第89話 レイスVS10神王(3)
「ハハハハハ!!怒ってる!!絶対に怒ってるなあいつら!!アハハハハッ!!」
10神王を散々おちょくったレイスは館の廊下を走りながら高らかに笑う。レイスは彼らの呆気にとられた顔を思い出すと可笑しくて仕方がなく、口からは勝手に笑い声が飛び出していた。
『怒らしたのは間違いないけど、これからどうするのよ!』
「ああいうやつらをからかうのが俺にとっては一番楽しいんですよ!」
『え!?そんな理由!?』
「それ以外にあるわけがないでしょう!?ああいうのをおちょくるのが今の俺の生きがいですよ!!」
今までにないほどのハイテンションで高笑いするレイスにフレイヤは内心引き気味であったが、同時に理解もしていた。
レイスと融合したフレイヤは、レイスの過去の記憶を共有している。
12年前にコウガたちの手によって家族ごと蹂躙され、「教育センター」に収容された忌まわしい記憶を。
そんな経験をしてきたレイスにとって、彼らと同じ穴のムジナである10神王に屈辱を与えることがこの上なく楽しいのであろうということは想像に難くなかった。
「ハハハハハッ!!、、、、、、ん?」
そんな有頂天で廊下を走るレイスの前に、一人の男が立っているのが見え、彼は足を止める。
彼は、貴族のような装飾をされた上品な黒服を身にまとった端正な顔立ちの男であった。顔だけを見れば人間としか思えないが、彼の背中から生えた巨大な昆虫の羽が、彼が人間ではないということを示している。
「あんた、、、さっきのやつらの中にいた気がするな。」
「そうですね、改めて自己紹介をしましょう。私は「蠅王バール」。以後お見知りおきを。」
以外にも丁寧な口調で、バールは身振りを交えてレイスに挨拶をする。しかし、その丁寧な態度とは裏腹に、彼の体から漏れ出ている鋭い殺気を、レイスは見逃さなかった。
「初めてですよ。我々10神王をここまでコケにすることができた人間は。その褒美に、あなたには最も残酷な死をプレゼントして差し上げましょう。」
「要するに「ムカつくからぶっ飛ばす」だろ?回りくどい言い方しやがって。」
レイスが目の前の人物と戦うために構えた時、バールはわずかに口角を上げた。
「それ」は、レイスの周りを飛びながら機会を伺っていた。やがて、三匹の「それ」は各々レイスの頭上、レイスの左右斜め後ろに陣取り、一斉に彼に向かって突進していった。
(三匹による光速を超えた速度の一斉攻撃。おまけに彼の目は今私にくぎ付け。人間には反応できません。)
「それ」を操る人物、蠅王バールが勝ちを確信した時、レイスの首がグリンと回り、目前に迫っていた「それ」をはっきりと認識した。そして、
ガチンッ!!
レイスは口を開けて顔を動かし、「それ」を噛み潰した。それだけに止まらず、レイスは両手を動かしてそれぞれ左斜め後ろと頭上から迫っていた「それ」を摘んで捕まえる。
「ペッ、、、なにこれ?蜂?」
噛み潰した「それ」を吐き出したレイスは、摘んだ両手の「それ」をまじまじと見る。
それは、全身が真っ赤に染まった、一風変わった見た目の蜂であった。
その赤い蜂はレイスの指から逃れようと暴れるものの、当然レイスの力に適うわけもなく2匹まとめて潰されることになった。
「、、、、、、ッ! チ、、、ッ ギルガメオン!」
まさか防がれるとは思っていなかったバールが面食らい、舌打ちをすると、待機してもらっていた仲間の名前を叫んだ。
「ウォォォォォォッッ!!!」
レイスのすぐ真上の天井を突き破り、狼の耳と尻尾を生やした巨漢の男、「獣王ギルガメオン」がレイスを押しつぶした。
「うわッッ!!?」
「死ねぇッッ!!」
ギルガメオンは爪を伸ばして呻くレイスの顔を切り裂こうとする。しかし、それよりも先にレイスの拳がギルガメオンの顎に当たる。
「う、、、ッ?」
顎を強打されたことで脳が揺れ、バランス感覚を失ったことでギルガメオンの爪はレイスの顔に刺さることはなくレイスの真横の床に刺さった。
「オオオオオオッ!!」
レイスはこの隙を見逃さず、ギルガメオンの体をひっくり返し、先ほどとは逆にレイスがギルガメオンの上に乗る形となり、とどめを刺すために拳を振り上げる。
しかしその直前、レイスの背中に強い衝撃が走り、彼は光速以上の速度で、壁をいくつも突き破りながら吹き飛ばされる。
「お、お前ら、、、」
「情けないわね、ギル。」
「、、、、、、。」
ギルガメオンを救ったのは二人。桃色の髪と長い角を生やし、棘のついた金棒を持った背の高い鬼人の女性「鬼王ミレナ」、そして、金色の鎧を身にまとい身の丈ほどもある妖しく輝くハンマーを持った屈強なドワーフ「土王ゴードン」であった。
「く、、、いや、悪い、助かった。」
助けられたことを屈辱に思いながらも、ギルガメオンは礼を言いながら立ち上がり、己の油断を恥じた。仮にレイスの攻撃をあのまま受けていたとしてもまず死ぬことはなかったであろうが、人間ごときに攻撃されることが屈辱であることは変わりない。
「いかんな、心に贅肉がついていたらしい。まぁいい、これでやつも間違いなく死んだ。」
「そうね、もう人の形をしているはずがないわ。」
ガララッ
すでに決着がついたものと思い、軽口を叩きながらレイスを吹き飛ばした方向10神王たちであったが、レイスが埋まっている瓦礫が動き出して、彼らは幽霊を見たようにぎょっとする。
「イテテ、、、効いたぁ、、、」
間もなく、瓦礫の中から背中を押さえたレイスが這い出てきた。
痛そうな表情こそ浮かべているものの、その体には傷らしいものもなく、足元がふらつきすらしていない。
軽く小突いた余波で多元宇宙数兆個程度なら欠片すら残さず消滅させられる10神王屈指の怪力の持ち主、「鬼王ミレナ」。そして、人知を超えた強大な武具を生み出す「土王ゴードン」。彼らの攻撃をまともに受けて、無事だった生き物などこれまで存在しなかった。にもかかわらず、平然とした様子で立ち上がったレイスは、ギルガメオン達の目にはこの世のものではない存在にしか映らなかった。
「ここは、、、この屋敷の「ボールルーム」ってところかな。広くなったし丁度いい。」
レイスの戦意は微塵も衰えることはなく、不敵な笑みを浮かべながら構える。彼を前にした10神王たちは気圧され、思わず一歩後ずさった。
「どうした、こないのか?こないなら、、、こっちから行くぞ!」
レイスが正面にいたギルガメオンの懐に飛び込むと、それを認識したギルガメオンは大きく目を見開いた。
「なッ!?」
ギルガメオンはとっさに両手をクロスさせて防御を試みるが、威力を殺しきることはできず、彼の巨体はボールルームの壁まで吹き飛ばされた。
「この!!」
「ムン!!」
レイスを左右から挟む形になったミレナとゴードンが、彼に向けてそれぞれ金棒とハンマーを振り下ろす。しかし、レイスは今度は難なくそれらの攻撃を両腕で受け止めた。
「なっ!?」
「む、、、っ!」
2人がかりの攻撃を難なく止められた目の前の現実に、ミレナは大きく目を見開き、寡黙なゴードンは眉をひそめた。
「いちいちビビるな!オラッ!!」
レイスはミレナを蹴り飛ばし、自由になった手でゴードンを殴り飛ばした。
すると今度は、朦朧としていたギルガメオンが意識を取り戻し、レイスに怒りの目を向ける。
「く、、、ッ チートスキル、、、「神狼の狩」!!」
もはやプライドを優先している場合ではないと、ギルガメオンは即座に自身の最強の力を発現する。
その瞬間、彼の全身が真っ白な毛で覆われて尻尾が巨大化し、牙や爪が伸び、より狼に近い見た目となる。
「アォォォォーーーンッッ!!!」
変身後に遠吠えをしたギルガメオンは壁を蹴ってレイスに飛びかかった。ギルガメオンは10神王で「最速」の男。彼の動きは「音速」「光速」などというこの世に存在する単位では測ることは到底できない、まさに神の御業であり、同じ10神王ですら彼の動きを認識することすら至難の業。
そんなまさに「神速」の一撃がレイスに迫らんとしていたが、ギルガメオンの鋭い爪がレイスの顔を切り裂くということはなかった。
なぜなら、ギルガメオンの手首はレイスによってがっちりと掴まれていたからである。
「そ、そんな、、、」
「ジェフリー・ランドと比べたらスローもいいところだ。」
レイスは非常に告げると、背負い投げでギルガメオンを再び壁に激突させ、ギルガメオンは壁を破壊してうめき声を上げながら廊下に倒れ込んだ。
「お、おのれ!!」
10神王3人が次々と倒されていくのを見て、バールもついに動き出した。彼は自身が使役する多種多様な虫をレイスに差し向けた。その虫たちは一匹一匹がギルガメオンに準ずるスピードで、そんな虫が何万も一斉に襲い掛かる。
(私のチートスキル「虫神の生育」で私の虫たちは限界を超えた力を得ている。たとえ10や20防げたとしても、この子たちすべてを避けることなど)
できるはずがない。
そう思おうとした時だった。バールは目の前の光景に絶句した。
レイスに殺到していった虫たちが、彼の体にたどり着く前にチリになっていくのである。
よく見ると、レイスの体からは両腕が消えていた。
厳密には消滅したわけではなく、レイスは腕を超高速で動かして虫たちを迎え撃っていたのであるが、バールには彼の動きを認識することもできなかった。
「あ、、、な、、、な、、、」
バールが呆然としているうちに彼の使役している虫たちは尽き、全てを払い終わったレイスは両手をプラプラと動かしてみせた。
「あ、あり、、、あり、、、ありえ、、、な、、、」
バールは目の前の出来事が現実のものであるということを受け入れることができなかった。
しかし、衝撃のあまり硬直したその隙を見逃すほどレイスは甘くなかった。
彼はあっという間にバールの懐に飛び込むと、呆然としているバールの顔に拳を突き出した。
「ウオリャアッッ!!」
「ブッ!!?」
バールは防御の姿勢をとることもできずに殴り飛ばされ、壁を何枚も突き破った末に外に放り出されて地面に墜落した。白目をむいたバールはしばらくの間ピクピクと動いていたが、やがて完全に動かなくなる。
「な、、、まさか、、、バールが、、、!」
バーバラのみならずバールまでもが華奢な女にしか見えない人間レイスによって倒された。その非現実的な光景を見て呆気にとられるギルガメオンに、レイスが飛びついた。
「なぁッ!?」
ギルガメオンが我に返った時にはもう遅く、レイスは彼の腰に足を回してがっちりと固定する。続けて、レイスはギルガメオンの肩を掴むと、上半身を大きくのけぞらせる。レイスがこれから行うことを察したギルガメオンの顔がサッと青ざめる。
「ッ!!や、やめ、、、ッ!」
次の瞬間、超巨大な鐘を叩いたような、思わず耳を押さえたくなるほどの轟音が館全体に響き渡った。
「あ、、、あば、、、ば、、、」
レイスの強烈な頭突きを受けたギルガメオンの額からは噴水のように血が噴き出し、しばらく痙攣した後白目を剥いて頭から倒れた。
「う、うそ、、、」
ミレナとゴードンは、バールとギルガメオンが立て続けに倒されたのを見てただただ言葉を失っていた。
「2、、、3、、、よし。」
ギルガメオンの沈黙を確認したレイスは、復活したミレナとゴードンに目を向ける。
その瞬間、2人は「ヒッ」と小さな叫び声をあげて2,3歩後ずさる。2人のレイスに対する「恐怖心」は今や、「闘争心」を完全に超えつつあった。
彼らの怯えを感じ取ったレイスは満足げに口角を上げ無情に告げる。
「これで3、、、あと「6人」。」
読んでくださりありがとうございます。




