なりたいもの
お久しぶりです!久しぶりの投稿です!
最近ルティに追いつくのがいっぱいいっぱいになっているような気がする。
風魔術に磨きがかかって、ルティはアクロバティックな動きと剣筋がより加速した。
ロイドの隙を針で通すかのように繊細についてくる。
「やめっ!ルティの勝利!」
ダレンの声が聞こえ、模擬戦は終了する。
今回は剣さばきに対処できなかった。
「今、見ていた通り同じ武器を使ってもこんなにもスタイルが違う」
ダレンは二人の戦いの解説も含め、剣を教える。
「武芸では人によって使う武術が違う。でも、剣術、槍術が人気だったりするな」
自分の武術が決まると次は流派だ。
「流派は先人たちが築き上げてきたもの。流派があれば教えやすいし、効率的に戦える」
地域で伝わるもの、家伝統のもの、学校で教えられるものと流派は数多く存在する。
しかし、だ。
ルティとロイドはこれに当てはまらない。
「フィリアン騎士団育成所出身で、フィリアン流もあるはずだが、こいつらは違う。独自のスタイルだ」
ダレンは既に自分の流派を学んでいるであろう貴族の生徒に注意する。
「そういう奴らは色々な技術を盗みとって自分の糧とする。それは強くなるためには仕方がない。だから盗まれても動揺しないように、文句は言わないように」
注意喚起もあるが、ルティとロイドが少しでも貴族との衝突を減らすためもあるのだろう。
「今回はルティの勝利だ。アクロバティックかつ奇抜な動きには驚いた者も多いだろう。そこはいい。だが、ルティ、また風魔術使っただろ」
「だって気づいたら使っちゃうんだもん」
「前にも言ったろ。この授業では武術だけ。魔術を使うなって」
「はーい」
不満げにルティが答える。
あまり反省はしていないのだろう。
そして次にダレンはロイドに顔を向ける。
ロイドを見るその目は異様に冷たい。
「お前は、武芸をナメてんのか?」
「え……?」
ロイドは言葉を失う。
「この学園に来てお前は何をやってる?この学園で何を学ぶために来た?」
ダレンの言葉が胸に突き刺さる。
「もし不満があるなら、授業後、俺のところに来い」
怒りや不満ではなく虚無感がロイドを襲う。
ロイドは何も言い返せない。
代わりに怒りをあらわにしたのはルティだった。
「ナメてなんかない」
風が吹く。
突風がダレンに襲う。
飛ばされることはない。だが、少しダレンは目を細める。
その視界がぼやけた一瞬、ルティがダレンに向かい足を蹴り上げた。
「友達思いなのはいいことだけど、先生に喧嘩を売らないでほしいな〜」
ダレンに怪我はなかった。
片手でルティの足を受け止めた。
「くっそ!離してよ!」
そのままルティは足だけダレンに持ち上げられ宙ぶらりんになる。
「言ったろ?不満があるなら後で俺のところに来いって。今は授業中だからお終〜い」
パッとダレンは手を放し、そのままルティは床に落ちる。
「いててて…」
「大丈夫か、ルティ!?」
「ちょっとぶつけただけで怪我はないよ、大丈夫」
ロイドはルティに駆け寄り、具合をみる。
「ロイド、気分が変わった。放課後に一人で俺のところに来い。確認したいことがある」
「確認したいこととは?」
「そん時に話す」
ロイドはダレンの要求を頷いて受け入れる。
「オーケー、じゃあ、ひと段落ついたから、また授業に戻るぞ〜」
そして、少しきまづい空気のまま授業は再開した。
「で、結局、自分がなんでそう言われたか分かったか?」
部屋に入ると開口一番、ダレンがロイドに問いかけた。
放課後、ロイドはダレンの研究室に来ている。
レイシオン学園の教員は全体が使う職員室もあるが、個人の専門分野を研究するため一人一人部屋を与えられていた。
「ルティに負けたからですか……?」
「そんなんじゃあ、俺はお前に指摘したりはしない」
ロイドの答えにダレンはため息をつく。
「前よりも動きが鈍くなってる。確かに魔術でルティは加速してたが、前のお前ならさっきの攻撃はさばききれたはずだ」
ダレンの目に付いたのは、ルティの成長に追いつけてないロイドではなく、前よりも退化しているロイドだった。
「確認したいことだが、学園に来てから……いや、ここ最近鍛錬しているか?」
フィリアン騎士団の時は毎日自主的に鍛錬していたと聞いていた。もし、それをやらなくなったのならば、動きが鈍くなったのも納得できる。
「もちろん毎日…………一応やってるはやってますよ」
心当たりがあったのだろう。
最初は自信があるようだったが、何かに気づいたようで、言葉を濁した。
「一応とは?」
「練習のメニューを変えたんです。ダレン先生にアドバイスをもらったので……」
「魔力増量のか?」
「……はい」
「もしかして全て肉体鍛錬の時間を魔力増量のに費やしたとかじゃないよな?」
「そのもしかして、です」
「……………」
原因が分かった。
やはりこいつは武芸をナメている。
「なあ、ロイド。これは時間がかかるものだから少しずつやれと言ったよな」
ロイドは押し黙る。
「そんなにお前にとって魔力は必要なのか?」
「……必要です」
「なんでだ?」
「当たり前じゃないですか!他の人は持っていて俺だけは持ってないんですよ!?」
ロイドは怒鳴る。
溜めていたものが溢れ出すように、悲しさを、悔しさを吐き出す。
「それにっ!魔力を使えるルティはどんどん強くなってく……!このままだとルティに置いてかれてしまうっ!」
きっとこれが彼の本当の理由だろう。
魔法という華やかしい武器を手に入れ、実力を認められた相棒を見て焦燥感に駆られたのだろう。
魔法で前に進むルティと、魔法すら使えないロイド。
彼はスタートラインすら立っていないと感じたのだ。
ロイドが普通の生徒ならば慰めの言葉をかけてやったのかもしれない。
しかし、ダレンはロイドの夢を知っている。
だから、それはダメだ。
ダレンは突き放す。
「魔法が使えないからって、何言ってんだ。悲劇のヒロインぶってんじゃねーよ。男だろ気持ちワリィ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!?使えないから全部の時間を魔力増やすために費やしてんだよ!」
ロイドも反論する。
ダメで、分からなくて、どうしようもなくてそれにすがったのだ。
何がいけない?
「はっ!大切な時間を才能もない、期待もできない魔法のために使うのか、笑うしかないな」
「ああ、才能も期待もできない!でも、魔法も使えなければルティに置いてかれる。ルティのように強くはなれないんだよ!」
自分だけ魔法が使えないのが嫌だ。強くなれないのが嫌だ。何よりも、相棒が遠くに行ってしまうのが嫌だ。
「ルティ、ルティ、ルティ、ルティってうるせぇな」
ダレンは目の前にいる分からず屋に苛立つ。
それなら、気づかせてやろう。
「お前は何になりたいんだ?ロイド・クロス、お前はルーティミリアン・ハルツォーネになりたいのか?」
相棒に置いてかれるのが嫌だ。分からなくもない。
だが、ロイドのやってるそれはただの真似っこだ。
「俺は……」
「魔法が使えないのに何でそこまで魔法にこだわる?才能があるやつを犠牲にして、できないものやったって、既にできる奴に追いつくのは無理がある」
確かに魔法が使えなければ、ルティのように魔法を使った強さは得られないだろう。しかし、ロイドはルティではない。
魔法が使えるようになったとしてもルティのように使えるとは限らない。
ロイドの夢はルティのような強さを持つことではない。ロイドの夢はーーー
「もう一度問おう。ロイド・クロス、お前は何になりたいんだ?」
幼少の頃からの憧れ。紅蓮のマントをたなびかせ、絶対的強さを持つ、崇高で誇り高いフレアローズの守護者。
「俺の夢は、憲兵団の騎士になること。憲兵団に入ることだ」
あの時の思いを、誓いを、夢を、もう一度刻むようにロイドは呟く。
「そうだ。お前の夢は憲兵団になることなんだろ?こんなところで道草食ってる場合じゃねぇだろ」
「ははっ……。俺は途中からルティのようになろうとしてたんだな」
使えないからこそ、魔法が使えるルティの強さを羨ましいと、そうなりたいと思ってしまったのだろう。
「俺は憲兵団に入りたい。だけど、魔法が使えなくても、剣術だけで憲兵団に入れるくらい強くなれるんですか?」
自分の過ちには気づいた。だからと言って問題が解決したわけではない。
魔法が使えないことは、やはりロイドにとっては不安だった。
「おい、ロイド、お前は誰に向かって言ってるんだ?俺は武芸の上級クラスの教師だぞ?武芸をナメんな」
にやりとダレンは笑う。
「そりゃあ、魔術技芸と工芸、武芸が全部できるに越したことはない。だが、どれも中途半端な奴は騎士団には必要ねぇ」
ダレンはロイドに手を伸ばす。
「それならロイド、武芸を、剣を、極めてみないか?」
「悪くないですね。やってやろうじゃないですか」
ロイドはダレンの手を握り返した。
さあ、これから逆転だ。這い上がってこうじゃないか。
ご精読ありがとうございました!




