第八十三話 渡りに船と辛い代償
ギルドに到着してからユグドラに到着するまではさして時間もかからなかった。
転移でいける先だからこれと言って目新しいこともない。
転移の順番待ちをしている時ですらこれと言って何か壮大なことを話したわけでもないし、申告な悩み相談があったわけでもない。
とても普通。
まるでピクニックに行く小学生の集団のように和気あいあいとしている。
しかし、一部に関してだけはそうでもなかったらしい。
ユグドラに着いた俺たちは、まずは食事と、ユグドラのギルドでマサルが聞き出したおすすめの店に行くことにした。
今回は薬膳などは避けたかったので、何度もそれは人間用か?という質問を俺は繰り返し、ギルド職員を困惑させていた。
ギルドおすすめの店というのは本当におすすめの店だったようで、入店するまでに少し待たされた。
「次にお待ちのハジメさまー」
店員が店から顔を出し俺たちを呼んでいる。
「おっ!やっと俺たちの番だぜ!」
マサルはウキウキとしている。
やっとと言ってはいるが、待ったのはせいぜい十分程度。
こらえ性が無いのかこの男は。
「ランスロット。来るのである」
ここで意外だったのは、エクスカリバーがどういうわけかランスロットと手を繋いでいたことだ。
正確には手を繋いでいるのではなく、ランスロットの手首を掴んで離さないというのが正しいだろう。
マサル、俺、ラグナロク、アリス、玉藻、エクスカリバー、そして引っ張られるようにランスロットが入店し、奥のテーブル席を案内された。
俺やラグナロクはいつもの通りというような場所に座ったのだが、エクスカリバーだけはランスロットの隣、それもランスロットの右側にドカッと腰を下ろしていたことだ。
「ハジメ様。なんだかエク君がいつもと違う気がします」
アリスもどこか違和感を感じていたようだった。
エクスリバーはおかしいというより、ランスロットに深く確認をしているようだった。
何度もランスロットの右袖をつまみ、ランスロットがそれを振り払いというのを繰り返している。
「やはりこれには見覚えがあるのである。なぁランスロット、やはりこれはギーネの服の一部ではないか?」
「……」
ランスロットは答えない。
めげずにエクスカリバーは聞きなおす。
そんなやり取りは三度は繰り返されていた。
「ご注文は?」
愛想も無ければ不愛想でもない絶妙な表情の店員が注文を取りに来た。
ギルドではおすすめを頼めとアドバイスされていたので、俺たちはそれに従った。
「おすすめを人数分で」
――――パキッ。
っとでも言いそうな、空気が凍り付く感覚が一瞬した。
敵襲か!?とも思ったがどうやらそうでもないらしい。
「お、おすすめを人数分で、すか?」
この空気を作ったのは他ならない絶妙な表情をしている店員だった。
既に店員は先ほどまでの絶妙な表情から、こいつら人間か?という疑いの表情に変わっていた。
「あ、あれ?なんかまずいですか……?」
俺は不安になって確認する。
「い、いえそのようなことは」
店員はそういって注文を厨房に伝えると、厨房の方からも驚きの声が上がっていた。
俺たちはいったい何を頼んだんだ?
「おい、マサル。さっきギルドでなんて言っておすすめの店を聞いたんだ?」
「あーさっきか?ギルドのイルマさんって人がいい人でさ、どんなのがいいかって聞かれたから、パンチのある目が覚めるようなやつって言ったんだよ。そしたらここ紹介された」
「目が覚めるやつ、だと?」
一気に俺とアリスに不安がよぎる。
なぜ俺はマサルが聞き出した店を安易に信じてしまったのか。
こいつは鉄の胃を持つ人外だったというのに。
「アリス。常備薬は?」
「ぬかりありません。胃腸薬一式準備済みです」
治癒魔法があるこの世界で、薬が必要になる事態なんてそうそう起きないはずだが、念には念をだ。
待たされることもなく、店員は定食を持ってきた。
その見た目は特に怪しいところは無く、肉の炒め物という見た目だった。
肩透かしを食らったように俺とアリスはきょとんとしている。
「超うまそうじゃん!」
「ええやんええやん!めっちゃうまそうやん!」
マサルと玉藻はノリノリだ。
俺とアリスはまだ少し警戒している。
ラグナロクは特に警戒はしていなさそうだが、俺たちの反応を見ているようだった。
「なんだ?みんな食わないのか?じゃあ俺から」
そういってマサルは食べ始め、うまいうまいと食べ進めていく。
マサルの評価は全くあてにならないのを俺は知っている。
続いて玉藻が口にする。
「めっちゃ美味いやん!いくらでも食べられそう……ん?……ん?」
玉藻の顔がどんどん赤くなり始め、次第に汗が止まらなくなっていく。
ほらみたことか。
なにか仕掛けがあったか。
極端な激マズか?それとも、なにか特殊な味でも……?
「かっらっ!!辛っ!!アカン!私もう味感じられへん!!もう何食べてんねやろ、水飲んだら余計辛っ!!!」
そっちかー。
激辛だったか。
俺の頭にノボルの、兄ちゃんは親から鉄の胃という言葉がリフレインする。
「話が進まんであるな。ランスロット。私たちもいただくぞ」
「進めない話をしてるのはお前だ」
そんな話をする人外チームの残り二人が食べ始め、マサルと同じく美味いと絶賛している。
「俺たちも諦めるしかないな。アリス、ラグちゃん、行くぞ」
こんなのまるでラスボス戦だ。
「すごいですハジメ様!今回は薬膳に比べたら大したことないです!味がわからない程度ですよ!!」
喜ぶところそこなのか?
俺もしっかり味覚は破壊されてしまっている。
ラグちゃんも一口でやめようとしたので俺がフォローする。
「ラグちゃん、死なばもろともだ」
「……ハジメいやだよ……」
少し涙目になりながら食べ進めていた。
一通り食べ終えた俺たちに、店員が驚いた表情で駆け寄る。
「大丈夫でしたか!?」
そんなことを言う店員はどうなのだ。
どうやら、この店のおすすめは激辛チャレンジメニューで、本当のおすすめは日替わりらしい。
そういうところちゃんと聞いてきてよマサルと思う俺だったが、店員は俺たちに謎のチケットを渡してくる。
「完食の賞品です。このチケットで乗合馬車が一回無料になります」
「場所の指定はありますか?」
「乗合馬車なので、規定の場所だけになりますが、このあたりだとカムラン行とニブル行ですかね?」
カムランだと?
そんなの渡りに船だ。
「ありがとうございます。あ、あとすみません。水を四杯もらえますか?」
店員は不思議そうな顔をしているが俺は受け取ると、ラグナロクとアリス、そして玉藻に配る。
それをみてアリスも察したようで、胃薬を俺たちに配った。
もちろん人外チームには不要だ。
俺たちは少し痛む胃を抑えつつ店を出て、マサルにクレームを入れながら乗合馬車まで向かうことにした。




