選ばれる者たち
新入生闘技祭に向けて、出場する代表者決めが始まった。
この一週間で武芸、魔術技芸、魔術工芸の三大学部の代表者がそれぞれ最大二名選ばれる。
数多いる生徒の中から、代表者として選ばれることは名誉あることだ。
誰もが闘技祭に出場したいと願う。
だからこそ、クラスの雰囲気はいつもと違った。
一人一人が緊張した面持ちで、他者を品定めするかのように見る。
それは生徒だけでなく、教師もそうである。
「選定期間に入って、気合い入れてアピールする奴が増えるとは思うが、残念ながら俺はもう決めている」
選ばれるために急成長する生徒がいるため、この選定期間にじっくり時間をかけて決める教師が多い。
しかし、ダレンは選定期間初日で発表する少数派であった。
「それに、俺は一人しか選ばねぇ。その代わり選ばれた奴は本番までに徹底的に指導するから覚悟しておけ」
通常は二人だが、一人しか選ばれない。
その事実がさらに生徒たちを動揺させた。
誰が選ばれる?それぞれに生徒たちは思い浮かぶ候補者を頭に浮かべる。
だけどルティは誰が選ばれるであろう人物か分かった、確信してしまった。
ルティは隣にいる少年の背中を押す。
きっとその名を呼ばれるであろう魔法も使えない少年を。
自分ではない、彼を。
「ロイド・クロス!」
高らかにダレンはロイドの名前を叫ぶ。
全員の視線がロイドに向かった。
「お前を武芸の代表者として推薦する!」
何でこいつが、と悔しがる者もいれば、納得する者も。
当の本人であるロイドは察しが悪かったようで、なんで自分が選ばれたのか心底驚いているようだった。
「えっ……何で俺が?」
「ロイド、それは僕に対する嫌味なの?」
「いや、そういうわけでは……。だけど俺は魔法も使えない。そんな奴が闘技祭に出て大丈夫なのか?」
「ダレンがよく言ってるじゃん。この授業で魔法は使うな。ここでは武芸のみが評価される。ただそれだけだよ」
「そっか……俺は認めてもらったのか……」
嬉しさが込み上げてきた。
自然と頰が緩む。
「正直、自分が選ばれなくてすっごい悔しいけど……ロイド、おめでとう。」
「ありがとう、ルティ。お前の分まで戦ってきてやるから、安心しろ」
「へっ!まだ僕だって参加できないわけじゃないから!しばらくは魔術技芸に集中するよ!」
そうだ。ルティはまだ魔術技芸の上級クラスを持っている。まだ可能性はゼロとは言い切れない。
「もし、僕が選ばれたら、お互い勝ち残って決勝戦で戦おう」
「その話し面白そうだな。やってやろうじゃないか」
ニヤリと顔を合わせて笑う。
フィリアン騎士団最後の日に引き分けで終わった戦いを思い出す。
あの決着をつけようではないか。
そうやって二人は少し先の未来に心躍らせた。
魔術技芸上級クラス。
担当する専門教師であるジョシュは、眼鏡をかけた気難しそうな男性であった。
眉間にしわを寄せ、淡々と話す姿はどこた冷めた印象がある。
他の授業と比べ、知識を問うテストや課題も多く、実践だけでなく勉学にも生徒に容赦なかった。
その全てを完璧にこなすのは生徒にとって難しいこと。
だから、生徒の中で実力に差が生まれ始めていた。
「代表者選定期間も残りあと半分となった。魔術技芸の代表者は今日、発表したいと思う」
彼が代表者を選ぶ基準。それは、課題やテストの質、実践による実力と全てを考慮して評価が高い者。
そうなると誰が選ばれるのだろうか?
確かに実践と勉学を両方こなさなければいけないから生徒に差が生まれる。
だが、同時にどちらかが不得意でも、どちらかでカバーできる。
本当に完璧でない限り、上のレベルの者は僅差になりやすいのだ。
「どうせ一人はランプスキー家の者ですよね?」
しかし、いるのだ。その完璧をこなす化け物が。
どこからか諦めきった男子生徒の声が響いた。
「ああ、そうだその通りだ。一人目の代表者はダチュラ・ランプスキー」
何も知らないルティを除き、他の生徒はその名を聞いて当たり前のように受け入れる。
一応上級クラスのほとんどは貴族出身。
ある程度の実力もプライドもあるはずなのに、その名だけで納得してしまっている。
ランプスキー家とは何者だろうか?
「ねえ、バガル。ランプスキー家って……?」
こっそりとルティはバガルに説明を求める。
「ランプスキー家は、魔術において右に出る者がいない。と、言われるほどの魔術の名家や」
だから、これほど皆が当然というような反応を示すのか。
ルティが納得していると、バガルはさらに加える。
「それにな、自分らの代にいるランプスキー家の坊ちゃん、ダチュラは、ランプスキー家始まって以来の鬼才と呼ばれるほどの奴らしいんや……!」
名家の中でも鬼才と讃えられている存在。
そんな鬼才と呼ばれるような生徒がいたのかと、今までの授業を受けていて気づかなかった自分に対し、ルティはため息をつく。
しかし、興味を引くのには十分だった。
ジョシュに呼ばれたダチュラはどうやらルティの後方にいるらしく、生徒の波をかき分けこちらに向かって来ている気配がある。
ダチュラはどういった人物なのか、目の前に来るのを心待ちする。
冷静沈着で頭の切れる者か、はたまた狡猾で油断もできぬほどの者か……。
どちらにしろ鬼才と言われるに十分なカリスマ性を持つ人物だろう。
ーーーそのどれもがハズレだった。
「は〜いっ!」
呆れるほど呑気な声が響き渡る。
薄い茶髪わかめ頭で、緑色のタレ目。
身長は高くも低くもなく同年代の男子と同じくらい。
生徒たちの真ん中、ジョシュのところに現れたのは、鬼才という言葉が相応しくないほど穏やかでのほほんとした雰囲気を醸し出す好青年。
そう、彼こそがダチュラ・ランプスキー。
「えへへっ。先生、推薦してくださりありがとうございます」
にっこりとダチュラは人懐っこい笑みを浮かべる。
「えっと……あれが鬼才なの?」
「せやで……!そう言われているはず……なんやけど、なあ?」
どうやらバガルも知っていたのは情報だけで、実際にお目にするのは今回が初めてらしい。
「いやな、自分も入学する前からランプスキーの坊ちゃんが入学するってのを聞いてて、ずぅーっと探してたんやけどな。あんなへらへらしてたんじゃ、そりゃー気づかんわ」
鬼才で使われている鬼という言葉。
鬼は東大陸に存在し、人々から恐れられている化け物とレアンから聞いた。
化け物じみた恐ろしいまでの才能。
だが、ダチュラは鬼というにはあまりにも似つかわしくない。
どちらかと言うと人に懐く犬のよう。
そうやって考えを巡らせていたら、いつの間にかジョシュがルティの前で腕組みしていた。
「ルーティミリアン・ハルツォーネ。お前、人の話し聞いていたか?」
どうやら先程からルティのことを呼んでいたらしい。
「すみません。少し考えごとして気づかなかったです」
「ふん。まあ、いい。今回は見逃してやる。では、もう一度言うからしっかりと聞いておけ」
まさか、自分がもう一人の代表者として呼ばれたのだろうか?
そんな少しの期待を胸にルティは耳を傾ける。
「ルーティミリアン・ハルツォーネ、お前は代表候補者に選ばれた。これからもう一人の候補者と戦ってもらう」
「へ?」
「すでに代表者として選ばれている者を除き、総合的にダチュラの次に成績が良かったのがお前たちだったんだ」
なかなか実践において武芸と魔術技芸を混ぜてしまうためあまり評価されなかったが、ルティは勉学において優れていた。
それが候補者として選ばれたのだろう。
では、もう一人とはいったい誰なのか?
「それに成績も近ければ、魔力性質も同じ。風魔術を使う者同士、どちらがより秀でているか実力をもって示せ」
小さな影がルティの前に現れる。
その影の主はルティにとって見覚えのある少年。
「手加減はしないであります、ルティ殿」
ユーロンの従者であり、ロイドのルームメイト。
レアンであった。
ご精読ありがとうございます!
もし、面白いと思ったのならば、ぜひブックマーク、評価、感想をお願いします!




