幸せはそこに
一応最終話です。
穴蔵の近くまで来ると、犬先生はいつもの木の下に寝そべった。加奈もその近くに腰を降ろす。
「先生、とりあえず説明して下さいよ」
「何をだ?」
何をって・・・・
「全部ですよ、全部。あの建物にいる連中は結局何だったんですか?全員黒ローブ着用とか怪しすぎだったし」
宗教団体だーとか研究者だーとか、情報が多々あって結局何者だったかはわからずじまいだったのだ。
「あいつらは大昔からいる狼の研究者だ。天狼の力を使って自分達も特殊な力を得ようとしていた連中だ」
「じゃああの黒ローブの男が手のひらから出した魔法っぽいものは、その研究で手に入れた力って事ですか?」
犬先生は頷いた。
「そんな事、簡単にできるもんなんですか?」
「簡単じゃないだろうな。長年の研究が積み重なって実現したものだろう」
犬先生は興味ない、といった感じで欠伸をしながら言う。
「・・・・先生って何歳なんですか?」
大昔とか長年とか、いつの事なのだろうか。エルガードが前に、天狼は長命だって言ってた様な気がするが。
「・・・・覚えてないな。自分の歳なんて」
先生は少し首を傾げた後にそう言った。覚えてないほどの時間を生きてきたのだろうか。
「天狼ってちなみに何歳まで平均生きるんですか?」
「500年ぐらいか」
・・・500年!?
「聞いた話しだけどな」
犬先生もその辺りは詳しくないらしい。同じ天狼なのに。
「あの、じゃあ先生に幻影の能力があるって本当なんですか?」
犬先生はちらりと加奈を見て、ため息をついた。
「本当だ」
「その力であの研究者達を惑わせたと」
そうだ、と犬先生は言った。加奈が建物内で会った黒髪の男が言っていた事は本当の事らしい。
「先生、エルガードやアイナさんの他にも人間のお友達がいるんですね。私あの建物で黒髪の男の人に会ったんですけど、あれは一体誰なんですか?」
アイナさんが言っていた役所の人かな?と思っていた加奈に先生はぼそっと呟く。
「・・・・・知り合いだ」
犬先生はそれだけ言った。
だから、どういう知り合いなのかを知りたいんですけど。
そう思いつつも加奈は犬先生に詳しく聞く事はしなかった。
「お待たせー」
そう言って、エルガードとアイナさんが大きなランチボックスを持ってきた。加奈達と一緒に食べるらしく、4人分入っている。
「で、ちゃんと話しはしたのか?灰色狼」
「加奈ちゃん、凄く心配してたのよ?私も詳しくは聞いてないからちゃんと始めっから説明して欲しいんだけど」
4人で食事を楽しんでいる最中、犬先生にアイナさんが詰め寄る。
「エルガードから聞け」
「エルは大まかにしか教えてくれなかったもの。それに本人の口からちゃんと聞きたい。ね?加奈ちゃん」
アイナさんにふられた加奈はとりあえず頷く。先生が一から全部話してくれるとは思えなかったが。
「昨日の朝に研究者達に会った。建物までついて行った。エルガードと会って話しをしてから役所に研究者達をつきだした。それで終わりだ」
犬先生は物凄くはしょって一連の流れを話した。
狼の研究者達は役所につきだされたらしい。違法に活動していたらしく、エルガードが役所に伝えに行ったら即動いてくれたそうだ。
「俺は加奈ちゃんをアイナに任せた後、研究者達がいるって言う建物を一人で探してたんだ。さすがに苦労したけど。で、そこで灰色狼に会って生きてるのを知って事情を聞いた後、役所に話しに行ったってわけ」
つまり、加奈が森で泣き叫んで情緒不安定になってアイナさんに慰められていた時、エルガードは犬先生と会って事情を聞き、協力して動いていたと言う事らしい。
・・・・・・・なんだか、まだまだ不明点がいっぱいあったが、とりあえず皆で食事をするのが予想以上に楽しかった加奈は、不明点は不明点のまま放置する事にした。
アイナさんは不服そうだったが。
食事タイムが終了し、エルガードとアイナさんが帰って行った後、加奈は地面に寝ころがった。時間はまだ正午ぐらいだろうか。太陽の光が真上にあって眩しかった。
いい具合に風も吹いていたので暑くはなく、ぽかぽかと心地いい。日向ぼっこにはちょうど良かった。
このまま寝ちゃいそうだなーと微睡んでいると、犬先生がとことこと近付いてきて加奈を見下ろす。何だろうと思っていると、先生が口を開いた。
「悪かったな」
加奈は驚いて目を見張り、笑う。
「どしたんですか、先生。先生が謝るだなんて。いい天気なのに雨が降るかもしれないですねー」
寝ころがったまま笑っていると、加奈を見下ろしている先生の顔がだんだん険しくなってきているのに気付いた加奈は、笑うのを止めた。
「えっと、大丈夫ですよ?心配は凄くしましたけど、目の前に先生がいてくれるだけで私は嬉しいんで」
にっこり笑ったら犬先生は微妙な顔をした。照れているのか呆れているのか。
「先生、悪いと思ってるなら私のお願い聞いてくれます?」
そんな先生をからかいたくなった加奈は『お願い』を言う。
「私の名前、まだ一度も呼んでくれた事ないですよね?だから呼んで欲しいんですけど」
にやにや顔の加奈を見下ろす先生の顔は、眉間にシワをよせた物凄く嫌そうな顔だった。
呼んでくれるのかなーとわくわくしていた加奈の目を隠すように、先生の右前足が被さる。
ふにふに。
「・・・・・・?」
肉きゅうがふにふに当たって気持ちいいが、意味がわからない。
「これで我慢しろ」
されるがままになっていた加奈に先生は言う。
ふにふに攻撃で我慢しろ、と言うことらしい。
加奈が口許だけで笑う。
しょうがない。
気持ちいいから、これで我慢してあげよう。
肉きゅうマッサージを受けながら取り戻した幸せを、犬先生と過ごせる時間を、加奈はゆっくり噛み締めていた。
その夜、加奈は銀色の狼の夢を見た。銀色の狼は『契約は続行中』とだけ言って、また消えていった。
結局、契約って何なのさ・・・?
加奈が契約内容をしるのは、まだ先の事らしい。
ここまでお付き合い下さった方、有り難うございました。感謝です。




