第91話 レイスVS10神王(5)
ファフニール、セルフィム、ナイア、彼ら3人の魔力ほとんどすべてをネレスに集結させて放った究極魔法「グレイテスト・アクアリウム」は完璧に発動された。
「どうだネレス?奴はちゃんと中にいるか?」
「問題ないわ、彼は中にいる。封印は成功よ。」
「そうか!ハハハハハッ!!今度という今度こそやつもくたばるだろう!!、、、だが、念のため回復はしておこう。ナイア。」
「分かりました!「パーフェクト・ヒール」!」
レイスの異常な力を目の当たりにしたファフニールは目の前にある真っ黒な物体を見て高笑いしつつも警戒を怠らない。彼はチートスキル「愛神の抱擁」を持つ「大モンスター連合国」随一の回復術師「精霊王ナイア」に指示を出し、彼女の魔法によって彼ら4人は瞬く間に全快の状態となった。
ファフニールたちと彼の館のちょうど中間地点の空中には、直径50メートルの漆黒の立方体が出現していた。
その正体はネレスの究極魔法「グレイテスト・アクアリウム」によって生み出された水の塊であり、言うなれば「超深海の牢獄」。
単一の宇宙どころか何千億、何千兆、いや、数学の上で示せる数の「多次元」を縦に並べていってもまだ足りない。
そんな「途方もない」としか言いようがないほどの「深海」の水をネレスは生み出し、水槽のようにレイスを包み込んだのである。
当然、そのような海など現実に存在するはずがないのだが、「海王ネレス」は水に関することであればそのような荒唐無稽な存在でさえ作り出すことができる。
ネレスのチートスキル「「海神の絶対支配」」はどのような水でも生み出すことができる。
それがたとえ、「本来蒸発するほどの高温の水」や「本来凍り付くほどの低温の水」など、理論的に不可能なものであったとしても。
その水が非現実的なものであればあるほど、発動のために消費する魔力は膨大なものになるのだが、逆を言えば、大量の魔力を込めれば込めるだけ、より「強い水」を作り出すことができるということを意味している。
ネレスの「グレイテスト・アクアリウム」はまさにそれであった。
ブラックホールなどとは比べ物にならないほど重たい水が全身にのしかかり、光など一筋たりとも入り込む余地がない地獄の空間。対象者を絶対に死に至らしめる究極の「水槽」。
この技が無事発動し、レイスを包み込むことができた時点で、ネレスは揺るぎない勝利を確信していた。
そもそも、人間に限らず陸上で生活する生物のほとんどは、水中で生きていくことができない。20分も水中にいれば確実に窒息死する。
あらゆる生物の命の源であり、あらゆる生物の命を確実に奪うことができる物質、それが水でありその水を自在に操れる自分こそが10神王で最も偉大な存在であるとネレスは自負していた。
「私が中を確認してくるわ。」
「おい待て!まだ1分だぞ!せめてあと5分は、、、」
「バカ、水中戦で私が負けるとでも?」
ファフニールの静止を無視してネレスは水槽に入っていく。
(フンッ、、、たかが人間にビクビクするなんて情けないやつ。)
水槽の中を泳ぎながら、ネレスはファフニールに対して悪態をついていた。種族的にも特にプライドが高く、人間との確執の歴史も長い人魚族のネレスは、人間に対して怯えるということが我慢ならなかった。
そもそも人魚は水中においては無敵。人魚の泳ぎのスピードは、そこらの人間は目で追うこともできない。おまけに今ネレスがいる場所は大抵の生物は細胞さえ残らないほどぐしゃぐしゃに押しつぶされる超水圧。
さらに、ネレス本人は水圧の影響を受けず、普通の海と同じように泳げるというおまけつき。
このような状況でいったいどうすれば負けるというのか。
ファフニールの緊張した顔を思い出して、ネレスは思わず失笑した。
(万が一まだ生きていたとしても、苦しんでいる顔を見ながら腹を切り裂いてやるわ。)
レイスにとどめを刺す自分の姿を想像してほくそ笑みながらレイスを探す。しかし、しばらく泳いでいるうちにネレスは違和感に気づいた。
水槽の内部は漆黒そのものなのだが、ネレスには関係なく、彼女の目には澄んだ水として写っている。
外側からは中の様子はよく見えずとも、ネレスのホームグラウンドである水中であれば、周囲の様子はよく見える。
ところがどうしたことか、水槽に入る前、探知魔法で確認したレイスの位置に着いたのだが、周りを見渡しても一向にレイスの姿が見当たらない。
(いない、、、いったいどこに)
ギュンッ
なおも探しているネレスの真横を、「なにかの物体」が一瞬で通り過ぎる。
(、、、、、、え?)
ネレスはその瞬間思考停止に陥った。
ネレスの全魔力を込めて作った「グレイテスト・アクアリウム」の超水圧の中で動ける存在を、認めることができなかったためである。
そんなネレスを嘲笑うように、その物体は生きたロケットのようにネレスの周囲を飛び回る。
そのスピードは10神王のネレスですら目で追うことができず、彼女の方向感覚を狂わせてしまうほどであった。
(く、、、!落ち着け、、、第一、奴には私の姿が見えないハズ、、、!)
『レイス!そのまままっすぐ!!』
「びょーばび(了解)!!」
ロケット、もといレイスはフレイヤの指示に従って高速で泳ぎ、両手を前に伸ばしてがら空きのネレスの背中に直撃した。ネレスはレイスがフレイヤと融合していたこと、そしてフレイヤが魔力探知が得意だということを知らなかった。
「あがッッ!!!」
ネレスは海老反りになり身動きが取れないままレイスに押され続け、そのまま「グレイテスト・アクアリウム」を飛び出した。
「「なッッ!!」」
「くっそが、、、」
突如飛び出し、弧を描きながら地上に墜落する2人を見てセルフィムとナイアは目を見開いたが、ファフニールだけは何となく予想しており、悔しそうに唇をかむ。
「ゲホッゲホッ!うぅ、、、ッ!」
衝撃のあまり地上なのかも水中なのかもまだ判断がつかない状態のネレスは、とにかくレイスから距離をとろうとして手を地面につき跳ねようとするが、上半身が一瞬浮き上がっただけで肝心の下半身は地面に打ち付けられているようにピクリとも動かず、その反動で彼女は再び顔を地面に打ち付けた。
「し、尻尾を!」
ネレスが振り返ると、彼女の尾を踏みつけ、ごみを見るかのような目で見下ろすレイスの姿があった。
どういうわけか彼は一言も発さず、頬を少し膨らませて口を堅く結んでいる。
(、、、?)
「この!!」
ネレスが彼の真意を図りかねているうちに、ファフニールが彼女を救出するために飛び込んできた。
「んっ!!」
レイスはそこから一歩も動かず難なくファフニールの攻撃を避けると、逆に彼に肘うちを浴びせた。
「ぐはッッ!!」
ファフニールはそのまま吹き飛ばされ森の木に打ち付けられるが、それ自体は彼の想定内であった。
(これでいい、、、俺は陽動!やれセルフィム!!)
ファフニールがレイスの後ろに立つセルフィムに目配せをすると、彼はすでに自身の最大の攻撃を放つ準備が完了していた。
(チートスキル「狩神の矢」をくらえ!!)
熾天王セラフィムの奥の手「狩神の矢」。
光の弓から放たれる光の矢はまさしく「必殺の一撃」であり、ゴードンの渾身の傑作でさえも紙切れのように貫く、「単体への殺傷能力」に関しては右に出るものがない代物。
発動までに時間がかかるのが最大の弱点であり、ネレスが「グレイテスト・アクアリウム」の中に入ったあと、ファフニールはもしもの時に備えてセルフィムに準備をさせていた。
そして現在、レイスはファフニールに気を取られ、片足はネレスの滑りやすい尾を踏み動きにくい状況。
舞台は整ったと言って良い。
ドシュッ!
ファフニールの犠牲により無事放たれたセルフィムの光の矢は、ギルガメオンの全力疾走に迫るほどのスピードでレイスの頭部めがけて飛ぶ。
(やった!今度こそ死ね!)
ファフニールが口角を上げたその瞬間、レイスは首をグルンと回転させてセルフィムと迫り来る矢を見た。そして、
「プッッッ!!!」
レイスは頬を膨らませると、唇を突き出して水鉄砲のように口内にあった水を吐き出した。
一見すると子供のイタズラにしか見えない行為。
しかし、レイスが吐き出した水はただの水ではない。
ネレスが10神王4人分の魔力を使って生み出した究極魔法「グレイテスト・アクアリウム」の一部なのだ。
パァンッ!!
矢の先端とレイスが吐き出した水が触れた瞬間、矢の方が砕け散った。
「、、、、、、は?」
水の勢いは止まらず、ポカンと開いたセルフィムの口に入る。すると「ドシュッ!」という銃で撃ったような音が響き、セルフィムの口から血が流れ出る。
「ダ、、、バー、、、」
虚な目になったセルファムはフラフラとよろめいて、やがて糸の切れたマリオネットのように地面に崩れ落ちた。
「やっぱり武器として使えたか。にしても、、、ペッペッ、、、海水かよ。さてと、、、」
セルフィムを倒したレイスは今度はネレスの尾ビレを掴む。
「ヒッ!!な、何をするの!!」
「こうするの。」
レイスは尾ビレを掴んだままブンブンとハンマー投げの選手のように回転を始めた。
「痛い痛い痛い!!尻尾!!尻尾ォッ!!ちぎれるぅっっ!!はなしてぇっっ!!」
「離してやる!!!」
ネレスの尾ビレが千切れそうになる直前、レイスは彼女の体を館めがけて放り投げた。
ネレスの体は森の木々に激突するが勢いはまるで止まらず館に直撃。そこからさらに何枚も壁をぶち抜き、大浴場の壁にぶつかってようやく止まった。
ネレスはベリベリと壁から剥がれ真下の湯船に落ち、魚の死骸のようにユラユラと漂っていた。
「ハァ、、、ハァ、、、これで7人。あと2人。」
レイスは息を整えながらいまだに立てずにいるファフニールと、怯えきった表情のナイアを交互に見る。
「ヒ、ヒィッ!!」
ナイアはレイスと目が合った瞬間、一瞬で館とは反対の方向に飛んで逃げていった。
(聞いてない聞いてない聞いてない!あんな化け物聞いてない!!)
今までこれほど早く飛んだことが無いと確信できるほどのスピードでナイアは羽を動かして必死に逃げる。しかしその直後、羽を強く引っ張られてナイアの背中に激痛が走った。
「イギッ!な、、、な、、、!」
振り返らなくても分かった。彼女は一瞬でレイスに追いつかれて捕まったのである。
「うおりゃあああっっ!!!」
レイスは力任せにレイスをぶん投げ、彼女の体は一瞬で館の壁に叩きつけられる。
「う、、、うぅ、、、っ」
ナイアがうずくまっているうちに、レイスがやってきて彼女を見下ろした。彼女が立ち上がるのを待っているかのようであった。
「こ、この野郎!!」
舐められていると感じたナイアは隠し持っていた猛毒のナイフをレイスに突き出す。
しかし、それが当たるはずもなく、レイスは刃を掴むとそのまま握りつぶした。
「あ、、、、、、」
呆然とするナイアに対し、レイスは左腕をナイアの首に回してガッチリと固定した。
「や、、、やめ、、、そうだ!助けてくれたらあたしのコレクションも人間の奴隷も全部あなたに」
「うりゃあっ!!」
レイスはナイアの頭を窓に突っ込ませ、それだけで終わらず彼はナイアの頭を押さえつけた。
それによって彼女の首に、割れた窓ガラスの破片が食い込んでいく。
「あが、、、が、、、」
両腕をバタバタと動かしていたナイアだったが、数秒後には動かなくなる。
レイスが彼女の髪を掴んで頭を持ち上げると、彼女の顔は血の気を失い、ガラスで切り裂かれた首からは夥しい量の血が流れているのが確認できた。
「よし、あとはあいつだけだな。」
レイスはナイアの亡骸をその辺に放り捨てると、窓から外を見る。
すると、数百メートル離れたところに、巨大な赤いドラゴンが突如現れた。
『多分アレあの赤い髪の男よ。』
「ええ、なんとなく分かります。」
「グルルルルッッ、、、」
(もはや手段は選べん。俺の国ごと消しとばしてやる!)
「竜化」は限られた才能を持つ竜人族の切り札である。
その力は絶大で、自身が持つ能力を数十倍に引き上げる。そのあまりの破壊力のため、周りにも甚大な被害が出てしまうまさに「切り札」。
特に、竜人族の中でも圧倒的な力を持ち、ただでさえ高いスペックをさらに高めるチートスキル「竜神の咆哮」を持つファフニールが変身するということは、最低でも「大モンスター連合国」全土の3割が跡形もなく消滅することを意味している。
ルル本人から直々に使用を禁じられた、まさに「禁断の力」であった。
ファフニールが大きな口を開けると、口の中に太陽を思わせる赤い光の塊が出現した。
(究極魔法「煉獄炎滅殺砲」!!)
「グオアアアアッッッ!!!」
ファフニールの口から万物を滅ぼす、この世の終わりのような火の玉が放たれる。
それと同時にレイスは窓から飛び出すと拳を強く握りしめてファフニールの破滅的な一撃を正面から迎え撃った。
「フェイタル・パンチ!!!」
レイスが渾身の一撃を繰り出すとその瞬間ファフニールの火の玉は霧散した。そして、
「うおああああっっ!!!」
勢いのままにファフニールの懐に飛び込むとレイスは彼の顎を蹴り上げた。
ファフニールの巨体が浮き上がり、空中で竜人の姿に戻った彼はそのまま地面に墜落した。
「あ、あぐ、、、こ、こんな、、、ことが、、、」
「もう手品は終わりか?」
半ば放心状態となったファフニールにレイスが指を鳴らしながら近づいてくる。
「ヒィッ!ま、待ってくれ!」
ファフニールは慌てて両手を上げて降伏のポーズを取る。無様なその姿には、もはや神王の威厳は感じられない。
「は、話し合おう!お互い悪い話じゃない!あ、あんた人間の扱いの悪さに怒ってるんだろ!?俺が神王になれるようルル様に取り計らってやる!そんで人間は全部あんたに任せる!人間の立場は上がるし金も名誉のあんたのものだ!なっ!?いい話だろ!?」
「、、、、、、」
レイスはファフニールの提案に何も答えずゆっくりと近づいていく。
「く、、、こ、これはあんたのためなんだぞ!!どうせあのルル様に勝てるはずが」
「ウオリャアッッ!!」
ファフニールの言葉を最後まで聞くことはなく、レイスの拳が彼の顔に突き刺さり、勢いのままに館まで吹き飛んだ。
館が完全崩壊しかねないほどの衝撃で激突したファフニールはついに意識を失い、動かなくなった。
「ハァ、、、ハァ、、、ハァァァァ、、、疲れたぁ、、、」
長い戦闘を終えて流石にくたびれたレイスは膝に手を置き大きく息を吐いたのであった。
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