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雨の日の来訪者

その日は朝から雨が降っていた。雨が降っていると先生は体調を崩すらしい。今、犬先生は穴蔵で動かず喋らずじっとしている。


まぁ、先生は元からあまり喋らないけど。


なので今日の特訓はお休みだ。加奈一人ででも出来ないこともないのだが、雨の中外にでてびしょ濡れになりながら一人特訓、などは避けたい所だったので、穴蔵で先生と一緒にお休みする事にしたのだ。


「大丈夫ー?先生」


穴蔵の中、暇潰しに座ってストレッチをしていた加奈は、少し離れた所で寝そべり、眠ったように目を瞑ってはいるが尻尾を時折左右に動かしているので起きているのだろう犬。先生に声をかけた。


「…………」


無言。

大丈夫じゃないらしい。喋る気力もないみたいだ。尻尾以外はぴくりとも動かない。異世界に来てからもう何日もたっているが、ここまで喋らず動かずな先生を加奈は初めて見た。


「せんせー、喋る事もできないんですか?」


そう聞いても、先生はやはり無言だった。だけど、代わりと言わんばかりに尻尾が左右に揺れる。もしかして、それで返事をしているつもりなのだろうか。


「先生、雨苦手なんですねー」


きっと雨が苦手なのだろう。雨が苦手なのって猫じゃなかったか?犬もそうなのかな?先生は狼なんだけどねー。などとつらつらと考えていたら、加奈のお腹が鳴った。そういえば今日は朝からまだ何も食べていない。


「先生、ご飯どーするんですか?」


いつもご飯は先生がアブリルの町から買ってきてくれる。朝も昼も夜もだ。だから先生は一日に三回アブリルに行くのだが、横着して朝にまとめて買ってくる事などもあった。鮮度が落ちて美味しくない、と加奈が言ったのでそれからは少なくなったが。


「私が行きましょうか?」


先生が動けないのなら仕方あるまい。私が行ってきますよーと言ったが先生は無言だった。いいのかよくないのか、よく分からない反応だ。尻尾すら動かさない。

どっちなんだ、と迷っていたら先生は唐突に「水」と言った。


「水がどーかしましたか?水が飲みたいんですか?」


水だけは近くを流れる川から汲んできている。その水を飲みたいのだろうかと思い、汲みに行こうと立ち上がった加奈だったが、先生はそんな加奈に水だけで我慢しろと言いはなった。


「…………」


そんな馬鹿な。


加奈はまだ先生から町へ行ってもいい許可を貰っていない。一度犬耳尻尾の件で失敗している事もあるが、なにせ異世界。私の世界とはお金や買い物の仕方なども違っていて、この世界での作法や礼儀なども分かっていないので、加奈一人で街に行く事はとても危険で危ないのだろう。

こんな事になるなら、意地でもアブリルの町に連れて行って貰っていれば良かった。後の祭だけど。そう思いため息をつく加奈であった。


葉っぱや木の枝で作った即席傘をさし、加奈は穴蔵を出る。川に水を汲みに行こうと思ったからだ。先生に水汲んで来ますねーと言い残し外に出る。先生はやはり無言だった。



加奈は犬先生が少し心配だった。いつもなら目線ぐらいはくれるのに、今日はそれも無しだったからだ。雨が苦手にも程がある。

もしかしたら本当に具合が悪いのだろうか、病気ではないとは思うのだが。


「…………」


森の中歩きながら加奈は思う。

いつもの先生じゃないのが、こんなに不安になるとは思わなかった。あと、異世界で初断食を経験しなくてはならなくなるとは。とも、思ってもいなかった。


即席傘に雨粒が当たる。

この雨はきっと、当分止まないだろう。

加奈は立ち止まった。やはり食べ物を買ってきた方がいいのではないだろうか、と思ったからだ。

食べないと元気も出ないだろうし。

私も断食なんて出来る気がしないし。


そう思い穴蔵へ引き返そうとした加奈だったが、ふいに変な気配を感じてとっさに避けるようにして二、三歩前に出た。


「……っ!」


だが、雨で地面がぬかるんでいたため足を滑らせてしまい、加奈は無様に転んでしまった。最悪にも少し傾斜があったので、そのまま坂を滑り落ちて行ってしまう。衝撃で犬耳と尻尾が出てしまった。


「っ、くそー……」


滑って転んで泥々になってしまった加奈は辺りを見渡す。先程感じた何かの気配、多分何かが飛んできたのだと思うのだが。

そう思い、加奈が今さっきまで自分のいた場所を見てみると、そこには小型のナイフが地面に突き刺さっていた。


「へぇ、耳と尻尾がついてる。可愛いね!」


ふいに暗がりから場にそぐわない妙に明るい声がした。加奈が反射的に振り向くとそこには男が立っていた。20代後半ぐらいだろうか。その男の手には雨避けのための傘、そして地面に突き刺さっているナイフと同じらしきナイフが握られていた。しらず加奈は後ずさる。


「こんな所にいたら、危ないよ」


男はそう言ってにっこりと笑った。

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