第九十四話 魔王として
もう一度と言って薄ら笑いを浮かべるアメノサグメに再びマサルは刀を抜いた。
持てる力の全力、そして込められるだけの聖属性の魔力を込めて。
「切ったっ!! ん、んあ!?」
自身の刀から感じる感触と、その手ごたえにマサルから声が漏れるが、その期待は崩れてしまう。
「て、てめぇ!!」
「どう? すごいでしょ? 神様、とまでは行かないけど、僕もそれなりに強いからさぁ」
左下から逆袈裟気味に振り抜いたその刀は、アメノサグメの胴体の半分まで切ったところで止まっていた。
硬い背骨で刃が止まってしまっている。
つまり、ランスロットがアメノサグメに突き刺さったような状態で止まってしまっているのだ。
「お前、びっくり人間かよ」
「酷いなぁ。こんなに美しい見た目の僕に向かってそんなこと。でも、イケメンの抵抗は大好物だよ」
アメノサグメはクスっと笑って、右手に持った刀の形をした魔力を抜刀の形から右手を振り上げる形で構え直す。
「ぬ、抜けねぇ!!!」
ランスロットが突き刺さったまま抜けない状況になり、マサルは身動きが取れない状態になってしまった。
「マサル!手を放せ!このままじゃ直撃する!!」
「うるっせぇ!!お前は黙ってろ!このまま振り抜きゃ済む話だぁぁああ!!」
ギリギリと気持ち悪い音を立てて少しずつ刃が進んでいく。
「いたたた、なんて言わないけど、ちょっと大人しくしてほしいなぁ。切りにくいじゃないか」
「ぐふっ……」
そういうと、目の前でランスロットを振り抜くために全力を込めているマサルの腹をアメノサグメは蹴り上げた。
「だからマサル放せって!!」
「……」
「あれま。意識が飛んじゃったかな? それでも放さないって、君よほどご主人様に気に入られてるんだねぇ」
ランスロットを人差し指で撫でまわしながらアメノサグメが言う。
「さ、触るなぁ!!」
「よし決めた! このイケメンを切り殺したら、今度は僕が君のご主人様になってあげるよ。となるとこのイケメンは邪魔だな。楽しかったよ。ありがとね」
そういって刀型魔力を振り下ろす。
結果として、その刃はマサルを傷つけることは無かった。
「何これ?」
マサルの身体を守るように浮かび上がる魔法陣。
その魔法陣に阻まれて刀型魔力はマサルの頭ギリギリで止まっていた。
そして、魔法陣が浮かび上がると同時にギルドの扉が開き、マサルを呼ぶ声がする。
「兄ちゃん!! 何寝てんの!!! 兄ちゃんは最強なんだろ!?」
その声を聞いて、一気にマサルの意識が戻る。
「弟が見てる。無様は晒せねぇ!!」
先ほどの続きと言わんばかりに、ランスロットに再度力を込めて、両の足は床にヒビが入るほど強く踏んばり、とうとうランスロットを振り抜いたのだった。
「そんなまさか。 これは思ってた感じと違うなぁ」
胴体が切り離されても声を変えないアメノサグメは、ドシャッという音とともにその場に崩れた。
「兄ちゃん! ひとまず離れて!」
ノボルがマサルに駆け寄り、マサルを引きずって距離を取る。
「ノボル駄目だ。あぶねぇから離れてろ」
「何言ってんだよ。僕が来なきゃ兄ちゃんさけるチーズだったんだから」
「……あはは、いてて。今笑わせんな。またアバラ折れてやがる。ランちゃん頼む」
「さっきはマジでやばいと思ったよ」
そういってランスロットがマサルを回復させていく。
「いいなぁ兄弟愛。たまらないよ。僕のお姉ちゃんはすぐ怒って僕をイジメてくるからなぁ。その聖剣もいいし、弟君もいい。イケメンを殺したら弟君ももらって、お兄ちゃんって呼んでもらおうかなぁ」
およそ窮地にいるとは思えないほど、余裕に満ちた言葉を発するアメノサグメ。
無論、胴体は切り離されているのにだ。
すると、ノボルが立ち上がりアメノサグメに近づいていく。
「やめろノボル!何されるかわからねーぞ!」
「大丈夫だよ兄ちゃん。兄ちゃんとハジメさんたちほどじゃないけど、僕だって多少は強いんだよ?」
迷う素振りすら見せず、ノボルはアメノサグメの前まで行くと声をかける。
「キミたちの目的は何? 見たところ、誰かに指示されてきてるよね?」
「頭いいね弟君。いいよ。弟君可愛いから教えてあげちゃう。そろそろおばちゃんもお冠だろうし」
「……おばちゃん?」
「そうだよ。この前君たちを襲ってきた、それはそれはこわーい神様いなかった?」
その言葉でノボルとマサルの顔が一気に引きつっていく。
「あいつか……」
マサルが声を発する。
「気づいた? そうだよ。カーリーから少し君たちと遊んでやれって言われてね。そうそう聖剣を使っているイケメンの君はハジメって人じゃないよね?」
「だったらどうなんだよ」
「おばちゃんから、ハジメは殺しちゃ駄目って言われてるんだよ。だからもし間違って殺しちゃったら、僕とお姉ちゃんが殺されちゃうからね。あははは」
ハジメは殺してはいけない?
なんだそれと思うマサルだが、ノボルは別のことを考えていた。
「兄ちゃん。ハジメさんたちは?」
「ハジメたちはヴァルに行ってる」
「マズイよ。僕たちもすぐ行かないと!!」
「弟君本当に頭がいいんだね。そうだよ。そっちは僕のお姉ちゃんが遊びに行ってる」
そうこうしているうちに、アメノサグメの胴体がつながりつつあった。
「ノボル、それは無理そうだ。こいつ復活してくるぞ」
「気づいてたよ。僕たちと話しながら体がつながっていくんだから。僕みたいな善良な日本人には刺激が強すぎるよ。兄ちゃん、きついかもだけど、もう一度この胴体切り離せる?」
「ノボル、いつからそんなに暴力的になっちゃったんだ……兄ちゃんちょっと悲しいぞ」
「いま、そんな時じゃないでしょ」
マサルは痛むからだを引きずって、ランスロットを振りかぶる。
「無駄だよぉ。何度切り離したって、どのみちすぐ再生するんだから」
「だろうね。だからちょっと考えたんだ」
マサルが振り下ろしたランスロットはつながりかけていたアメノサグメの胴体を再度切り離した。
アメノサグメは余裕そうな顔で切り離される胴体を見ている。
「だから無駄だって言ってるだろう?」
「我、今代の魔王にして、最強の魔術師が命じる。この罪深き者に、ひと時の猶予を与え、時の流れを固定したまえ」
すると、アメノサグメの胴体から出ていた出血がピタリと止まった。
あわせて、手足の動きも止まっている。
「ノボル、なに、したんだ?」
「簡単な話だよ。切っても切っても再生するから、切ったまま時間を止めたんだ」
「ノボル、兄ちゃんが見ないうちにそんなことできるようになったの、か?」
「最初からできたよ。僕こう見えても魔王だからね」
そういうノボルはすごいでしょ?という表情でマサルを見ている。
「僕の時間を固定した? 何それ。結局僕を倒したことにならないじゃない。なぁんだ。やっぱりバカなのかなぁ」
まだアメノサグメは動揺していない。
「一つ聞きたいことがあるんだ。キミがさっきから言ってるお姉ちゃんって、アマノザコじゃない?」
アメノサグメの表情が硬くなる。
「こ、答える義理はないね」
「それがどうかするのか?」
「僕知ってるんだよ。この人の正体。多分この人は、天邪鬼の進化前だ。合体するのかどうかわからないけど、こいつと対になるアマノザコも同時に叩かないと多分倒せないタイプだよ」
「あまのじゃくぅー? あれか? 全てが反対のこと言うあの天邪鬼か?」
「その天邪鬼だよ。多分この人は男性の見た目だけど、性別は女性だよ。言ってなかった?」
マサルは少し考える。
「言ってたな。自分は女だって」
「これで決まりだね。天邪鬼になられたらそれこそ困るけど、アメノサグメもアマノザコも同時に叩かないとダメだし、連絡取りながらじゃ無理だ。だからこうしようと思って」
そういうとノボルは麻袋のようなものをマサルに手渡す。
それを見てマサルがなるほどと納得する。
「ま、待て待て待て待て!! 僕をどうするんだ!?」
ここにきてアメノサグメが動揺し始めた。
「こうすんだよ」
マサルはアメノサグメを麻袋に詰めて口を縛った。
袋の中からは出せと叫んでいる声が聞こえるが、無視だ。
「よし、兄ちゃん俺たちもヴァルに行こう!」
「さすがにあぶねーって。それにここの職員とかどうすんだよ。来た時には誰もいなくなっててよ」
「それは僕がここに来る前に避難させたから大丈夫。捕まってたルードさんももう治療中だよ」
「ノボルも立派になって……。兄ちゃん目から汗が出るぞ」
「そういうのいいから。ほら兄ちゃん行くよ!僕がいないと兄ちゃん守る人がいないでしょ!?」
「ノボルを守るのが俺の役目なんだけどなぁ」
そういって頬をポリポリとかいて、二人はヴァルに向けて移動したのだった。




