第92話 天魔王の本拠地へ
レイスは意識を取り戻した館の警備兵たちに手伝ってもらいながら、死体あるいは瀕死になった10神王をある部屋に集めていた。
「閣下!こ、これで全員分集めました。」
1人の兵士の言葉を聞いたレイスは部屋に集められた10神王を数える。粉々になったバーバラは土を運ぶときに使う「ネコ車」に積み上げられ、それ以外の8人の10神王も無造作に重ねておかれており、かつての上司への敬意は微塵も感じられない。
10神王を蹂躙したレイスの桁外れの力を目の当たりにしてしまうと、100年の忠誠も吹き飛んでしまうのも無理もないことであった。
「いやー、ありがとうね。手伝ってくれて。」
「いいえ滅相もない!!大変光栄であります閣下!!あっ!お疲れではないですか!?こちらハチミツレモンです!!」
レイスの感謝の言葉に対し、レイスに怯え切っている兵士は冷汗をかきながらひきつった笑顔でやりすぎなほど下手に出た返答をする。
「、、、ありがと。」
レイスは彼らの様子を見て思った。
きっとこの「大モンスター連合国」は今までもこのような感じだったのだろうと。
ルルや10神王たちの力を目の当たりにした者たちは恐れおののき、媚びへつらい平伏する。そしてルルたちはそれを自分たちの人徳がなせる業だと勘違いし、ますます増長する。
それが長年続いて形だけ肥大し続けたハリボテ。それが「大モンスター連合国」、ひいては「ロディニア帝国」の正体なのだろうとレイスは察した。
要は規模の大きいおままごと。そのあまりの馬鹿馬鹿しさにレイスは心の中で苦笑した。
「、、、ところで、こんなもので本当にルルのところまで行けるの?」
レイスは部屋の真ん中にある魔法陣を指さしながら問いかける。
「は、はい!ルル様と10神王様の館間を移動できるワープホールであります!10神王様のお屋敷には必ず1つはあります!」
(なるほど、こいつらが一箇所に集まってたのはこれを使ったからか。)
レイスがこの場に来た時に感じていた小さな違和感が、これで解消された。彼らはこの魔法陣を使って、あの短い時間の間にファフニールの家に集結することができたのだ。
(飛行機か何かが手に入れば御の字だと思ったけど、こっちの方が楽でいいな。)
「ちょっとあんた、俺とこいつらをルルのところにいっぺんに飛ばすことできる?」
「は、はいぃっ!!お、お任せを!!」
レイスの言葉に慌てふためいた兵士は慌てて機械を操作しはじめる。すると、瞬く間に床の魔法陣が青い光を放ち始める。
「おぉー、、、これどういう原理?」
「は、はい!転移者ウォーレン様がお作りになった「魔科道具」です!原理は分かりません!!」
動転していた兵士は、レイスの質問に対して「分からない」とそのまま答えてしまい、「しまった」と思って頭を両腕で覆ってしゃがみ込んだが、肝心のレイスはそんなことを別に気にはしなかった。
「ふーん、、、便利なもんだな。あっ、そうそう、ところであんたら遊び半分で人間を殺したりしたことある?」
わざとらしく指を鳴らすレイスの言葉を聞いた兵士たちはその瞬間血が凍りつく思いだった。あるいは本当に今日のあまり血が凍ってしまったのかもしれない。
「ありません!!本当に本当にありません!!」
兵士の中でもリーダー格の長身のゴブリンが部下たちを庇うように前に来て必死の形相で否定する。
レイスからすればそれが本当であろうが嘘であろうがどうでもよかった。
ただ彼らの蒼白になった顔、恐怖のあまり真っ白になった髪、目や鼻から体液を流すその有様を見て、少なくとも今後彼らが今後なにか悪さをすることはないだろうという確信が持てただけでひとまずは十分であった。
(「神の威光」的なのはこういう時に便利だな。)
「まぁいいや、それじゃあルルのとこに行くから、お願いできる?」
「は、はい!!よ、よよ、喜んで、、、!!」
ゴブリンは震える手で機械を操作し、最後にスイッチを押す。するとその瞬間レイスと10神王の亡骸たちは消滅し、緊張の糸が解れた兵士たちは糸が切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた。
ルルの城にある広大な庭園。
そこでは現在、十数人の兵士たちが整列していた。
レイスを捕らえた10神王ファフニールを迎えるためである。
しかしながら、彼らは違和感を感じていた。ファフニールから「向かってくるレイスを捕捉した」という連絡が来たのは今から約1時間前。
その間ひたすら彼らはファフニールが出てくる予定の魔法陣の前で待っていたのだが、待てど暮らせどファフニールが魔法陣に現れる様子はない。
来ないからと言ってその場を離れることもできず悶々とした時間を過ごしているうちに、1時間も経ってようやく魔法陣が青い光を放ち始めた。
(やっとかよ、、、)
絶対に口に出すことは許されないが、兵士たちのほぼ全員が心の中でため息をついた。
レイスが複数人の総督を倒しているという情報は彼らも聞いてはいるが、それを加味してもファフニールたちの実力であればレイスを捕まえるのに10分もかからないはずである。にもかかわらずこれだけの時間がかかっているということは、その理由は一つしか考えられない。
おそらくファフニールたちはレイスを使って遊んでいたのだ。
ルルが天下をとって以来、退屈を持て余した10神王たちの残虐性は日に日に増していき、それにともない国全体が人間への拷問や虐殺を嬉々として行うようになり、数年前までは、惨殺された人間の死体があちこちに転がるカオスとなっていた。
それらは労働奴隷人口の減少を懸念したルルにより、表向きは人間に対する虐殺は禁止されたが、各地の警察署をはじめとしたでは尚もストレスの捌け口としてによる人間の労働奴隷の連行と虐殺が暗黙の了解として行われ、強い権力を持つ10神王の館では特にそれが顕著であった。
きっとファフニールの館でレイス・ビネガーは、嫌いな人間相手であっても思わず同情してしまうほどに悲惨な目にあわされているのだろう。それ自体はどうでもよかったが、趣味のためにこの暑い中待たされるのは勘弁してほしいと兵士たちは思っていた。
このように呑気に待っていた彼らであったが、魔法陣に現れた人物を見た瞬間、混乱とともに一気に緊張が走ることになる。
「フー、、、これが生身のワープか、、、なんか頭がグワングワンする、、、」
「「「「「、、、、、、、、、、、、え?」」」」」
「ワープ酔い」でもおこしたのか両手で頭を押さえるレイス・ビネガーを見て、思わず兵士たちは呆けた声を上げた。
(あ、あれは、、、手配犯のレイス・ビネガー、、、!?い、いや、、、それよりも、、、奴の横にあるのは、、、!)
「う、、、く、、、」
人の山のてっぺんで呻き声を上げる瀕死の人物、それは兵士たちにとっては神をも超える存在である10神王の1人、「竜王ファフニール」であった。
「ファ、ファフニール様、、、、!!?そ、それに下にいるのは、、、ま、まさか10神王全員、、、!!?
、、、、、、う、うわぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
やがて彼らは、人の山の正体が、レイスによってズタズタにされた10神王が雑に積まれたことでできたものであることを認識する。それから一呼吸おいて兵士たちは恐慌状態に陥り、隊列などお構いなしで蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
レイスはそれを無視してファフニールの館から拝借してきたメガホンにスイッチを入れた。
『ルル・ルーン!!聞こえているか!!』
メガホンによって大きくなったレイスの声が響き渡り、城にいた者全員が外に意識を向けた。
『お前の手下どもの身柄はこっちが預かっている!!多分、、、何人かはまだ生きている、、、と、思う!!お前が捕まえている俺の仲間と交換だ!!出てこい!!ビビってんのか!?おーん!?』
レイスの声を聞いて城の内部にいるモンスターが1人、また1人と城の窓を開けて外の様子を確認する。廊下を歩いていたルル・ルーンと最側近の「魔人王ベリアル」もそうであった。
「あれファフニール?全員やられたの?」
「あの役立たずどもが、、、!」
信頼する側近が倒され驚いたルルと異なり、ベリアルは怒りと苛立ちの感情を隠そうともしない。彼が怒っていたのはレイスに対してではない。無様に敗北してルルの権威を貶めた10神王に対してであった。
「思ったよりもやるなぁ、華奢なただの女にしか見えないけど、、、ん?」
ルルがレイスを注意深く観察していると、ルルとレイス、2人の目がはっきりと合った。
(さて、一体どいつだ、、、?)
レイスは一通り叫んだあと、窓から外を伺う人たちの様子を観察する。
城の窓を開けてレイスを見ているのは、驚愕に目を見開く兵士、
(違う。)
化け物を見たように怯える使用人、
(違う。)
そして、レイスから見て右上、窓からやや身を乗り出して興味深そうにレイスを観察する、ピエロのように派手な服を着た、緑色の長髪の子供とはっきり目が合った。
「あいつだ。」
レイスはぼそりとつぶやいた。彼はコウガ以外の転移者の容姿は知らない。しかし、一見すると子供にしか見えない彼、あるいは彼女を見た時、レイスは本能的なものか、確信に近い予感を抱いた。
あの子供こそがこの世界の支配者の1人、「転移者ルル・ルーン」だと。
レイスはメガホンを投げ捨てると即座に地面を蹴ってルルのもとに飛んでいった。
「うわっ!!?」
レイスがまっすぐ飛んでくることに気づいたルルは目を見開くと、とっさに横に飛んだ。それとほぼ同時に窓から入ってきたレイスは勢いそのままに廊下の壁を蹴りつけ、衝撃により廊下中にひびが入ってバキバキになった。
当然、レイスはこの程度の攻撃でルルを倒せるなんて考えてはいない。これは10年以上にわたり転移者を追い続けたレイスからの「宣戦布告」であった。
「よう、初めまして、転移者サマ。」




