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犬先生の暴力的指導

加奈は目を瞑り意識を集中させていた。


「…………」


聞こえてくるのは鳥の声、近くを流れる川の音、風で森が騒ぐ声。つまりここいら周辺の音しか聞こえて来ない。聴力特訓を開始してから、すでに27時間ほど経ったとある日の昼下がり。


犬耳に意識を集中させる。だが、ここから1キロほど離れている場所の音など本当に聞く事ができるのだろうか。町の音、人の声や町の喧騒はそれなりに大きい音になるのだから聞こえやすい筈だ、と先生は言っていたが。


「聞こえなーい」


またまた諦めかけている加奈であった。

その時、アブリルの町に行っていた先生が、口に四角いカゴをくわえて帰ってきたのを遠くの方に発見した。


「お帰りー、先生」


ただいま、と言う返事はなく犬先生は口にくわえたカゴ(きっとご飯が入ってる)を置き、できたか?と加奈に聞いてきた。


「まだ」


その答えに犬先生は渋面になった。加奈は先生から慌てて目を反らし聴力特訓のため出していた犬耳に意識を集中させた。だがまぁ、やはり何も聞こえてはこない。


「先生、コツは?」


前にも聞いたような質問を加奈は犬先生に問う。先生は暫く無言だった。また集中、とか言うのかと思いきや先生は不意に、耳をどーにかしろと言った。


「耳、ですか?」


頭に生えている犬耳を触ってみる。この犬耳をどーするんですか?と言ったら先生は眉間に皺をよせ、そっちの耳じゃない、と言った。


「それと犬耳じゃなくて狼の耳だぞ、それは」


『狼耳』って語呂が悪いじゃないですかーと加奈は先生の指摘を適当に流し、顔の横についている人間の耳を触る。


「人の耳があるから無意識にそっちで音を拾ってしまうんだ。狼の耳に意識を集中させようとしても人の耳が邪魔をする」


加奈は先生を見つめる。

真剣に。

そして口を開く。


「先生、知らないかもしれませんが人間の耳は引っ込めることはできませんよ」


真顔でそう言った加奈を見て、犬先生はトコトコと近付いて来た。そして加奈から少し離れた場所でピタリと止まると加奈を見つめる。もうちょっと近付いてくれたら頭を撫でられる位置なのになぁ、と呑気にそんなことを思っていた加奈に、今度は小走りで近付いて来ていた先生は、獣特有の攻撃(いや人間もやるんだけど)体をぶつける技、つまり『体当り』を加奈に喰らわせた。


そんなに力は強くなかったので、加奈は後ろに尻餅ついて転んだだけだったが突然の出来事に、主に体当りされたお腹が対処できなかったらしく、おもいっきりむせてしまった。


「お前に言われずともわかっている」


下を向いてゴホゴホとむせている加奈にそれだけ言うと、犬先生は離れていき先程くわえていたカゴ(きっとご飯が入ってる)をもう一度くわえ、加奈の方へぶん投げた。

下を向いて噎せていた加奈の頭に、それは見事に命中した。


頭を押さえ突然の痛みに耐えている加奈に、「中に耳せんが入っている」と、それだけ言うと犬先生はその場から立ち去ってしまった。


加奈は頭を押さえながら、転がっていたカゴを手に取り中身を確認した。中にはご飯(ぶん投げられたのでぐっちゃり。食べられない事もない)と小さな袋。その袋の中には先生の言っていた通り耳せんが入っていた。


耳せんで音を遮断しろって事ですねー。


加奈は横目でぐっちゃりしたカゴの中のご飯を悲しそうに見ながら、袋から取り出した耳せんを人の耳につけたのだった。

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