私がやらないといけない事
どれぐらいの間、そうしていたんだろう。ずっと抱きしめてくれていたエルガードが、いつの間にかアイナさんに替わっていた。あれだけ降っていた雨が、いつの間にか止んでいた。頭の上にタオルが置かれ、アイナさんが髪の毛を拭いてくれていた。
加奈は顔を上げる。アイナさんと目があい、大丈夫?と笑顔で言われた。
「大丈夫、です。すいません」
加奈はアイナから離れ、周りを見渡す。エルガードが見当たらなかった。アイナさんにエルガードは?と聞くと、今はここにはいないと言われた。
「加奈ちゃん、私達の家に泊まる?」
アイナさんが気を使ってそう言ってくれたが、加奈は首を横に振った。穴蔵に帰りたかった。先生と過ごした、あの穴蔵に。どれぐらいの時間をあそこで先生と過ごせたのだろか。1ヶ月もなかった様に感じる。また涙が出そうになった。自分がこんなに涙もろいとは思わなかった。
アイナさんにお礼を言い、エルガードによろしく伝えて下さいと頼み加奈は穴蔵への道を歩いて行った。アイナさんは何も言わなかった。ただ加奈の後ろ姿をずっと見ていただけだった。
犬先生が死んだ。
あれだけ泣いたのにまだ実感がわかない。穴蔵に戻ってみたら、いるのではないだろうか。そこに、いつも通り。そしてきっと特訓をさぼっていた加奈を怒ってくれるのではないだろうか。加奈は笑ってしまった。未練がましい自分に。バカな自分に。
涙が頬を伝う。声は出さなかった。涙だけが、目から次々に出てくる。拭き取るのも面倒だった。
これからどうしようか。涙を流しながら、加奈は考える。犬先生はいなくなった。犬先生がいなければ天狼の力をコントロールするための特訓も出来ない。だからといって、元の世界へ帰る方法も解らない。もし帰れたとしても天狼の力が暴走して、加奈が天狼化してしまったら皆を殺してしまうかもしれない。家族を友達を、知らない人達を。
「自分の力だけで生きていかないといけない」
取れる策は少ない。
自分でなんとか天狼の力をコントロールする統べを身に付ける。
どこか人が寄り付かない場所、誰も知らない様な場所で一人で生きていく。
夢に出てくる銀色の狼。今度いつ会えるかわからないが、会えたら対処方法を聞く。これは確率的に少ない上、助けてくれるかどうかもわからない。
そして、最後の手段。
自分を殺す。
自殺する、だ。
でもそんな勇気、加奈にはない。それに生きていたいと思う。前世だかなんだかのせいでこんな所まで連れてこられて、犬耳やら尻尾やらが体から生えてきて喋る犬、狼に特訓だの集中だの言われて面倒なことさせられて、気が付いたらちょっと楽しくなってて、楽しかったのにいきなり誰かに襲われて、死にそうになったら夢の中で銀色狼に会って契約だなんだと言われて、起きたら起きたで襲ってきた奴はいないし犬先生は帰ってこないし。
初めてアブリルの町に行ったらなんか感傷的になっちゃうし、雨も降ってくるし。エルガードやアイナさんに会って、犬先生を一緒に探してもらったのに。
先生を、探してもらったのに。
先生はいなかった。
「っがぉぁーーー!!」
また泣きそうになるのを、叫ぶ事で吹き飛ばす。もう十分だ。泣くのはもう、いい。
その時、近くで何かが動いた。
「・・・・・!」
加奈はすかさず天狼の力を出し、警戒体勢を取る。何かが飛んできたので手で叩き落とす。叩き落とした瞬間、黒いものが突っ込んで来たのですんでの所で横に跳び、かわす。見ると、突っ込んで来た黒いものは黒いローブを着た人間だった。
「・・・・人・・・?」
フードを被っていて顔は見えなかった。が、口許だけは見えた。不気味に笑っている口許だけは。
この黒ローブも笑っている。犬先生が死んだのを見ていたロータスも笑っていた。当然の事だと、狼は死んで当然なんだと、そんな風に笑う。
狼を見て、笑う。
体が、ざわっとした。
加奈の体から銀色の膜が消える。犬耳尻尾を残したまま、銀色の膜が消える。加奈は動かない。静かに、黒ローブの人間を見る。犬耳と尻尾がざわざわする。何だか、変な感じがした。
気が付いたら加奈の犬耳と尻尾は、灰色から黒色に変わっていた。
真っ黒になっていた。
そこからの加奈の行動は速かった。黒ローブの人間を蹴りで吹っ飛ばし、すぐに走り出す。
やるべき事があった。
やらないといけない事が、まだあった。
犬先生の、敵討ちを。
もうすぐ終わらせられそうです。・・・終わるかな?色々話しを考えてたのですが、終わらせないともう1つの方が全く進まない事に気づきまして・・・。
とりあえず、一回締めちまうかっ!の精神で今書いてます。(笑)ハッピーエンドにしたいよねー、本当。ハッピーで終われたらサブストーリーとか書けるし!!
終わるかな・・・・・




