第87話 レイスvs 10神王(1)
レイスとフレイヤは旅客機に乗り、目的地であるファフニールの住処に向かっていた。
『レイス、あとちょっとで目的地みたいよ。』
「あ、本当ですか?」
レイスは、フレイヤから連絡を受けて操縦室に入り、モニターに映し出された地図を見る。
『この光ってる部分が目的地よ。この調子だとあと数分で着くはずだわ。』
「へぇ、そうなんですか。それにしてもすごいですねぇ、あんなマニュアルで飛行機の操作方法が大体分かるだなんて。さすが神さま。」
『えへへ、、、』
機械が全くからっきしなレイスはフレイヤの飲み込みの早さを手放しで称賛する。レイスも一応マニュアル本を読んで勉強しようとしたが、数ページ読むだけで思考が停止してしまい、結局訳も分からず適当にボタンを押そうとしたところをフレイヤに怒られてしまうという有様だったため、機械に強いグレッグやフレイヤのことは心底尊敬していた。
褒められたフレイヤはまんざらでもなさそうで照れくさそうにしていた。
そうこうしているうちに旅客機は急激に速度を落としていき、外の景色が普通に見えるまでになった。
『あ、あれじゃない?あの遠くにあるおっきな建物。』
フレイヤが指さした方向を見ると、レイスにも森の中にそびえたっている城と見まがうような赤い屋敷が見えてきた。
『そろそろ手動にして近くに下りないと。』
そう言ってフレイヤはてきぱきと機械を操作していく。レイスはそんなフレイヤと、だんだん大きくなっていく屋敷を交互に見ていた。
その時、レイスは赤い屋敷の前に何かが現れたのが見えた。
「、、、あれ?建物の前になんかありません?」
『え?そう?』
だんだんと屋敷に近づいてきたことで、建物の前に突然現れた何かがはっきりと見えてくる。
それは、複雑そうな紋様が描かれた魔法陣であった。
「、、、、、、マズイ!!フレイヤさん!!俺の中に入って!!」
それの正体を認識した時、直後に起こるであろうことを感じ取ったレイスは慌ててフレイヤに指示を出す。
『わ、分かったわ!!』
おそらくはフレイヤも同じことを思ったのであろう。彼女はレイスの叫びに疑問を感じることもなく、急いでからの体内に避難した。
すると、瞬く間にレイスの体に変化が生じる。髪が急激に伸びて真っ赤なロングヘアーになり、筋肉質だった体は華奢で滑らかな肌となり、側から見たら女性にしか見えない姿に変身した。
「よし!行くぞ!オラァッ!」
変身したのを確認すると、レイスは機体を突き破って外に飛び出した。
ドォッ!!
直後に魔法陣から赤い光線が放たれ、旅客機から飛び出したレイスの真下を通り過ぎると後ろの旅客機に直撃した。
ビッグバンのような爆風を背に受け、レイスは超光速で屋敷に飛んでいく。
「うわぁぁぁぁっっっ!!!」
レイスは絶叫しながらも拳を固く握りしめ、屋敷の壁に激突するタイミングで腕を伸ばして壁を殴りつけた。
レイスの拳は頑強な屋敷の壁を突き破り、勢いそのままに部屋に飛び込んだ。
「イテテテテ、、、し、死ぬかと思った、、、」
九死に一生を得たレイスは埃を被った服をパンパンとはたきながら起き上がる。
拳をよく見ると、指に小さな傷がついていた。
「、、、やたらと頑丈ですね、この建物。」
『きっと転移者たちが普段生活していても問題がないようになっているのね。』
「なるほど、たしかに普通の素材だとすぐに壊しそうですもんね。」
レイスは納得しながら廊下に出た。耳を澄ますと、向かって右の方角から大勢が階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。
「とりあえずこっちですね。」
レイスは迷うことなく音のする方向を指さした。
『どこに向かったらいいか分かるの?』
「正直まったく分かりませんが問題ないです。こういう時は大体、、、」
直後、階段を上ってきた数人のスーツを着た魔人族が廊下に現れる。レイスと目が合ったモンスターは一瞬驚愕の表情を浮かべたものの、すぐに臨戦態勢に入り各々武器を手に取ってゆっくりとレイスに近づいていく。その間にも後続が次々と駆けつけ、レイスの目の前には殺気だった20人以上のモンスターたちが迫ってきていた。
その光景を見てもレイスは動じることはない。むしろ好都合だと言わんばかりに微笑んで見せた。
「、、、こういう時は敵が来る方向に進んでいけばいいんですよ。」
レイスが通った道や階段には、完全に意識を失ったモンスターたちが倒れ伏し、マーキングのようにレイスの進行方向が一瞬で分かるようになっていた。
そして数分後、敵をひたすら蹴散らしながら道を進んだレイスは開けた空間にたどり着く。
「あれ?なんか広いところに出ましたね。」
『ここはたしか一階だし、エントランスホールってところかしら?』
「、、、暗くてよく見えませんが、たぶんそんなところかと。」
窓もなく電気もついていないやたらと暗い空間を、レイスは慎重に進んでいく。ちょうどその空間の真ん中あたりまで来たとき、見計らったようにパッと天井の巨大なシャンデリアに明かりが灯り部屋中を照らした。
「わっ!びっくりした!」
突然の光にレイスは驚き、とっさに腕で顔を覆う。そんなレイスの耳に男の声が入ってきた。
「ようこそ侵入者くん。恥ずかしがらずに顔を上げたまえ。」
その声に従ってレイスはゆっくりと顔を上げて周囲を見渡す。明かりがついてはっきり見えるようになったフその空間は案の定豪華なエントランスホール、中央には2階に続く大きなエントランス階段がある。
そして、その階段を上りきった所に、笑みを浮かべた異様な集団が立っていた。
頭に角、そして体中に鱗を生やした男、妖精のような羽を生やした美しい女、どういう原理か宙に浮いた直径二メートルほどのサイズの水の塊に魚の下半身を入れている人魚、天使のような翼が生えた男、果てには岩でできたゴーレムのような謎の生物、この国のことに全く詳しくないレイスにも、十人近くいる彼ら一人一人全員がそれぞれ異なる種族であることが分かる。
『なんか、、、バラエティ豊かな人たちね、、、』
「ホントですねぇ、、、あのーすみません。」
レイスは手を上げて、率直な質問を口に出してみることにした。
「もしかしてですけど、サーカスか何かの方たちですか?」
レイスの大きな声が広いホールに響き渡った時、彼らの表情がわずかにひきつって、場の空気が凍り付いたような気がした。
「、、、たぶんサーカスじゃないな。」
『バカバカッ!挑発してどうするの!敵に決まってるじゃない!』
「敵?あぁそっか、そりゃそうだ、、、おーい!あんたたち敵か?ごめん!見た目が面白くて気づかなかった!なんか全体的に派手だし、、、岩の着ぐるみみたいな人もいるし。」
『、、、はぁ。』
フレイヤに指摘され、敵とはいえ申しわけなさを感じたレイスは謝罪と弁明を試みた。その発言が火に油を注ぐものであることにレイスだけが気づかず、フレイヤはレイスの中で頭を抱えた。
完全に冷え切った空気の中、沈黙を破ったのは集団の真ん中にいた鱗の男であった。
「フフフ、、、なかなか面白い小娘だ。それにしてもレイス・ビネガーは「男」と聞いていたが、、、まぁいい、私は「竜王ファフニール」。ルル・ルーン様に仕える「10神王」である。」
「10神王、、、ということは、もしかして他の人たちもそう?」
彼らからは何の返事もなかったが、その反応からレイスは正解であるということを確信した。
「フーン、、、そうか、、、よかった!」
「ん?何がよかったんだ?」
「だって1、2、3、、、9人もまとめて倒せるってことじゃないか。1人ずつとか面倒くさいもん。」
その瞬間、つい先ほどまでか弱い小動物でも見るような目でレイスのことを見ていた彼らの顔から笑顔が完全に消え去った。
多元宇宙すら指一本で消滅させられる、彼らほどの圧倒的な強者になれば、さながら神が人間の無礼を許すように取るに足らない下々の者たちの怨嗟や罵詈雑言など平然と受け流せる。
しかしそんな彼らにも、相手が誰であろうと決して許すことができないものがある。
それは、自分たちの力を見くびられること。
彼らのその次元を超えた力はルルから与えられたものであり、彼らの力を見くびられるということは、敬愛する主を愚弄されるも同然なのである。
「どうやら、雑魚数匹を片付けただけで現実が見えなくなってしまったらしいな。おい、「岩の着ぐるみ」。コイツに格の違いを教えてやれ。」
「ゴアァァァッッ!!」
ファフニールの指示を受けたゴーレムがズシンズシンと響かせながら階段を下りてくる。3メートルを超えるゴーレムが目の前に立つとその迫力は相当なもので、圧迫感から思わずレイスは後ずさった。
「1人だけ?他は来ないのか?」
「フッ、何を世迷言を。バーバラ、殺さない程度にな。」
レイスの前に立ったゴーレムは石の手で器用に手招きをした。
「ドコカラデモ、、、カカッテコイ、、、」
「フンッ!!」
レイスは即座にバーバラのどてっぱらにストレートパンチを放つ。しかしバーバラはいつの間にか消え、レイスの拳は空しくからぶった。
『レイス!後ろ!!』
「え?」
レイスが振り向いたときにはすでに、バーバラが巨大な手を振り下ろす寸前の体勢に入っていた。
「ゴガァッッ!!」
レイスはなすすべなくその巨大な手に押しつぶされ、衝撃でエントランスホールの床全体にひびが入る。転移者の側近クラスの攻撃にも耐えられるように設計されている屋敷の床が割れたという事実が、バーバラの攻撃の恐ろしさを示していた。
「おいおい、死んじまったらどうする。」
バーバラも含めて10神王は全員が勝負あったと確信していた。
しかし、
ビキ ビキビキ
みるみるうちに、床に叩きつけたバーバラの右手にヒビが入っていく。そして、
ドゴォッッ!!
轟音と共に粉々になって弾け飛んだ。かつてバーバラの右手があった場所には、拳を突き上げた無傷のレイスが立っている。
「グオオオッ!」
「トロそうなのに素早いやつだな。だが、」
右手を破壊されて一瞬よろめいたのをレイスは見逃さない。彼は床を蹴ってバーバラの懐に飛び込んだ。
「今度は外さない。」
レイスの高速の拳がバーバラの巨体に刺さる。バーバラは全身にヒビが入りガラガラと崩れた。
「あんまり大したことないじゃないか。」
レイスは挑発するようにいまだに階段の上にいる残りの10神王を見る。
しかしながら、彼らは若干驚いた表情を見せているものの、仲間の1人が粉々になったというのに、そこまで動揺している様子ではないのが気になった。
「中々やるな。だが、それだけで終わると思わない方がいいぞ?後ろを見てみろ。」
「え?」
レイスが再びバーバラの亡骸を見ると、石の残骸をかき分けて石のような色の肌をした女が出てきた。
「ふぅ、暑かった〜。」
「え?は?え?」
あまりの展開にレイスは思考停止する。その女はたしかに瓦礫から這い出てきた。それはつまり、彼女がずっとあのゴーレムの中にいたということを意味していた。
「え?いや、、、ホントに着ぐるみ?」
「当たり前でしょ?ゲームじゃあるまいしあんな見た目の生き物がいると本気で思った?」
「、、、それもそうか。」
改めて考えると石でできた生き物などいるはずがない。冷静に考えればすぐに分かることに気づけなかったことに、レイスは小さくショックを受けた。
「、、、まぁいいわ。初めまして、アタシが石王バーバラ。アタシの鎧を壊すやつなんて久しぶりよ。褒めたげる。」
「アンタもアンタの仲間もずいぶん余裕そうじゃないか。肝心の鎧が粉々になったってのに。」
「フフフ、何を勘違いしているの?あんなものがアタシの全力だとでも?いいことを教えてあげる。アタシの種族名は「硬皮族」。「ゴーレム」はただの通称よ。アタシたちの真の武器は生まれ持ったこの肉体。さっきの鎧もアタシからすればただの薄皮でしかないわ。そして、アタシの力はそれだけじゃない。見るがいいわ、これがアタシのチートスキル「究極硬化」よ。」
バーバラの体が妖しく輝きだし、ダイヤモンドのような光沢に包まれる。先ほどバーバラ自身が自身の鎧を指さして「現実にこんな生き物はいない」と言っていたが、レイスからすれば宝石のように輝く今のバーバラも十分現実離れしているように見える。
その様子を見たファフニールが得意そうに解説を挟んだ。
「神界ではバーバラの鎧を壊す奴は何人かいたが、その本体に傷をつけられたものは今まで誰一人としていない。下手に攻撃すると攻撃側が大けがするだけだ。ましてやその体にルル様から与えられたチートスキルが加われば我々ですらダメージを与えるのは難しい。さて、お前はいったいどうするのかな?」
ファフニールたちのほうを見ると、彼らは全員が笑みを浮かべていた。これから起こるであろう残酷ショーを楽しみにするかのように。
戦いを戦いとも思わず、単なるゲームのように認識している彼らを見て、レイスはむかっ腹がたって仕方がなかった。
(こいつらも全員、、、「あいつら」と一緒だな。)
彼らの姿が、家族の仇と重なる。あの人を人として扱わず、自分を引き立ててくれる道具程度にしか思っていないコウガやその取り巻き達と。
レイスが静かに闘志を燃やしているのに気づかず、バーバラは余裕の表情で構えを取る。
「さぁ始めましょう、遊びの時間よ。」
そう言い終わったときにはすでにバーバラはレイスに接近し、レイスはそのまま殴り飛ばされる。バーバラからすれば単なる様子見だが、そのスピードと破壊力はこの時点ですでにシャイン・ソニックの全力の攻撃の数百倍。宇宙のほとんどの生物にとって「必殺」と呼べる威力であった。
レイスの体は頑丈な屋敷の壁を容易く突き破って外に投げ出され、そのまま森の木々をなぎ倒しながら数百メートルは地面を転がる。本来ならばその程度の距離で止まるはずがないのだが、屋敷の周囲に張り巡らせたルルの結界のおかげで屋敷の周囲のあらゆるものの硬度が上がり、その結果木々がブレーキの役割を果たして飛距離が数百メートルで済んだ。
当然レイスの肉体へのダメージは普通に殴り飛ばされただけの比ではないはずなのだが、レイスは特に動じた様子はなく服についた埃をパンパンとはたきながら立ち上がる。
平然と立ち上がったレイスを見て、追ってきたバーバラは目を丸くした。いつの間にか空中から観戦していた他の10神王も感心している様子であった。
「へぇ、案外頑丈ね。だったらこれはどうかしら?」
レイスをすぐには壊れないおもちゃと認識したバーバラは先ほどよりも強めのパンチを打つ。今度はレイスも腕をクロスさせて防ぎきり、背後の木にぶつかるだけで済んだ。
「ハハッ!やるわねぇ!」
バーバラは続けて連撃を放つ。わずか一秒間の間に放たれる無数の蹴りやパンチをレイスは防ぎ続ける。
「本当に頑丈さだけは大したものね、でも、防ぐばかりじゃどうしようもないわよ?」
「、、、こんなものか?」
「え?」
レイスが腕を下ろすと、そこにいたのは全く無傷のレイス。全力ではないとはいえ、バーバラの攻撃をあれだけ大量に受けて傷の1つも見られないことに、彼女も他の10神王たちも少なからず驚く。
「こんなものがお前の全力なのか?だったら安心ってもんだ」
「、、、強がり言っちゃって。いったい何が安心だって言いたいわけ?」
「なぁに決まってる。ルルってやつが大したことないってのがはっきり分かったからな。楽に始末できるのを確信したね。」
レイスのその言葉を聞いた瞬間、バーバラの顔から表情が消える。10神王が何よりも嫌うのは、敬愛するルルが馬鹿にされることなのである。
「へぇ、、、そんなことを言うなら見せてあげる。アタシの全力をね。」
バーバラが右腕に力を込めると、その腕が一層強く輝き始める。その様子を見て、上空にいたファフニールが初めて動揺する。
「まさかあれを、、、!?やめろバーバラ!殺すなと言われているだろ!」
ファフニールはバーバラを制止するが、彼女は聞く耳を持たずレイスに突っ込む。
彼女が放とうとしているその技は、ルルから直々に地上での使用を禁止された、衝撃の余波だけで多元宇宙が無限に集まったほどの範囲を跡形もなく消滅させることができる、まさに必殺の一撃。
これまでとは全く別次元の攻撃を前にして初めてレイスは拳を構え、彼女の攻撃を迎え撃つ姿勢を取る。
「馬鹿め!!消し飛びな!!ギャラクティック・フィスト!!」
「フンッッ!!!」
バギャンッッッ!!
バーバラの攻撃がレイスにあたる直前、彼はタイミングを合わせて迫りくる彼女の拳めがけてパンチを繰り出した。その瞬間、石をハンマーで打ち付けるような音とともにバーバラの右腕が砕け散った。
「「「「「「「「、、、、、、え?」」」」」」」」
その光景を見て当初の威厳はどこへやら、10神王全員が頭が真っ白になり間抜けな声を漏らす。
「、、、あああァァァーーーーーッッ!!!腕がァァ!!!」
一呼吸おいてから、腕を失ったバーバラが絶叫する。
「フン、痛くもかゆくも」
「痛くもかゆくもない」と言おうとしたところで、レイスの手の甲から血が噴き出した。
「、、、ないことはないか。」
「クッ!このッ!!ゴミクズがッ!!お前なんぞが!!よくも!!」
ボゴッ!!
「ッッッ!!?」
パニックになったバーバラの罵声を最後まで聞くことはせず、レイスはがら空きの彼女の鳩尾にパンチをお見舞いする。レイスの拳はバーバラの腹を貫き、そこを中心に亀裂が入り全身に広がっていく。
「ア、、、アガ、、、ガ、、、」
レイスが拳を抜いたのと同時に、バーバラは後ろに倒れさながら石像のように粉々に割れる。
「ホントに不思議な体のやつだったな。さてと、、、」
ひと段落したレイスは上空に目を向ける。空にいる10神王は目を見開いて絶句している。当初「絶対者」としてふるまっていた姿と比較すると滑稽であった。レイスは呆然としている彼らを指さした。
「さっさと下りてこい、まとめて相手してやる。」
読んでくださりありがとうございます。
この回からフレイヤとパナケイアの吹き出しを体内にいるときも含めて全て『』にします。理由は神と人間で吹き出しを区別したほうが分かりやすいと思ったからです。
過去に投稿したエピソードも時間があるときに修正していきます。




