第93話 新技披露
時を同じくして、城の地下牢では、兵士たちによるグレッグとノルに対する尋問が行われていた。
しかし実際には尋問など名ばかりで、ルルや10神王による本格的な粛清が始まるまでの間の、兵士たちのストレス発散のためのはけ口となっていた。
無論、後にここに送られてくることになるであろうレイスを含めた彼らはルルのオモチャであるため、勝手に殺すことも四肢を欠損させることも許されない。そのため、現在グレッグとノルは兵士達の「パンチングマシーン」として遊ばれているという状況であった。
特に悲惨だったのはノルであり、彼は通りがかった兵士たちに挑発を繰り返し、それがきっかけで兵士たちによる「サンドバッグ大会」が一時間ほど前から始まり、彼の体には痛々しい打撲の傷が刻まれている。
「ハァ、、、ハァ、、、やたらと頑丈だな、この生意気な人間め。」
兵士の1人は、拳の痛みを和らげるように手をプラプラと動かす。彼らも本来なら人間の体など一瞬で破壊できる程度の力は持っているのだが、ノルは現在神との融合を果たしており、特殊な鎖で拘束されているとはいえ彼の肉体は強靭なモンスターと言えど簡単にダメージを与えられるものではなくなっていた。
「ゲホッゲホッ、、、フン、、、訓練が足りないだけじゃねーの?見掛け倒しのヘナチョコが。」
「なんだと!!」
激昂した兵士は再びノルのがら空きの腹部を殴りつけ、ノルは呻き声をあげる。
「フン、イキがったところで何にもならねぇぞ?どうせお前は動けやしないんだ。コイツが欲しいだろ?ホラホラ。」
ノルとグレッグの手錠用の鍵を彼らの顔の前で見せびらかし嗜虐的な笑みを浮かべる兵士。ノルはそんな彼に対してフンと鼻を鳴らした。
「やっぱり見掛け倒しかよ。ケンカする度胸もないしょっぱいチンピラめ。ま、それもしょうがない。こんな状況でもなければお前たちなんぞにこの偉大な俺様の体を殴る機会なんて生涯訪れないだろうしな。」
「口の減らない奴だ!!」
再度の挑発を受け、兵士は一層激しくノルの腹部を殴打する。
「や、やめなさい!!ノル!!君ももう喋るな!!」
たまらずグレッグが制止するも、ノルへの攻撃は終わらず、牢屋には彼の苦痛の声が響く。
「ククク、、、いい気味だ。言っておくがルル様の尋問はこんなものじゃないぞ。創造を絶するほどの恐怖がお前たちを」
『ルル・ルーン!!聞こえているか!!』
すっかり得意になった兵士がさらなる攻撃を仕掛けようとしたところで、地下牢にまで届くほどの大音量の声が聞こえてきた。グレッグとノルはその声に聞き覚えがあった。
(レイス、、、?)
『お前の手下どもの身柄はこっちが預かっている!!多分、、、何人かはまだ生きている、、、と、思う!!お前が捕まえている俺の仲間と交換だ!!出てこい!!ビビってんのか!?おーん!?』
人質の交渉とはとても思えない乱暴な声が響き、グレッグは呆れつつもレイスがとりあえず元気そうなことにほっと胸を撫でおろす。
「な、なんだってんだいったい!」
当然ながら兵士たちはレイスの声を知らないので、彼らの間に動揺が走る。
「待て!シッ!静かに!」
そんな彼らを、この場で最も階級が高そうな男が制止し、耳につけた機械のスイッチを入れる。
「将軍からだ。すぐに戦闘態勢に入れと。」
「なに!?」
兵士が指令を聞いてノルから目を離したとき、
ヒクヒクッ ヒクヒクッ
「うっ あうっ あうっ」
ノルの体が小刻みに痙攣し始める。そして、
「ヴォエエエエエェェェッッ!!!」
度重なる腹部への攻撃に耐えきれなくなったのか、ノルは胃の中のものを全て床に吐き出した。
「うわ!汚ねぇ!!」
ノルの嘔吐に気づいた兵士はとっさに飛びのき、自身の服に吐しゃ物がかかっていないのを確認すると、忌々しそうにノルを睨んだ。
「ケッ、ざまぁみやがれ。」
兵士たちは捨て台詞を吐くと足早に牢屋から出ていく。そして最後の兵士が牢の扉を閉めると、オートロックの扉の鍵が閉まる音が聞こえ、牢屋の中は彼ら2人、正確にはパナケイアも入れて3人だけになった。牢の中にはノルの吐しゃ物の酸っぱいにおいが充満し、いけないとは思いつつもグレッグはつい顔をしかめる。
「えっと、、、大丈夫ですか?」
「、、、、、、」
グレッグは心配そうに声をかけるが、ノルから返答はない。
それも無理もないだろうとグレッグは思った。体中を痛めつけられた挙句、大勢の前で吐いてしまった苦痛と屈辱がどれほどのものか想像に難くない。
グレッグはノルと相性が良いわけではなかったが、さすがに気の毒になり言葉を選びつつ励まそうとする。
「気に病まないでください、あと少しの辛抱です。あと少ししたらレイスが助けに来てくれるはずですから。」
ガチャッ
「え?」
グレッグの横で鍵が開いたような音が聞こえ、彼は間抜けな声を出してノルのほうを見る。
「フー、、、」
なんとそこには、天井から吊り下げられた手錠を外し、すっかり自由の身となったノルが立っていた。
「え、、、?ど、どうやって、、、?」
「かなり制限されたけど、ちょっとした魔法くらいは使えたよ。」
そう言ってノルは先ほどの兵士と同じように指につまんだ鍵をプラプラと動かして見せる。
「あ、、、」
それを見てグレッグは、ノルが何を狙っていたのかを察した。彼は嘔吐した時にとっさに磁石魔法を使い、鍵を手の中に吸い寄せたのだった。
「目の前でゲロ吐かれたら自分が鍵もっていたことも忘れちまうだろうさ。その前にレイスの援護があったのもよかった。あ、ちなみに「いつでもどこでもゲロを吐ける」ってのは俺の特技なんだ。やり方教えようか?」
「いいえ、結構です。」
ノルは鼻を高くしながらグレッグの手錠を外した。
「なんて抜け目のない、、、本当に助かりました、ありがとうございます!」
グレッグはノルに深く頭を下げてお礼を言うのと同時に彼に回復魔法をかけ、ノルを軽んじていたことを心から恥じた。
(私の目は節穴だった。彼は絶対にこの先の戦いに必要な人材だ。)
グレッグが感心しているのを尻目に、ノルは檻の前に移動して、神の力を発動すると思い切り殴った。
金属同士がぶつかったような轟音が響くが、わずかに扉がへこんだだけであった。
「イッテ、、、予想はしてたけど普通の檻じゃないな。」
ノルは痛んだ手を押さえながら吐き捨てる。それを見たグレッグは牢屋の壁を触りながら分析した。
「檻だけじゃない。どうやら建物全体が魔力でコーティングでもされているようです。」
「まいったなぁ、ここを壊すのは骨が折れるぞ、比喩抜きで。」
ノルがため息を吐くと今度はグレッグが聖職者の上着を脱いで前に進み出る。
「ここは私の出番ですね。」
自信満々といった様子のグレッグの言葉に、ノルは耳を疑った。
「は?いやいや、、、あんた戦えないだろ。」
ノルの指摘は至極当然であった。ノルにとってグレゴリー・グラッドストンは根っからの回復役であり、彼自身が戦ったりすることなどまずありえないという認識であった。
「まぁ見ててくださいよ。ここ数日間、飛行機で練習しただけなので粗削りですがね。」
そう言うとグレッグは右手を強く握りしめる。その瞬間、彼の体が凄まじい魔力に包まれる。
「こ、これは、、、!」
「私は昔から攻撃魔法を全く覚えられなかった上に「魔力を放出する」ことが苦手で魔力量も少なかった。だが今の私ならばこれができる!」
グレッグの全身の魔力が右手に集中していく。その魔力量の凄まじさたるや、同じく神との融合を果たしたノルでさえ思わず冷や汗が流れるほどであった。
「おい!何をしている貴様ら!!」
「檻から離れろ!!さもないと!!」
異変に気づいた先ほどの兵士たちが戻ってきて、怒鳴りながらグレッグに武器を向ける。
しかし、彼らの制止も虚しく勢いよく突き出されたグレッグの拳が檻に触れた。
「グラッドストン流拳法!!『魔力拳』
ドォォォォンッッッ!!!
大爆発を起こしたかのような轟音が牢屋全体に響き渡り、ノルは思わず両手で耳を押さえる。
「ワーオ、、、」
目を開けた時、そこには散々たる光景が広がっていた。
頑丈な檻は跡形もなく吹き飛び、その向こう側は瓦礫の山で、その中で瀕死になった兵士たちが呻いていた。
「それでは、レイスの元に参りましょうか。」
そう言うとグレッグは瓦礫と兵士をかき分けてかろうじて原型を保っている階段を見つけ、地上に上がっていく。
「あ、、、ハイ、、、」
グレッグがやったとはとても信じられない破壊を前にして、ノルは若干呆然としながら彼を追いかけるのであった。
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