尽きない悩み
これから新入生闘技祭に向けて本格的な準備とか始まります!
「なんか、ロイド良いことあった?」
武芸の授業後、特に変わったことはなかったが、唐突にルティがそんなことをロイドに尋ねた。
「良いこと?どうしてそんなことを聞くんだ?」
「だってここ最近、ロイド、ずっとしかめっ面してたのに今日は機嫌がいいんだもん。ね、バガル」
「え、ええぇ〜!?それ自分に聞く!?自分にとってそれはなかなかハードル高い質問なんやけど……。ちゅーより、もともと厳つい顔しとっから違いが分から……すんませんでしたー!!いや、ロイドの兄貴が厳つくてあかんとかじゃなくて、自分がただのビビリちゅーだけで……!お願いだからガン飛ばさんといてつかーさい!!」
「ルティ、お前、こんな変な奴とつるんでいたのか?」
「ロイド、睨まないであげて。性格は……うん、あれだけど、僕もできれば近寄りたくないけど、良い奴だから」
「あれ?自分、ルティ兄貴にそんな風に思われてたんか?」
ルティとバガルが仲良くしている姿を遠目で見ていて知っていたが、ロイドはこうしてバガルと話すのは初めてだった。
実際に話してみるとイメージしていたのとは全然違う。
「で、話を戻すけど、何かいいことあったの?」
「いいことか……。そういえば、いいことではないけど、あったな」
ダレンとのやりとりの後、胸につっかえたものが取れて、気持ちが幾分楽になった。きっと、ロイドが機嫌良く見えるのはそれが原因だろう。
と言っても、暴言吐かれたり、自分も怒鳴ったりしたりとなかなか恥ずかしいことだったので、それ自体はいいことではないが。
「ふーん、まあ、元気になってよかったよ」
「詳しく聞かないのか?」
「ロイドが話したくないなら話さなくていいよ。僕はロイドがうじうじしてなければ、それでいいから」
深く踏み込んでこなかったことに安心する。ルティは時々土足で踏み込み、荒らしてくる時がある。それは相手のことを思っての行動だから、最終的には丸く収まる。が、それを実行されるのはやはりきつい。
今回は既に解決された後だったから、何もしてこなかったのだろう。
「そういうルティも調子はどうなんだ?」
自分の心配をしてくれたため、ロイドも一応尋ねる。
この能天気な相棒に心配事なんて滅多にないから、この問いの意味はないだろうが。
「順調!って言いたいところだけど、そうでもないんだよなぁ」
驚いたことに、どうやらその滅多な時に当たってしまったようだ。
難しそうな顔をしてルティは頰をかく。
「そうでもない、とは?」
「別々にできないから、評価されないってこと!」
ルティの言う「別々にできない」にロイドは心当たりがある。
ここ最近、武芸の授業でルティがダレンに度々言われていること。
「武芸と魔術技芸が一緒になっている。別々にしろ。って、言うけど、非効率的だし、やろうとしても全然上手くできないよ」
「普通は最初から同時になんてできないけどな。お前は器用なのか不器用なのかよく分からないな」
「それ、魔術技芸の先生にも言われたー!ロイドに似て真面目で頭固そうな人だよ!」
「俺のこと貶してんのか?」
「褒めてるってことにしといて〜」
「はいはい」
そうやって軽口を叩いてお互いくすりと笑う。
確かに今日は機嫌が良い。
ルティとこうして冗談を言い合うのは久しぶりな気がした。
「あっれぇ??ルティとロイドの兄貴がいい雰囲気になってるんやけど、自分がいるの見えとるんかな〜??」
残念なことに目の端でうろついている野郎がいなければもっとよかったのだけど。
「ああ、ごめん、バガル。お前のこと忘れてた」
もちろん、視界に入っていたし、彼の存在は認知していたが、あえてロイドは忘れていたことにしていた。できれば、忘れたことにしたかった。
「ロイドの兄貴、怒っとります?ルティ兄貴とのいちゃいちゃを邪魔されて怒っとります??」
「はぁ?いちゃいちゃ?」
ロイドは眉間にしわを寄せ、機嫌を悪くする。しかし、そんなことお構い無しにバガルはロイドの肩を組み、ルティに聞こえないように耳打ちする。
「水臭いな〜、ロイドの兄貴〜。自分は分かってるんやで、ロイドの兄貴がルティの兄貴に想いを寄せてるってことは」
「なっ!そんなわけ……!」
にやにやとバガルは言葉を続ける。
「ええんやで、無理に否定しなくても。そりゃ、男が男に恋するなんてなかなか言い出せないことや」
「じゃなくて!」
ルティは女である。ロイドにとってルティは好みの女性ではないし、ましてや同性に恋愛感情を持つつもりは決してない。
「ロイドの兄貴がルティの兄貴と一緒にいるのも、いつも熱い視線を送ってるんのも恥ずかしいことやないんやで」
「そういうことじゃあねぇぞ!」
確かに一緒にいるし、離れているときはルティを見るようにしている。
だが、これは恋愛感情からくるものではない。ルティが男とバレないないように監視し、フォローするためだ。
このままだとロイドはバガルにルティという男が好きなシャイな男子生徒だと思われてしまう。
「まあ、その気持ちも分からなくないで。なんせ、ルティの兄貴はあっれほどの美形や。恋に落ちんのもしゃーない。もし、女やったら、バガルのハーレム候補に入れとるわ〜。ぐふ」
「…………………」
目の前にいるこの変態にだけは、ルティが女だとバレてはいけない。
自分が男好きではないと証明するため、ルティの秘密を思わず言いそうになったが、踏み止まった。
「何を話してるの?」と、興味深そうに視線を送ってくるルティが目に入り、ロイドは苦渋の決断をする。
危機感もないこの相棒を守れるのはやはり自分しかいない。
「……バガル。これは俺とお前だけの秘密だ。それに協力しなくていい。俺は俺の力でなんとかする」
「やぁっと、認めたんやな、ロイドの兄貴。流石、漢や。自分の恋路は自分で決めるんやな。自分は密かに応援してるで」
つまり、勘違いされたままにしてしまおう。
ロイドは自分の沽券を捨て、ルティの安全を確保した。
「ねぇ!二人して何を話してんの!?僕も入れてよ!」
「いやいや、ルティ兄貴!これは自分とロイド兄貴の秘密の話や。それより、今日、ついに発表日やで!」
「秘密の話は今度問い詰めるとして、発表日って何のこと?」
秘密の話から興味をそらすためにバガルがあげたのは別の話題だった。
それはここ近々開催される行事に深く関わっているもの。
「新入生闘技祭の特別推薦枠、一年の全教師による推薦と生徒会による推薦が今日発表されるんや」
「そうだったの?」
「せやで!と言っても、特別推薦枠であるこの二つと生徒会長推薦枠は全部同じ人が推薦されるから、実際一人しか発表されんけどなぁ」
欠伸をしながらバガルはのんきに答える。
まあまあ大きな行事そうなのに、バガルの気の抜けた態度にロイドは疑問を持つ。
「あんまり興味無さそうだな」
「当たり前や。なんせ自分らにとって可能性あるんは学部教師による一般推薦枠。特別推薦枠は全部あいつに持ってかれるんや」
「あいつ?」
「そっか、ロイド兄貴もあんまりこの行事に詳しくないんやな。この特別推薦枠に選ばれるんのは、先生うけが良く、成績優秀、高貴な家柄であることが定番。もう分かるやろ?」
ゴーンゴーンゴーン。
その時、学園中に壮大な鐘の音が鳴り響いた。
正午を知らせる合図でもあるが、今回はそれだけではなかった。
学園のいたるところに白い鳥のワッペンを付けた生徒が姿を現わす。
彼らは中立と真実の白をシンボルとするレイシオン学園の情報部。
彼らが手にする記事の情報は一つしかない。
「速報!特別推薦枠である一学年の全教師による推薦枠、生徒会による推薦枠に選ばれたのは、
ユーロン・アレクシア!ユーロン・アレクシアである!」
鐘が鳴り終わり、高らかに告げられたのは、始まりのアレクシアの名を背負う、ユーロン・アレクシアの名前だった。
ご精読ありがとうございました!




