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再開

黒ローブの後ろから現れたのは数時間前まで森で一緒だった男、エルガードとその彼女アイナさんだった。


黒ローブの男をアイナさんが蹴り飛ばし、その間にエルガードが倒れている加奈に近寄って来て声をかけてくれる。普通反対じゃないのか?と疑問に思いつつも加奈は二人が来てくれた事に顔を綻ばせた。アイナさんは黒ローブの男を蹴り飛ばしただけでは足りなかったのか、殴ったり叩いたりまた蹴ったり、男が気を失うまでぼこぼこにしていた。そんな様子を横目で見ながら、エルガードは加奈の左腕に布を巻いていく。止血のためらしかった。


どうしてここに?と加奈が聞くとエルガードは灰色狼を助けに来たんだよと笑顔を浮かべた。


「先生を?」


エルガードはにっこり笑い、灰色狼は生きてんだよ、詳しくは灰色狼から聞いてねーとなんともお気楽なテンションで加奈の頭をぽんぽん叩いた。

左腕の痛みは、エルガードが布を巻いてくれたお陰かどうかはわからないが先程よりも引いていた。動かす事は出来ないが、血が流れ出るのは止められた様だ。

だが、先程エルガードが言っていた言葉に気をとられていた加奈は腕の傷の事など、もはや微塵も気にする事はなかった。



「・・・あの、エルガード?」


とりあえず状況がと言うよりエルガードの言っている意味がお気楽なテンションのせいで、いまいちピンとこなかった加奈はこめかみを軽く揉みながらエルガードに話しかけた。だがタイミング悪くアイナさんがこちらに戻って来てしまったので、加奈の呼びかけにエルガードが気付く事はなかった。


「気絶しちゃった、あの男。まだ殺りたりないのに」

「あんだけボコッといてよく言うよ・・・」

「あんなもんで倒れるなんて、男としてどうかと思うわ」

「・・・・・アイナ、加奈ちゃんと一緒に外に出てて」


呆れ顔のエルガードは立ち上がり、加奈の頭をまたポンと叩いて部屋の奥の扉へと消えていった。アイナさんが大丈夫?と聞くのを加奈は笑顔で大丈夫ですと答えて、建物の外に出るためにエルガードが歩いていった方とは反対の扉から部屋を辞した。




「あの、アイナさん」


加奈の腕を気にしながら廊下を歩くアイナに加奈は説明を乞うた。何故ここにいるのか、何故この場所が解ったのか、あと犬先生の事。


アイナさんは少し渋い顔をした後、今までの経緯を話してくれた。



「加奈ちゃんとあの森で別れた後、私は家に戻ったの。ロータスの事も気になってたからね」


加奈はロータスの名前が出ると、知らず自分の気持ちが沈んでしまうのを感じた。あの時の事は加奈にとってきっと忘れられない一生の出来事になったと思う。初めて人を殴ったり蹴ったりした。よく覚えていないけれど、きっと私の中には殺意があったんだと思う。ロータスへの、人間への殺意が。

冷静になって考えられる今だからこそ、ロータスには本当に大変な酷い事をしたと思う。ここの件が片付いたら会いにいかないといけない。会ってくれないかもしれないが。


「ロータスは今私達の家で寝てるの。あの子の家はわからなかったし、とりあえずね。医者の先生にロータスを診てもらって、そのまま置いてきちゃってたから」


あの時、加奈が暴れてロータスに襲いかかってエルガードになんとか止められていた時、アイナさんとロータスは森を出てアブリルの町へ戻っていたのだ。そしてアイナさんはロータスを置いて森へとまた戻ってきて、加奈を慰めていたエルガードと交代したのだと言う。


「で、家に戻ってみたらロータスが起きてたからこの場所の事を聞いたの。あんな話し聞かされて、私だって腸煮えくり返るぐらい頭にきてたし加奈ちゃんの気持ちも解った。何であれ自分達の勝手で誰かの命を奪うだなんて悲しい事、しちゃだめなんだよ」


アイナさんは多分、あの黒ローブの奴らの事だけじゃなく、加奈にも言い聞かせているのだろう。言葉には出さなかったがそう感じた。怒りにまかせて行動し、ロータスを傷付けた加奈にも。



「ロータスからこの場所を聞いた後、エルガードが帰ってきたら一緒にここに向かおうと思ってたんだけど、なかなか帰ってこなくて。で、これ以上待ってても仕方がないなと思って一人でこの建物に向かったら、ここでエルガードに会ったの」



その後はエルガードから大体の事情を聞いて、この建物内に侵入してきたようだ。そして加奈が襲われてるのを見て、助けてくれたそうだ。


アイナが一通り話し終わる頃、二人はかび臭い建物の中から外へと足を踏み出していた。外はすでに明るくなってきていて、昇りだした太陽がやけに眩しく見えた。建物内が薄暗かったからだろうか、それとも安堵感からだろうか。加奈には解らなかった。



「アイナさん、一つ確認してもいいですか?」


朝の光に目を細めながら加奈はすでに確認しなくても十分解っている事を聞く。でもやっぱりもう一度ちゃんと聞きたかったのだ。誰かの声で。


「先生は本当に生きているんですか?」


アイナさんは薄く笑いながら、こくりと頷いた。










アイナさんは加奈の腕を気にして、先に医者に診てもらった方がいいと言ったが加奈はこの建物のそばを離れたくはなかった。奥に消えていったエルガードもだが、犬先生の事も気がかりだったから。中でいったい何をしているのかはアイナも知らないらしい。犬先生に頼まれて、エルガードが役所に行っていた事だけは知っていたが、エルガードにはそれだけしか聞いていないみたいだった。


「役所って?」


加奈がアイナの方を見る。


「役所っていうのは、町を管理してるって言うのかな。その町に一つだけあって町の雑事や祭り事とかを取り仕切ってくれてる所なの。アブリルの町の役所はそれほど大きくはないんだけどね」


その役所にエルガードが行って協力を頼んだらしい。と言うことは、あの時の黒髪の男はその役所の人と言う事だろうか。だとしたら加奈は凄く邪魔をしてしまったのではないだろうか。



・・・・どーしよう。



加奈が顔をひきつらせていると、アイナさんが良かったねと言ってくれた。唐突すぎて何の事かわからなかった加奈がアイナさんの方を見ると、アイナさんは笑顔で手を振りながら建物の方へ歩いていった。


加奈がそちらを見ると、懐かしい姿が、エルガードと並んで歩いているのが見えた。


「・・・・・・・」


加奈はぼーと突立ったまま、アイナさんがエルガードに抱きつくのを見る。さすが恋人同士。ラブラブな所は初めて見たが。


近付いてくる犬の様な動物を見る。のそのそと歩き、加奈の顔を見ようとはしないその動物は、犬じゃなくて狼。この世界ではほとんど殺され、絶滅したと言われている狼。その世界でたった一匹生き残った特殊な力を持った天狼。


「・・・先生?」


加奈の目の前まで来ていた、『犬先生』に加奈は静かに話しかけた。


「何だ」


犬先生はまるで何事もなかったかのように普通に返事をした。そして加奈の方を見た。いつも通りの顔で。それを見た瞬間、加奈は全てがどうでもよくなるような気になり、しゃがみ込んで犬先生と目の高さを合わせた。間近に迫った先生の顔は加奈が近付いた事により、少しびっくりしたような顔になった。


加奈はその顔を間近でじっと見て手を伸ばした。先生の頭に手を置く。普段の先生なら触らせてくれないだろうが、この時の先生は加奈に対して少しばかりでも悪いと思っていたのだろう。加奈が頭を触るのを無言で耐えていた。・・・5秒ほど。




手を振り払われた加奈は立ち上がり、まだ嫌そうな顔をして頭を振っている先生を呼んだ。先生は、だから何だという目で加奈を見つめる。そんないつも通りな雰囲気に加奈は薄く笑って、言った。






「お腹減りましたー」




犬先生の呆れた様な顔と、遠くで二人を見ていたエルガードとアイナさんの笑い声が響く。




生きていてくれればそれだけでいい。話しかけてくれたなら、一緒に笑って話す事ができるのならそれだけで加奈は幸せだ。近くに感じて、触れて。笑ったり怒ったり泣いたり哀しんだり、一緒の時間を過ごす。





もう、一人じゃない。








お腹が空いたと言う加奈のためエルガードとアイナさんはアブリルの町に一端戻って食事を買ってきてくれるらしかった。どうせなら皆で町に行った方が早いんじゃないかと思った加奈だったが、犬先生が穴蔵に戻ってる、と言って歩き出してしまったので仕方なく加奈も先生に次いで歩き出した。


「先生、町に行って一緒に食べた方が良かったんじゃないですか?手間だし」


前を歩く先生の揺れる尻尾を見る。歩く度にふりふりふさふさしててよく見ると可愛かった。さっき少しだけ触れた先生の頭も触り心地がよく、もう一回触りたいなーと知らず加奈の顔が緩む。


「エルガードやアイナさんにも迷惑かけたし、これ以上お世話になるのもどうかと思うんですけど」


先生は歩く速度を変えず、そのままの姿勢で言葉を発した。


「まだお前に町に行っていい許可は出してないと思うが?」


前を歩く先生のその言葉に加奈はドキリとする。先生を探すため加奈は一度アブリルの町へ行っている。不可抗力とは言え先生の許可と言う名の約束を破ってしまっているのだ。だがそれももとはといえば先生が穴蔵に帰って来なかったからだし、加奈が悪いわけではないのだから堂々としていればいいとは思うけれど、なんとなくだがその態度を表に出すのはやめておいた方がいいと思う。というか先生は加奈がアブリルの町に行った事を知っているのだろうか?それとも知らない?エルガードから聞いた可能性は十分にあるし、さっきの加奈の言葉で気付かれてしまったかもしれない。知っているのか知らないのか、どっちなんだ。


加奈がぐるぐると考えている間、犬先生は悠然と森の中を穴蔵へと進んでいった。






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