第八十四話 出迎えと歓迎?
俺たちは乗合馬車に乗り込むと、そこまで広くもない馬車であと一人か二人という空き状況だった。
おそらく、ラグナロクが俺にべったりなのと、女性陣がラグナロクを除いて基本的に小柄だからだろうなと思う。
そろそろ出発という声が聞こえたタイミングで、追加で一人女性が乗り込もうとするが、御者と押し問答になっている。
その容姿はどう見ても冒険者の女性という感じだが、身の丈に合わない大きさの盾を背中に背負っていて、まるで亀のようだった。
盾を乗せるのか、馬車の天井にくくりつけるのかで揉めているようだった。
「ラグちゃんラグちゃん、亀さんが馬車に乗ろうとしてるぞ」
俺は小声でラグナロクに話しかける。
「ハジメ、ふふふ、そういうのは言っちゃだめ」
ラグナロクがクスクス笑うところは貴重な光景だ。
そうこうしていると、御者は大柄な盾を天井に括り付けることを了承しないなら乗せないと言い切り、女性冒険者は諦めて従うことになったようだ。
おずおずと馬車に乗り込んで、空いているスペースにちょこんと座り、膝を抱えている。
隣のエクスカリバーがあからさまに幅を取る鎧だから可哀そうに。
「それでは出発しますので、移動中は立ち上がったりはしないでくださいね」
まるでバスの運転手のように案内して、馬車は走りだした。
意外や意外。
この世界の馬車と言っても、俺の想像では歩くよりは早いし疲れなくていいけどまぁそんなもんと思っていたのだが、実際には自転車を超えるんじゃないだろうかという速度で進んでいく。
揺れもそこまでなくて、どこで衝撃吸収しているのか不思議なくらい簡素な作りの馬車は想像以上の速さで進むのだった。
「うちの鎧きた落ち武者が幅取って悪いね。俺ハジメって言うんだけど君は?」
あまりに小さく縮こまっているのが何だか可哀そうで声をかけてみた。
「……はい。元気です」
小学校の点呼?
「ん~と、元気さん?」
「はわわぁ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ジュンです……」
「お館様。いつの間に私は落ち武者に格下げされたのだ?まぁ悪くはないが、したいのならば訂正してもよいぞ」
「お前今入ってくんな。話がややこしくなる」
「んふぅ~」
変な声を出してエクスカリバーは引っ込んだ。
引っ込んだエクスカリバーだったが、ジュンの盾が気になるようで天井に括り付けられた盾を目を細めて見つめていた。
それを見てジュンを名乗る冒険者の女性はさらに怯えている雰囲気まで追加してしまった。
ラグナロクはあまり興味なさそうにしているし、アリスは乗り物酔いでうつむいてるし、玉藻は夢の中に旅立ってしまっている。
マサルは御者と話して盛り上がっているし、ランスロットもエクスカリバーを牽制するようにチラチラ見ていてこちらのことなど構っていられないという様子だ。
俺は話しかけようにも、触れないでというオーラを全開で放出するジュンに対してこれ以上話しかけることは憚られてしまった。
「なんかあったら声かけて」
そういうのが精一杯だった。
それでもジュンはこちらを見つめるだけで何も返答はしなかった。
俺は自身の席にドカッと腰を下ろして、俺も寝ておこうかなと思うと、ラグナロクはすでに馬車移動に飽きているようで俺の肩にもたれかかって寝息を立てていた。
それからなんとも静かな居心地の良くない時間が二時間ちょっと流れると、突然黙っていたジュンが大きな声をあげ全員がジュンの方を見た。
「おお!降ります!!!」
そんな選手宣誓見たいな声出さんでもという声量でジュンが声をあげた。
馬も驚いて御者が必死に押さえていた。
その光景に気づいてジュンが何度も頭を下げて謝ると、どこからどう見てもただの平原という場所で一人亀の甲羅みたいなサイズの盾を背負って降りていってしまった。
「ったく。馬が驚いちまった」
御者の愚痴が出ている。
「それにしてもあの子はいったい何だったんだ……?」
「また他の女の子が気になっちゃったのハジメ?」
ラグナロクがまっすぐこちらを見てくる。
「イヤイヤ、すでに両手に花で手一杯だわ」
「ハジメ王国に入れるならちゃんとラグとアリスに相談してね」
「王国!?なにそれ」
まだハジメハーレムとか言われた方がしっくりくるわ。
「おいおいハジメ。一国の王女を妻にしますな男で、お前ひとりで魔剣まで扱える戦力に聖剣までいるんだぜ?ハジメ王国もあながち見当違いじゃないと思うぞ」
マサルが俺に言ってくるが、なんだか納得したくない。
「俺はせいぜいハジメ村の村人でいいよ」
「ハジメ様!ハジメ王国はここから始ま……うっぷ」
「まだ馬車酔い治ってないんだから大人しくしとけって」
俺はアリスの背中をさすりながらうなだれるアリスを介抱している。
ちなみに、この騒動の中でも玉藻は目を覚まさなかった。
「そろそろカムランですよ~」
御者が俺たちに声をかけてくる。
「もう着いたん?馬車だと一瞬でつくからいいわぁ」
玉藻が目を擦りながら起きてくる。
「そりゃお前がずっと寝てるからだ」
俺は玉藻の額をぺしっと叩いた。
「あいた!!何すんねんオトン!虐待や!でぃーぶいや!どめすてぃっくなばいおれんすを受けたで!!」
玉藻はわちゃわちゃと騒いでいるが無視することにする。
馬車からぞろぞろと降りた俺たちは目的地であるカムランの入り口にいる。
うちの聖剣二名が俺たちから数メートル離れたところからこちらに近寄ろうとしない。
「エク君!お前の要望でここまで来たんだぞ!」
「わ!わかっている!し、しかしだ。この、私と共に数々の戦場を駆け抜けた足が、まったく言うことを聞かないのだ!!決心したというのに情けない!!」
エクスカリバーはどこか体を震わせて何かに怯えている様子をしている。
ランスロットに至ってはここにきてエクスカリバーの右手を握り下を向いている。
その姿はまるで親子のようなのだが、この二人同い年なんだよな……。
何なんだこいつら……。
俺はエクスカリバーに近づき、その手を強引に引いてカムランの入り口、つまり敷居を跨いだのだったが……。
入った瞬間、エクスカリバーの様子が変わった。
まるで、頭に電撃でも走ったかのような顔をする。
「来る!来るのである!今すぐ身を隠すのである!いや!それでは足りぬ!」
俺には何も見えない。
アリスもラグナロクもあたりをキョロキョロとするが何も見当たらず、普通の街であることにきょとんとしている。
「エク君何がくるってんだ??」
「お館様!今すぐ脱出を!!退避である!!」
エクスカリバーはその顔に大汗をかきながら俺を見つめる。
「オトン。向こうから嫌な気配がしとるで」
玉藻が街の奥を指さす。
俺も目を凝らしてみてみると、陽炎の向こう側からゆっくりと近づいてくる何かがいることに気づいた。
近づいてくるにつれて、なにかお供のようなのをぞろぞろ連れた一団のような人数がこちらに近づいてくる。
「多分私は仲良ぉなれんタイプかもしれんわ」
「玉藻がこんなこと言うの珍しいな」
「多分私と似てんねんけど違うねん」
「なんだそのなぞなぞは」
「多分話せばわかるわ」
玉藻は子供モードに姿を変えると、俺とラグナロクの後ろに下がってラグナロクのフレアスカートにしがみつくようになった。
「マサル、俺ちょっと吐きそう……」
「ランちゃん!お前までどうした!?」
この場で俺とマサルは何が起きているのかと状況把握で手一杯になるが、そんなことをしているうちに、一団が俺たちの前に到着してしまった。
「ようこそカムランにいらっしゃいました。歓迎いたします。ハジメ様ご一行ですね?」
なぜ俺たちの素性まで知ってる?
ルードに出発前に聞いた時にはこの街にはギルドが無いって言ってたけど……。
「今日はうちのエクスカリバーが……」
俺が言っている側から目の前の街の代表と思しき初老の男性は言葉を被せてくる。
「存じております。エクスカリバー様の件でらっしゃいますね?」
エクスカリバー、様!?
すると一団の奥から声がする。
「おやおや、ようみたらうちの人やないの。お帰りやす。ちょっとお買い物行かはったのかと思てたら、ずいぶんと日が暮れてしまいましたなぁ」
落ち着いていて、それでいて本心の見えなさそうな声がする。
次第にその声の主が近づいてきて姿が見え始めた。
うちのエクスカリバー様ときたら、激苦なお茶でも飲まされたような顔をして、騎士団も顔負けな直立不動で目をぎゅっと閉じている。
何がくるってんだ!?




