握られた手首をさする。
「折れては、、、いないか、、、よし、、、にしても、あいつやるなぁ。」
手首をさすりながら立ち上がると同時に、レイスはベリアルの怪力に舌を巻かざるをえなかった。
(どうやらさっきの「おもしろ集団」とは違うみたいだな。)
レイスがベリアルの強さに驚いていることを察したのか、彼のすぐ後ろで手を組んでいるルルは得意そうな顔をして鼻を鳴らした。
「フフフ、さっきまでの威勢が無くなったな。このベリアルは俺の副官だ。お前が傷だらけになって倒したファフニールたちとはモノが違うんだよ。」
「そうかよ。」
レイスはルルの言葉を無視して飛びかかるが、ルルは顔に笑みを浮かべたまま微動だにしない。
レイスがルルの元に辿り着くよりも早く、ベルアルはルルを庇うように2人の間に立っており、軽やかな動きでレイスの拳を蹴り上げた。
「チッ、、、お前に用はない!どけ!」
「丁重にお断りします。」
レイスはルルに近づくためにベリアルに攻撃を繰り出していくが、彼はレイスの攻撃を的確に防いでいき、攻め切ることができない。
「フン、、、俺が出るまでもないな、、、ベリアル、しっかりと痛めつけておけ。」
「承知いたしました、我が主人。」
ルルはベリアルに命令すると、散歩でもするような足取りでその場から離れていく。
「待て!!」
「あなたの相手は私です。」
レイスはルルを追いかけようとするが、そうはさせまいとベリアルはレイスの攻撃を防いでいく。
ただでさえファフニール達との戦闘で少なくない疲労が溜まっている上に、もしかしたらこの場から消えたルルがグレッグ達に何かをするのではないかという焦りから、彼の攻撃は普段と比べて雑になっており、ベリアルからすれば難なく防げる攻撃となっていた。
(クソ、、、!)
ベリアルとの攻防が長引くごとに、レイスの中で苛立ちが募っていく。
そして、その苛立ちによって生まれた隙を見逃すほど、ベリアルは甘い相手ではなかった。
レイスの渾身の一撃は空を切り、ベリアルは即座に右手に力を込めた。
「終わりだ。」
(しまった、、、!)
ベリアルの鋭い抜き手がレイスの顔に迫らんとしていたその時だった。
拳くらいの大きさの「鉄の球」が高速でベリアルに迫っていた。
「ッ!?」
突然のことにベリアルは驚き、思わず飛び退いてレイスから距離を取った。
その鉄の球は光速を超えるスピードでベリアルがいた位置を通り過ぎ、建物の壁を貫通しながら彼方へと消えていった。
「なんだあれは、、、?」
ベリアルは訳がわからないといった様子で鉄の球が飛んでいった方向を見ていたが、即座にそれが「誰かからの攻撃」であることを察し、鉄球が飛んできた方向に目を向ける。レイスも鉄球が飛んできた方向を見て、2人は思わず目を丸くした。
「いや、惜しい惜しい、あとちょっとだったんだけどな。」
2人の目に映ったのは右手を前に伸ばしたアーノルド・ベスティリオーネ。そして、その隣にはグレゴリー・グラッドストンが立っていた。
「あなた達は、、、」
「グレッグ!ノル!無事だったのか!!よかったよかった!!」
2人はそれぞれ異なる反応をして、レイスは喜んで2人の元に駆け寄る。
「当たり前だろ、この「世界の主人公」アーノルド・ベスティリオーネがそう簡単にやられるか。」
「ご心配をおかけしました。あなたも無事で何よりです。」
3人はルルとベリアルそっちのけで再開を喜び合う。ベリアルはその様子を見ながら忌々しそうに吐き捨てた。
「一体どうやって牢を、、、看守どもめ、、、!」
「よし!これでやっと全員揃った!とりあえず3人でこいつを倒すぞ!」
レイスはグレッグに回復魔法をかけてもらった後、元気を取り戻してベリアルの前に立つ。
しかし、グレッグとノルは顔を見合わせて頷くと、レイスよりもさらに前に立った。
「この三下の相手は私たちに任せてください。」
「あんたはさっさとあのクソガキをぶっ潰しに行ってこい。」
「え、、、?」
2人の言葉に、レイスは思わず耳を疑った。
確かに、ルルが逃げてしまう可能性を考慮すれば、一刻も早くルルを追いかける必要はある。
しかし、目の前のベリアルが相当な実力者であるのはレイスにもわかる。
そんなベリアルの相手を2人に任せて良いものかと、レイスは躊躇ったが、レイスに対して2人は続けた。
「さっさと行け!アイツに逃げられてもいいのか!?それにコイツにはちょっとした借りがあるんだ。」
「ご安心を。我々は絶対に負けませんよ。」
2人の自信満々な態度を見て、レイスは決意を固める。
「、、、任せた!」
レイスは2人にそう言うと、ベルアルに向かって走る。
「そう簡単に行かせるとでも、、、」
「思うのか。」と言うよりも前に、ノルが「フォルトゥナ」の磁力の力を使い、鉄球を弾丸のようにベリアルに向けて発射する。
「く、、、!」
「あばよ!」
鉄球を避けたベリアルの横を通り過ぎ、レイスは一瞬でその場から走り去った。
「、、、フン、まぁいいでしょう。彼の運命はこれで決まったようなもの。それに、あなた方を捕らえてから追いかけても遅くはありません。」
ベリアルはそう言うと全身から濃密な殺気を放って目の前にいるグレッグとノルにぶつける。
そのあまりの殺気に先ほどまで自信満々だったノルは一瞬気圧される。
「勢いでレイス行かせたけど、、、コレ本当にいけるか?」
ジェフリー・ランドを思わせるほどの桁外れのプレッシャーを前に、ノルの額には冷や汗が流れる。
その弱気な発言を聞いた、隣にいたグレッグがすかさずノルを嗜めた。
「ここまで来てビビるのはおよしなさい。やれれば「超下剋上」というやつではないですか。」
そう言うと、グレッグはさらに一歩前に出て、ベリアルに人差し指を向けた。
「「ヒーロー」の力を見せてやる、この腰巾着が。」
一方、レイスは城の中を走り回り、ルルを捜索していた。
「アイツがどこに行ったか、分かりますかフレイヤさん!?」
『えーっと、、、ちょっと待って、魔力を探るから!』
「あ!やっぱりいいです!!」
『え?』
突然、レイスは足を止めた。彼の突然の行動に、思わず彼の中にいたフレイヤは間抜けな声を出す。
彼が足を止めたのは、高さ10メートルはありそうな巨大な扉の前だった。その扉の上部には先ほどの転移者ルルが、その下には彼に跪くような「10神王」がステンドグラスのように彫られている。
「なんとなく、、、すごくここにいる気がする。」
『、、、うん。』
ボゴォンッ!!
フレイヤの同意を得た次の瞬間、レイスはその扉を蹴りつけた。
扉が音を立てて床に倒れ、中の様子が顕になった時、レイスは自分の目を疑った。
なぜならその部屋は、数多の装飾やシャンデリアなどが取り付けられた、まさに贅を尽くした豪華絢爛そのものであり、加えて、その広さたるや小さな街がそのまま入るかのような錯覚を覚えるほどだったからである。
「、、、え?何ここ?時空歪んでるの?」
『多分、、、魔法だと思う。』
「その通り。」
2人が部屋の様相に驚いていると、奥から人の声が聞こえてきた。
声の主は言うまでもなかった。
レイスがゆっくりと進んでいくと、やがて高所に設置された巨大な玉座と、そこに座る人物が見えた。
「この『玉座の間』は特別でな。行事の日とかに使うんだ。数万人の臣下が集まるのは中々の光景だぞ?とりあえず、久々の客人だ。歓迎しよう。」
ルルは肘をつきながら得意そうな顔でレイスを見下ろす。
そして、レイスはルルを下から睨みつけながら口を開いた。
「お邪魔します。」
「いらっしゃい。」
読んでくださりありがとうございます。
個人的な事情でここ1ヶ月以上更新ができていませんでした。
申し訳ありません。
今日から更新のペースを上げていきますので、今後ともよろしくお願いします。




