第八十六話 修学旅行
俺たちがひとしきり談笑し、お茶を飲んで茶菓子を食べていると、案内してくれた男性が音もなく近づいてきて俺たちに声をかけてくる。
「みな様、お口に会いましたか?」
男性が俺たちの後ろから、かけてくる声は気品のある言葉やトーンなのだが、どこか存在感の無い声だった。
「おっちゃーん!めっちゃ美味いなぁこれ!もっとあらへんのかぁ?」
玉藻がトテトテと歩いて男性に話しかけに行く。
男性は軽く微笑むと、右手を軽く上げる。
すると、どこからともなくメイドたちが寄ってきて、減った茶菓子やらお茶やらを補充して音もなく消えていった。
な、なんだこの街。
どうも空気感がおかしいような気がする……。
「あっ、そうでした!」
アリスが何かに気づいたように声をあげた。
誰も茶菓子の感想とかお礼とか言ってないけど俺たち不躾集団、明日にはさらし首とかならないよね……?
「どうされましたかな?」
「ここに来る前に聞いたのですが、ギネヴィアがお住まいになられているではなく、飾られていると伺いました。ですが先ほどエク君を連れていかれましたが、飾られてるとは……?」
「あぁ。そのことですか。簡単な事です。その話に間違いは一切ありません」
「と、言いますと?」
男性は顎に手を当てて少し考えるそぶりそした後、何かを決めたような表情をした。
「それでしたら、実際にご覧になっていただいた方がわかりやすいかもしれませんね」
「実際に、見る、ですか?」
「はい。ご一行様皆様でいらっしゃるとよろしいかと思います」
そういって男性は俺たちに移動を促してきた。
「あーーー。うちの茶菓子がー。まだ食べてたんに……」
「ははは。戻りましたらまたお部屋まで用意させますよ」
「ほんまか!?おっちゃんいい人やなぁ!おっちゃんのことずっと忘れんとくわ!」
「それは光栄でございます。用意させる茶菓子はもっと良いものにいたしましょう」
「きゃはぁ!!おとーちゃん!おかーちゃん!この街うち好きやぁ!!」
お前は自重と礼儀をまず覚えような。
子供の行動で親が恥ずかしい思いする時ってこんな感じなのかな。
一児、いや、一狐の父として地球にいたころの両親のありがたみを再認識してしまった。
男性は玉藻の手を引き、あやしつつ、俺たちをとあるところに案内した。
「ハジメすげーなここ。宝物庫かな?」
マサルは博物館特有のシンとした音のない空間と、声が響く宝物庫で俺に問いかけてきた。
「だぶん……な。それにしても置いてあるものが金で買えそうにない類のものばっかりに見えるぞ」
「ハジメ様。実際そうです。こちらの魔導書なんて国宝としか思えないものですよ。ただし闇属性だと思うので国宝認定は出来なさそうですが」
何気なくアリスが指さす魔導書からは、見ているだけで体力を吸われそうなオーラを魔導書そのものが放っている。
それ以外にもいわくつきとしか思えない宝物たちが所狭しと展示されている。
「ハジメ。ラグここ面白くないよ。もう飽きたよ。お買い物にいこーよ」
ラグナロクは宝物庫に入った瞬間に、最奥を見ると、なるほどと何かを納得した表情をしてからすぐに飽きたと言い出している。
それに反して玉藻は博物館でも来たかのように、男性を連れまわしてはしゃいでいる。
男性も孫に連れていかれるおじいちゃんのように玉藻に案内を続けている。
俺たちもその後ろを展示物を見ながら奥へと進んでいった。
「こちらでございます」
男性は最奥の壁までたどり着くと、壁の金具を指さした。
「なにも、なさそうですが」
アリスが不思議そうな顔をしている。
「それはそうです。今は歩き回られておりますからな。ははは」
なにが、はははなんだ。
全然わからねーよ。
壁には何かを壁にかけていたであろう二つの金具があり、長さはどうだろう。
およそ、一メートル前後ほどのものがかけてあったように見えるが、実際槍でもかけられそうな作りをしている。
「それで、これが何なんですか?」
俺がしびれを切らして質問してみる。
「ですので、こちらが先ほどの質問の答えでございます」
「もしかして、ギネヴィア様も剣や武器などに姿を変えることが!?」
「そちらは、明日の朝にでもわかるでしょう。まぁエクスカリバー様の体力が持てば、ではありますが。さぁ皆様そろそろお部屋も準備できる頃です戻りましょう」
結局、核心部分は答えてもらえずじまいで俺たちは各々に割り振られた部屋に戻って行った。
部屋はマサル以外が同室という状況だった。
俺たちは家族だからと同じ部屋にされたようだ。
「ハジメぇ。俺、なんで一人なわけ?こういうのって、男部屋と女部屋の割り振りじゃないの?」
マサルが部屋に入る前に俺に声をかけてきた。
「しかたねーだろ。お前の家族はニブルに残ってるノボルと、連れ去られたランちゃんなんだから」
「そうだけどよぉ。泊りだぜ?夜だぜ?コイバナとかするじゃんよぉ」
「しねーよ。お前の頭の中は修学旅行の女生徒かなんかなのか?それに、何が楽しくてお前とコイバナせにゃならんのだ」
「つめてーなぁ。トランプも持ってきたのによぉ……」
そういってマサルは寂しそうに、そしてしぶしぶ部屋に入って行った。
ほんとアイツ何考えてんだ。
部屋に入るとここにも日本の空気が満たされていた。
大きなテーブルの中央に急須と湯呑。
籠に盛られた茶菓子。
それにここも畳敷きになっている。
まるで旅館だ。
「わぁ!ハジメ様ここすごいですね!初めて見る感じのお部屋です」
「ラグも、このなんだか草っぽい匂いの床、結構好き」
それ畳ね畳。
玉藻は特に驚くこともない。
まぁ元が日本の妖怪だし、それに和室全盛期からいるような歴史持ってるからな。
「ええ部屋やな。これでテレビとかペイチャンネルとかあったら文句なしなんやけどなぁ」
お前はどこぞのオッサンなんだ。
俺は玉藻の頭をはたく。
「いった!またやな!またおとーちゃんうちを叩いたな!おかーちゃんにも叩かれたことない、わけではないけど!!」
どっちなんだよ。
ネタもってくるならちゃんと再現しろよ。
しばらくすると、扉がノックされてメイドがぞろぞろと夕食を運んできた。
部屋食かよ。
ますます旅館だなこりゃ。
「さびしぃよぉぉぉぉ。ハジメぇぇぇぇ。話そうぜぇぇぇぇ。トランプもあるよぉぉぉぉ」
壁越しにも聞こえる大きな声でマサルが叫んでいる。
あぁ、一人で夕飯だもんな。
「すいません」
「はい?」
俺はメイドの一人に声をかけ、申し訳ないけど隣のバカも夕食だけこの部屋で同室にしてやってくれと頼む。
メイドは少し理解に苦しんでいたが承知しましたと納得してくれた。
「いっやぁ悪いねぇハジメ!俺まで一緒にしてもらっちゃって!!」
すごくご機嫌なマサルがパジャマと寝るときに被る三角の帽子をかぶって入ってきた。
「お前は何なんだ!?少年なのか!?その姿とお前の顔がアンマッチすぎて逆にきもちわりーんだよ!!」
「おおお!?なんだ!?入るなりいきなり罵倒だなんて。お前が呼んでくれたんじゃねーか」
俺たちはいっしょに夕食をとり、結局全員でトランプをしてと、完全に修学旅行を満喫させられた。
そのままマサルは夜中にも部屋に居座り、やれコイバナだ、やれ先生がくるぞだの一人で騒いでいた。
そして翌朝である。
ーーーーコンコン
ノックの音で目が覚めた。
結局マサルは帰らず、全員でこの部屋で寝てしまったのだ。
「朝食でございます」
あの男性の声がする。
「朝食はこちらへお越しください」
そういって案内された先は、大きな食堂で、食事がセルフで食べれる状態になっていた。
「ビュッフェじゃねーか」
「ハジメ、やっぱりここ日本だよ。だってほら、ビュッフェだもん」
俺とマサルが困惑していると、後ろから聞きなれた声がした。
しかしその声は、どこかか細い声だ。
「お館様……。ひどいのである。私を見捨ててみんなで一夜を楽しんでいたのであるな……」
「もう、吐き出すものは何もない……です」
エクスカリバーとランスロットだった。
「ゆ、昨夜はお楽しみ、ではなかったみたいです、ね?」
俺は定型文をしっかり言うことができなかった。
二人があまりにもやつれていたのだ。
エクスカリバーに至っては二回りほど小さくなったように見える。
「お館様。お館様の思っているような男女の時間ではなくだな、ほら。これとこれを見てくれ」
エクスカリバーの両手には縄で縛られたような痕が赤黒く残り、裾をめくった足には鞭で殴られたのか?という痕が無数についていた。
「お、おおう。頑張ったな。俺はそういう痛みを伴うのはちょっとな。さすがエク君。カッコイイナー」
「心がこもっていないのである……。もういいのである」
そういって、エクスカリバーとランスロットはトボトボ歩いて食事をとりに行ってしまった。
「夕べはうちの人をかしてもらっておおきになぁ。ハジメ様も、うちの人に手ぇ焼かはってるやろ思て、ちゃぁんとお話しておきましたよぉ」
さぁ犯人様の登場だ。




