第八十九話 疲れない
俺たちはギネヴィアを仲間に加えて、カムランの街を離れた。
急ぎニブルに戻らなければならない。
ギネヴィアも鞘の姿になってからはアリスの腰に収まり、道中ガールズトークをしているようだった。
エクスカリバーは移動中の端々で、元の変態を発揮しようとするのだが、その都度ギネヴィアからカシャリという金属音が聞こえてエクスカリバーが固まるというのを繰り返していた。
道中いちばん静かだったのはランスロットだ。
完全にいじけモードになっている。
「なぁランちゃん元気だせって。なんでお前がエクスカリバー取られた浮気相手みたいな反応してんだよ?」
「そんなわけねーだろぉ!」
ランスロットはすぐに否定する。
「まぁまぁそんな気にしぃな!うちはランちゃんの味方やでー!あんなおばん、放っといたらええねん」
玉藻が随分攻撃的だな。
「まぁまぁ!アリス様!今日は元気な狐さんがいるみたいやねぇ!元気だしすぎて、大事なところで疲れはったりしたらいけんねぇ」
「なんやねんおばん」
うわー。
こいつら完全に混ぜたら危険なやつだわ。
二人が火花を散らしていて、アリスも苦笑いしていた。
するとラグナロクが俺に話書くてくる。
「ねぇハジメ? ラグはどうしたら聖剣になれると思う?」
ちょっと答えられないやつ来たぞ。
「さ、さぁなぁ……? 俺は人間だし分からないなぁ?」
「……なんで疑問形?」
俺が答えられないでいるとラグナロクはまたひとり悩み始めた。
その間もギネヴィアと玉藻はいがみ合い、アリスが必死に仲裁して、ランスロットはいじけているという扱いにくくて愛すべき人外どもと俺は、中継地点のユグドラを目指している。
するとマサルがあることに気づく。
「な、なぁ。俺たちそろそろユグドラに着くよな?」
「そうだな」
「なんかおかしくねぇか?」
「なにが?」
マサルの意図が読み取れない。
「俺、疲れてねーんだよ」
だってお前も半分人外だろうがよ。
「あぁ?誰がマサルの体力自慢聞きたいって言ったよ?」
「ちげーって!考えても見ろ、来る時は俺たち馬車乗ってたんだぞ?でも俺たちは今歩きだ」
「……お?」
確かに言われてみると、疲れがない。
さらには往路にかかった時間の三割減だ。
これはおかしい。
「お館様よ。気付かぬか?」
そう言ってエクスカリバーは自身の鎧をコンコンと叩き、裾をまくって足を見せてくる。
「見せんなよ。野郎の生足見たって嬉しくなんか……」
俺は頭に疑問が溢れて固まってしまった。
「どうしたハジメ?」
マサルも不思議そうにこちらを覗き込んでくるが同じ反応をした。
「エク君。足の傷どうした?それに、鎧のヒビも!」
カーリーとの戦闘でエクスカリバーの鎧は破損していた。
それに朝見たエクスカリバーの足の鞭の痕も全て無くなっている。
「ギーネの力なのである」
「どういうことだ?」
「ギーネは私と対になる存在である。私が攻めなら、ギーネは守り。装備者の傷を癒す力を持っているのである。初めての旅ではしゃいでいるのだろう。それで力が漏れているようだ。お館様は今歩いてきた疲れを感じでおらぬであろう?」
「ちょっと待ってくれ」
マサルが話に割って入ってくる。
「俺もランちゃん持ってたら多少の怪我なんて関係ないぞ?でもこれはランちゃんの影響っていうより……?」
「それはそうである。ランスロットの右袖、それはギーネが贈ったものである。ランスロットはギーネの浮気相手であるからな!」
あるからな!じゃねーよ!
「お前がそれ言うのかよ?」
「いいのであるいいのである。過ぎたことであるし、ランスロットの回復能力もギーネの袖の力が漏れ出ているのであろうよ。それにだ。今はこうしてランスロットも仲間である。それだけでなくギーネが私の鞘として今一度戦場に出てくれると言っている。それだけで私は満足なのだ」
「エク君……」
「どうしたのだ?」
「まともなこと言ってて、ちょっとかっこいいのが、なんか気持ち悪い」
せっかくエクスカリバーが説明してくれたのに普段の感覚で答えてしまった。
「くっ、くふぅ……。ひ、久方ぶりの罵倒、たまら……」
「アーサー様?」
「ヒュッ……。……なんでもないのである」
変態モードもギネヴィアの一言でこれだ。
てか、ヒュッってなんだよその音。
人体から出る音じゃねーだろ。
これがカーリー戦直後にエクスカリバーが言っていた、今の私たちではってやつか。
確かに強力な仲間だな。
「ハジメ様!ユグドラに着きますよ!」
移動時間三割減、と言っても回復されてるからノンストップで休むこともなく来たのと、疲れないからかなりの速さで歩けてしまうからだけど、かなり早く着いてしまった。
疲れてもいないし、このままニブルに直行するかと考えていたのだが、ギネヴィアが鞘から人型に戻っていることに気づいた。
俺の方を向いてうんうんと頷いている。
……察しろってか?
……なにを察しろってんだ。
よく見ると、ギネヴィアがエクスカリバーの腕にくっついている。
あー。
デートさせろってんですかい。
「あーなんだ。せっかく来たし、今日はここに泊まって明日帰るぞ。それまでは自由行動にしよう」
「なんやすんまへんなぁ。うちの人借りますえー」
そう言ってエクスカリバーは引き摺られて言ってしまった。
「俺はランちゃん慰めとくから別行動な」
マサルもそう言ってランスロットを連れて近くのカフェに入っていった。
こいつら、今日の宿とか明日の集合場所とかそういうの決めてから解散とかできないわけ?
まぁ既に行ってしまったものは仕方ない。
「ハジメ。一緒に来て欲しいの」
ラグナロクからのお誘いだ。
「おお!じゃあアリスと玉藻も連れて」
「二人がいいの!」
ラグナロクが真剣な目をしている。
「あ、おねーちゃん!あの店行きたいわぁ!連れてってー」
玉藻が何かを気づき、アリスの手を引いて行った。
連れてってーってお前が連れてってんじゃん。
「それで、ラグちゃん。どこ行くん?」
「着いてきて」
俺はラグナロクにつれられて、狭い路地の方へ案内されたのだった。




