第八十七話 馴れ初め
犯人さん、いや、ギネヴィアがこちらに声をかけてきている、。
声のトーンは変わらないが、昨夜は何かがあったのだろうという感じがする。
「おいハジメ、あの人、なんか顔ツヤツヤしてねーか……?」
マサルが小声で俺に言ってくる。
確かに、ギネヴィアは何か満足気な表情をしている。
ただ、気になるのはエクスカリバーのあのやつれ具合だ。
普通に考えて、何かお仕置きされるだけであんなになるんだろうか。
「確かにな。お前んとのランちゃんだってすごいことになってたぞ……」
エクスカリバーもボロボロだったがランスロットも同じくボロボロだった。
「お二人とも何か勘違いしてはりますなぁ。あとでお二人にもお話せんといかんねぇ」
ギネヴィアが同じトーンのまま俺たちに言ってくる。
ギネヴィアはそう言った後、足音もしない歩みで俺たちから離れ、エクスカリバーの側に行ってしまった。
手先が妙に震えるエクスカリバーがビュッフェから朝食を上手く取り分けられないでいると、横からその皿をギネヴィアが受取り、エクスカリバーの食事を盛り始める。
やってることだけ見れば良妻なんだろうが……。
「マサル、今聞いたか?」
「聞いた。俺らにも、説明?するってよ」
これ、下手すると俺たちも同じ目に遭うぞ……。
「ハジメ!見て見て!」
俺たちが妙な身震いを感じていると、ラグナロクがさらに料理をてんこ盛りにして話かけてきた。
盛られた皿は、朝食というより、部活帰りの高校球児が体をデカくする為に食べるような量だった。
「ラグちゃんめっちゃ食うね」
「美味しそうだからいっぱい持ってきた。一緒に食べよ?」
ラグナロクの手には、二人分のカトラリーも握られていた。
ははーん。
俺の分も込みでしたか。
「マサル」
俺はマサルに呼びかけだけする。
「あんだよ?」
ちょっと不機嫌そうにマサルが答える。
俺はラグナロクと、俺の分も盛られた皿を指さす。
「悪いな」
俺はそう一言いう。
「謝んなよ!!俺が相手のいない可哀そうな人って目で見るなぁ!!昨日コイバナした仲じゃねーか!」
「コイバナはしてねーよ」
マサルは小さく、裏切り者とだけ吐き捨てて、自身の食事取りに行った。
ラグナロクは早く食べようと俺を連れてよさそうな空いている席を探している。
当然泊っているのは俺たちだけだからガラガラなのだが、実際にはこの館のメイドやギネヴィア本人も利用するので割と人は多い。
ラグナロクが気に入った席を見つけると、食事の盛られた皿をドカッと置き、俺に座るように促してくる。
俺もそれに素直に従って座り、二人で食べ始めたのだが、奥から動物が車に轢かれたような叫び声が聞こえてきた。
「ハジメ様……。ラグちゃんさん……。さ、先を越された……」
その声の主はアリスだった。
アリスの手にも、一人では多すぎる量の食事が盛られた皿があった。
「早い者勝ち。一緒に食べるならこの席使っていいよ」
ラグナロクはそういって俺たちと同じテーブルの向いの椅子を指さす。
アリスは、小さな唸り声をあげて、しょぼくれた表情で俺たちの向いに座り、こちらに強めの視線を送りながら、自身が持ってきた二人分の特盛の皿に手を付け始めた。
俺が逐一ラグナロクにフォークで朝食を口に詰め込まれている時、一報エクスカリバーの方も俺と同じ状態になっていた。
「わ、私は一人で食べられるのである。大丈夫なのである」
エクスカリバーが謎に抵抗しているが、ギネヴィアが問答無用でエクスカリバーの口に食事を詰め込んでいる光景だった。
俺がそれを見ていると、ラグナロクが次の一口を俺に差し出してくる。
「あ、ラグちゃんその野菜俺嫌いだから別のにして」
ラグナロクは、うーんと少し悩んでその野菜を自身で食べると、別の肉料理をフォークに刺して俺に出してくる。
俺はそれをぱくりと食べながら、目の前で殺気にも感じられそうな視線を向けて、フードファイター顔負けの勢いで食事を口に詰め込むアリスの姿を見て見ぬ振りしつつエクスカリバーに視線を戻した。
「ギーネ!やめてほしいのである。その野菜は苦手なのである!食べたくないので、ぐ、んぐっ!」
エクスカリバーは好きじゃないと言っているその野菜をギネヴィアに口に押し込まれているところだった。
「だめですよぉ。戦うお仕事しはるんやから、何でも食べてぇ。力付けんとね」
これは愛情なのか?
エクスカリバーは、イヤイヤしながら食べ進めさせられている。
不思議なことに、ギネヴィアがエクスカリバーの隣に座っているのだが、その反対にはランスロットが座っており、そのまた隣にはマサルが座っている。
「ランちゃん大丈夫かぁ……?」
「……マサル。ごめん。俺、弱っちいからもう守れないかも……」
ランスロットは目に涙を溜めて、彼氏に振られた翌日の元カノぐらいの落ち込みようで、マサルが必死になだめていた。
その間も、玉藻は食べれる種類の食事全種を食べんとする勢いで一人皿を持って走り回っていた。
しかし、ギネヴィアの近くを通る時だけ少し目つきが険しくなるのが気になる。
俺たちは朝食を食べると、ギーネの私室に呼ばれることになった。
……ん?
私室?
「ラグちゃん。今私室にって言われたよね?」
「言ってたよ。多分あそこだよ」
俺の予想が正しければ、それは人が居住する部屋ではないはずだ。
エクスカリバーの腕に自身の腕を絡ませて、空いている手でランスロットと手をつなぎ、おしとやかで優しそうな顔とは裏腹に、やっていることはキャバクラでよく見そうなべったりとした動きで俺たちの前を歩き、どこかにギネヴィアが案内していく。
「やっぱりここか……」
呼び出されたのは宝物庫。
凡そ人の居住する場所ではない。
エクスカリバーが振り向き、俺とアリスに対して仲間になりたそうな目でこちらを見ている。
「アリス……? 仲間にしますか?」
「巻き込まれるので、いいえです」
俺はエクスカリバーに見えるように頭の上で大きくバツを作った。
エクスカリバーは、雷にでも打たれたような顔をして、悲しそうに俺たちから目線を戻し、宝物庫の最奥へと歩いて行った。
俺たちもそれに続き、昨日も見た最奥に着くと、ギネヴィアが話始める。
「改めましてぇ。わたくし、アーサーの妻、ランスロット様の彼女をさせていただいております、ギネヴィアと申しますぅ」
とんでも無いことを言い出した。
家に入ったら不倫相手がいたとかそういうレベルではない。
不倫の中心人物が、不倫してますと自己紹介を始めたのだ。
エクスカリバーは口から魂でも出たかのような表情をしている。
「私たちの馴れ初めですがぁ……」
ギネヴィアが話出す。
それはそれは、長い話。
本当に二人の馴れ初めと、いかにエクスカリバーがかっこよく、いい匂いで、愛しているか。
そして、ランスロットがいかに可愛くて、得難い彼氏であるか。
おい、本当にいいのかお前らそれで……。
「ハジメ。多分俺が地球で妻と彼女に囲まれたら、失神すると思う」
「奇遇だな。俺もだ」
俺とマサルに、謎の強い結束が生まれた。
「あ、でもハジメもあっち側か?」
マサルはラグナロクとアリスに目を向けて俺に言う。
「やめろやめろ。俺たちは関係良好だ。あんな魂抜けるような顔はしねーよ」
俺とマサルの小声の会話は続く。
その間も目の前ではまるで演劇のようにギネヴィアが左右を歩き回り、エクスカリバーとランスロットがそれについて右往左往させられている。
玉藻は我関せずで、時々ギネヴィアに強い視線を向けて、案内してくれた男性と話して展示物の説明をしてもらったりして、完全に別の観光客のようになっていた。
一つ違和感なのが、この状況でもギネヴィアは割烹着もどきを着ていることだ。
「というわけなんですぅ。わからはったでしょ? うちとこのお二人の切っても切れぬ間柄。 そういえばもう長いこと話してしまってすみませんえぇ」
ギネヴィアは俺たちに問いかけるが、途中から話聞いてなかったからあんま理解できてないが、まぁわかったと思っておくよ。
ギネヴィアは笑顔を貼り付けたまま、柏手を打つと、あの男性がどこから出したかわからないお盆に、一つのお椀を載せて俺たちの元へ来た。
「お、お茶漬け!?」
マサルが反応した。
宝物庫にお茶漬け……?
俺も、ラグナロクも、アリスも全員が困惑していた。
「こういうところが、うちと合わんねん」
玉藻が突然俺に言う。
「どういうこと?」
「これ、これ食ってさっさとここから出てけのアピールやで。 こういう回りくどい言い方するんほんと嫌いや」
「おとーちゃん。わかったやろ? 地球出身のおとーちゃんならわかるはずやで」
ん……?
お茶漬け、早く出て行け。
俺の中で点が線になる。
理解しちゃったよ。
これあれだ。
日本でもあった、あれか。
表面的には見えてないけど、裏に超皮肉か、嫌味な意味が隠れてるやつ……。
「なんだかまだ話があるみたいだし、三人はこのままにして、俺たちは出ようか」
俺がラグちゃんとアリスに言うが、二人はなにがどうして!?という顔をしている。
まぁそういうのがあるんよ。
某歴史の深いとある地域でな……。
俺はラグナロクとアリス、そしてなんだなんだと騒ぐマサルを連れて宝物庫を出た。
そういえばエクスカリバー、鎧の下の肌着が変わってたな。
あれは、収集されたな……。
死ぬなよ。
エク君……。




