第八十八話 う、受け入れます!
俺たちが宝物庫から追い出されて、俺たちは昨日茶菓子とお茶をふるまわれた縁側で時間をつぶすことになった。
一時間は軽く過ぎているがエクスカリバーが帰ってくる様子はまだない。
玉藻も、茶菓子さえ与えておけば機嫌がいいのだが、さっきの宝物庫を追い出された時の玉藻、だいぶ機嫌悪かったなぁと思いつつ、あれがエクスカリバーの奥さんかと思っていた。
俺の記憶だと、エクスカリバーとランスロットに挟まれているグィネヴィアは、ランスロットと不倫した後、誰も幸せにならない展開になっていたはずなのだけど、こっちのギネヴィアはそうでもないらしい。
だいぶ奔放な性格を有した、ある意味で危険物という感じのようだ。
地球とリンクするところがあるから同じ人物というわけでもないようだ。
玉藻だって、だいぶ現代知識を蓄えた妖怪になっちゃってるからな。
朝の時点で、手首に縛られた痕、足には鞭で叩かれたような傷跡の残るエクスカリバーだったけど、今は何をされているんだろう……。
「ハジメ。ランちゃんも残ってたけど、大丈夫かな?」
「どうだろうなぁ。宝物庫出るとき、今にも泣きそうな顔で助けを求めてた気がしないでもないけど……」
「だよなぁ……。エクスカリバーもしんどそうな顔してたぞ?って言うか、ここに来たいって言ってたのはエクスカリバーなんだろ?」
「おお。エク君がカーリーにやられた後、ここに来たいって言いだしたのが始まりだな」
俺とマサルが茶菓子片手に話していると、アリスも参加してきた。
「気になっていることがあるんです。ギネヴィア様は、あの状況からすると何かの武器だと思うのですが、そもそも武器であるエク君が装備する武器? 何でしょうか?」
それは俺も気になっていた。
まさか……。
「まさか、お前んとこの魔剣みたいに腕が生えて、剣が剣持つとかそんなギャグみたいなこと起きないよな??」
マサルが俺の想像と同じことを言い出す。
「わ、笑えねぇ。それはさすがに気持ち悪すぎるわ」
俺がちらりとラグナロクを見てみる。
今でこそ人の姿の方が多いが、もとはと言えば最初は腕が生えた魔剣だったんだ。
ネイルまでバッチリ決めたギャルみたいな腕が生えた魔剣。
その腕がさらに剣を持つなんて考えるだけでも滑稽通り越して寒気がする。
でも、この世界だと、否定しきれないのもまた事実だ。
「アリス。これからはアリスがうちのパーティのキモイ担当になるかもしれないな」
「嫌ですそんなの!! 私だけ罰ゲームじゃないですか!?」
「でも、それが起きるのがこの世界だぞ……」
「ハジメ様がいらっしゃった元の世界だと、無いことなんですか?」
「無いなぁ。そもそも剣とかが戦闘に使われることが無い世界だ」
「平和な世界だったんですね……」
少しアリスが元気なさそうに言うが、それが、この世界に連れてこられたことを悲しむものなのか、これから自分が装備するかもしれない剣を持った剣に対する諦めなのかはわからなかった。
横からマサルが、俺も同郷、俺も同郷と言っていたが誰も相手しなかったことは赦してほしい。
玉藻と遊んでいたラグナロクが俺たちを見て一言言ってくる。
「あの人はそういうんじゃないよ」
「そういうんじゃないって?」
「多分そろそろわかると思う」
ラグナロクは初めて宝物庫に入った段階で何かを気づいている様子だった。
ということは、ラグナロクに通ずる何かってことか?
「やっぱり、腕……?」
「おいおい、ハジメ、まさかあの女の人、エクスカリバーの腕として装備されるとかじゃないよな?」
それはもっと気持ち悪い。
もしそうなったら、残念だがエクスカリバーはここに奉納して俺たちは潔くニブルに戻ろう。
カーリーの再戦には不安が残るが、精神衛生として良くない。
そんな俺たちを見てラグナロクがクスクスと笑っている。
ラグナロクは何に気づいているのだろう?
「わが主、お館様、来てほしいのである」
予想外に、エクスカリバー本人が俺たちを迎えに来た。
ランスロットの姿は見えないが、エクスカリバーの表情はさっきまでの悲壮感に包まれたものではなく、何か覚悟を決めたまっすぐな目をしている。
「みんな。行こうか」
そう声をかけて、俺たちは移動する。
連れていかれた場所は、礼拝堂。
奥には、見たことのある像が立っている。
床までつきそうな長い髪と小柄な体の女神。
飾られているのはロキの形をした石像だった。
「やっぱりここは、あいつのおもちゃ箱なんだなぁ」
「おもちゃ箱?」
マサルが不思議そうに俺に尋ねてくる。
「あぁそれはいいんだ、気にしないでくれ」
「むしろ言いかけられた方が気になるわ!!」
俺はマサルをなだめている。
エクスカリバーはアリスと俺を交互に見て、一つ頷くとロキの像の前で待っているギネヴィアと向き合った。
今にして気づいたが、ギネヴィアが割烹着から白いドレスに着替えている。
よく見ると、ギネヴィアが着るドレスのスカートの端をランスロットが掴んで引きずらないようにしている。
あれ、こういうの結婚式で見たことあるぞ。
「我が名はアーサー」
エクスカリバーは始める。
しかし、ここまでちょこちょこ名前が出ていたのに、理解していなかったのはアリスだ。
「ハジメ様! 聞きました!? エク君って本名アーサーって言うんですか!?」
「アリス。わかった。よくわかったから、ちょっと静かにしよう」
「えっ……。気づいていないの、私だけ……?」
アリスがあたりを見回し、全員が一つ頷く。
「なんで教えてくれないんですか……」
そりゃ気づいてると思うじゃん。
エクスカリバーが話の腰を折られ、頭を数回掻いたあと、咳払いを一つして再開する。
「我が名はアーサー。妻ギネヴィアへの永遠の愛を今一度誓う。この身、この忠誠は主であるアリス・ニブル様、その主であるハジメ様へ捧げているが、この気持ちは貴女、ギネヴィアの物であり永遠に不変であることを今一度ここに誓う」
エクスカリバーがギネヴィアの前で片膝をつくと、ギネヴィアの手の甲に唇を落とす。
「私、ギネヴィアは、アーサー様の妻として、貴方へ降りかかる一切の事柄から守る鞘としてこの身と心を貴方に生涯捧げることを誓います」
まるで結婚式だ。
ん?
……鞘?
「我が主よ。すまぬがこちらへ来てもらえるか?」
アリスご指名だ。
アリスは、少し緊張しながらエクスカリバーに近づくと、エクスカリバーはアリスの右手を、ギネヴィアはアリスの左手を取った。
「えっ? えっ? 何ですか何ですか!?」
アリスは動揺している。
そりゃどう見ても結婚式に乱入した感じになっちゃうもんね。
「わが主への忠誠を今一度」
「夫の信ずる主への忠誠を」
「わが主。我らの忠誠を今一度受け入れて、承諾していただきたい」
エクスカリバーとギネヴィアのまっすぐな言葉と視線に、アリスは声を上ずらせながら答える。
「う、受け入れます!」
アリスの声を聞いた二人は、目を見合わせて一つ頷く。
すると、二人は目をあけていられないほどのまばゆい光を発した。
その光はまさに聖剣という感じがしてしまうのが何か癪だ。
「ま、眩しっ」
アリスが目を背けて、光がおさまってから再度目を開く。
「えっ……? これって……?」
アリスの右手には見慣れた剣の姿のエクスカリバー。
左手には、純白を基調に装飾が施された鞘。
そうか、ギネヴィアはエクスカリバーの……。
「ハッハ!わが主!これで私は触媒を手に入れて、名実共に真の聖剣として力を振るえるようになったぞ!!」
「主様。夫ともどもよろしくお願いいたします」
ギネヴィアも姿が変わっても喋れるタイプか。
「なんで、鞘……?」
するとギネヴィアも普段の口調に戻る。
「それは当然ですわ。夫を受け入れるのが妻のつとめですえ。夫が剣なら妻であるうちは鞘というのが当然ですなぁ」
なるほど。
これはアリスが面倒事を背負いこんだ演出ですね。
分かります。
「ハジメ様!?」
「アリス、よ、よかったじゃん! うんうん。チョーカッコイイ! スゴイナー!」
「棒読みやめてください!!」
その会話から少し離れて、ギネヴィアのスカートの端を地面に付かないよう持ち上げていたランスロットがぽつんと一人。
「俺の役目って、なんだったのよ……」
それを見たマサルが懐から猫耳カチューシャを取り出し、さっとランスロットに駆け寄る。
駆け寄ってカチューシャを着けるとぎゅっと抱きしめた。
「暑い! やめろマサル! これ被せんなぁ!」
「わかる! 分かるぞランちゃん! 引き立て役はつらいよなぁ!」
マサルよ。
なぜ傷口に塩を塗る。
そして俺たちのカムランへの旅はひとまず完了となったのだった。




