第八十一話 聖剣の条件
王城に戻った俺たちは、そろそろ夕食と言われて食堂に通された。
食堂には鼻血を止血した玉藻がすでにいた。
「オトン、オカンにねーちゃんもおかえりぃ。の、ノボルくんもおかえりぃ」
後半照れながらこちらに声をかけてきた。
パパは認めてませんよ。
アリスはドスドスと玉藻に近づき、治療前に退出してしまった結果、自身が薬膳の標的になったことを必死に玉藻に伝えていた。
「ごめんごめん。ねーちゃんごめんなぁ」
そういいながらも玉藻はケタケタと笑っていた。
「そういえばオカン、なんか元気ないけど大丈夫かいな?」
玉藻も気づいたようだった。
ラグナロクはギルドでマサルが神からの攻撃を身をもって防ぎ、魔族領を防衛した話を聞いてからずっとこの調子だ。
「大丈夫大丈夫。ラグちゃんちょっとつかれてんだよ」
「ほんまぁ?てかなんでオトンが答えんねん」
そう言って笑う玉藻だが、なんとなく今は触れない方がいいというのを察してくれたようだった。
その間に、テーブルの上には豪華な食事が運ばれてきた。
これだよこれ。これが人間の食事だよ。
「ハジメ様。今日は食事がごちそうに見えます。豪華だからじゃないです。命の危険を感じない食事がこれほどありがたいだなんて、初めて知りました」
アリスも俺と同じことを感じていたようだ。
最後にトールが入ってきて、ささやかでありながら豪勢なディナーになったのだった。
食事中はいろいろと会話が飛び交った。
トールから今回の事態の簡単な質問や、明日以降の予定等。
俺たちは説明しつつ、食事を進めつつ、実に充実した時間だった。
一通り食べ終わると、俺とラグナロクは俺の自室に、アリスも自分の部屋に戻ることになった。
ノボルはまだ帰ってきていないマサルと同室だ。
「オトン?私も同じ部屋で寝ていいん?」
「なんか問題あるのか?娘だし」
「襲ったらあかんよ?」
「しーねよ。それにほら」
俺はラグナロクを指さす。
「お、オカン、別にオトンに何か悪さしようってわけやないで!?私可愛い娘やし!!」
ラグナロクはすっと上げた拳を引っ込めた。
どうやら調子も戻ってきたみたいだ。
俺たちがそんな会話をしていると、ホールからバカでかい声がした。
「いやぁーーーほんと最高だったわぁ!!また行こ!なっ!なっ!」
マサルの修学旅行の最終日みたいなテンションで声をあげている。
無視してもいい気がしたのだが、俺より先にラグナロクがそこに向かおうとしている。
すこしついていく方がいいかな。
俺たちは自室に戻る直前でホールへと向かうことにした。
「だいぶ楽しんだみたいだな」
俺はホールのマサルに声をかけた。
「最高だったぜあの店!なんで昼間に行ったときに治癒師にマッサージしてもらわなかったのかってぐらいだわ」
「本当であるな。おかげであの女との闘いのダメージまで抜け始めているのを感じるぞ。ハッハ」
アイツらあの後治癒師のところまで行ってたのか。
「楽しんでもらえたようでよかったよ。俺らも収穫あったぞ。明日はユグドラに行く」
「そこにエク君の奥さんがいるのか?」
「いや、実際はその先のカムランって街が目的地らしいんだけど、転移できるのはユグドラまでなんだとさ」
「そうなのか。じゃぁ明日はユグドラだな!」
どういうわけかマサルと話していると、まるで高校生の時のようなテンションでの会話になってしまう。
それを見てアリスがエクスカリバーに尋ねる。
「エク君。カムランの場所はギルドで聞いたのですが、ギーネさんの名前から場所を探してもらうときにギルドマスターが不倫って言ってたのですが何か知ってます?」
「ビクっ!!!」
ビクッって普通声に出して言わないからね?
反応したのはランスロットだった。
「……わが主。それは、終わった話なのである。今はちゃんと仲良しである」
そういってエクスカリバーはランスロットに目を向けると、ランスロットは目を逸らして辺りを歩き回り始めた。
俺の記憶だと、エクスカリバーは武器名だし、ランスロットが悪さしたのってアーサー王の奥さんにじゃなかったっけ?と思う俺がいた。
「そうですか。あと、奥さんなんですが、飾られているって言われたのですがそれってどういうことですか?」
「むむ?わが主が何を質問したいのかわからないぞ?ギーネはカムランで飾られているのは正確な情報である。歩き回っているだろうから一か所にいるかはわからんが」
アリスはさらに疑問を深めたようだ。
「まぁ会えばわかることである。心配されるな主。ほら、私に座って一息つくといい」
よっこらしょとでも聞こえそうな動作で、当たり前ですという顔でアリスのまえで四つん這いになる。
「いや、心配とかそういうのではないのですが」
アリスもあまりの混乱に、四つん這いに対するツッコミも無く、よいしょとエクスカリバーに腰かけた。
「ねーちゃん。それは、もう毒されているということで認識おうてるか?」
玉藻の冷静なツッコミに、アリスは我に返った。
「わ、私としたことが!!なんてことを!!」
アリスは赤面してそそくさと自室に引っ込んでしまった。
「狐娘よ、余計なことを言うでない。せっかく無警戒で腰を下ろしてもらったというのに……」
エクスカリバーはとても残念そうな声でそういった。
「お?お館様よ。今気づいたのだが、主は私を置いて自室に戻ってしまったようだ。私は今晩どうしたらいいのだろうか?」
「しらねーよ。アリスの部屋のまえで夜通し警備でもしてりゃいいんじゃねーか?」
「くっ。お館様よ。また腕をあげられたな」
そういって俺にサムズアップを返すエクスカリバーを俺は忘れない。
「ハジメ。ちょっとごめんね。先に部屋に戻って寝ててもらっていい?ラグはマサルとランちゃんに話しがある」
多分さっきの件だろうな。
「あいよ。マサル。ラグちゃんがマサルと後ろで冷や汗かいてるランちゃんに用があるってさ。話相手になってやってくれ」
「俺らか?まぁいいけどよ。ここでこのままか!?」
「こっち来て」
そういってラグナロクはマサルとランスロットを連れて、訓練場に行ってしまった。
俺は玉藻に耳打ちする。
「ラグちゃん心配だから、一応玉藻ついていってやってくれ」
玉藻はにやぁっとして俺に言う。
「オトン、ほんまオカンのこと大好きやなぁ。ええで、オカンのこと様子みとくわぁ」
前半は余計だ。
玉藻も、ラグナロクを追って訓練場に向かった。
「さて、俺も部屋に帰るか」
「お館様?よいのであるな?」
俺は何を聞かれているのか理解できていなかったが、エクスカリバーだしどうせろくでもないことだろうと考えて適当な返事をした。
「んー?あぁいいんじゃねーの?」
そして、俺が何の気なしに言ったその言葉を肯定と理解したエクスカリバーはその夜、本当にアリスの部屋の前に仁王立ちするイケメン騎士の亡霊という逸話を作ってしまったのはここだけの秘密だ。
部屋に一人でいると、騒がしいのがいない分余計に静かに感じた。
さてと、ここからが本題だな。
「ロキ。聞こえるか?」
『聞こえるわよ。わざと一人になるなんて気が利くじゃない』
「なりゆきだよ。駄目だったら別日にしてた」
『殊勝な心掛けよそれ。で、あの娘のことだけど、あの時は簡単な事の成り行きしか話してなかったけど、覚えてる?』
「ああ。覚えてるよ。ヴェルダンディを倒し切れなかったこともな」
ロキは一呼吸置いて話始めた。
『ハジメが瀕死になっている時のあの娘の話は聞いた?』
「いや、聞いてないな」
『本人に聞いても言わないだろうし、聞き出そうともしてほしくないから伝えておくけど、ハジメを守れないって落ち込んで動けなくなったのよ、あの娘』
俺としては意外だった。
あんなに好戦的なラグナロクだったのに。
「それと、さっきの今は触れるなってやつにどうつながるんだ?」
『とっかかりは簡単な話だわ。マサルは、というよりランスロットは守れて、自分は守れなかった。それが引っかかってるのよ。でもそれはあの娘が魔剣でいる限り当然のことよ』
「それはさっき勉強した。聖剣ならいけるんだろ?」
『そうね。聖剣に進化する条件は神格の一部と特定条件を満たすこと。だからあの娘もあと一歩で聖剣の仲間入りってわけ』
「ちょっとまてそれはまだ履修してない内容だ」
『留年ねハジメ』
あれ、ちょっとハジメさんムカついたぞ。
なんでもっと優しく言えないんだこの悪魔幼女は。
『悪魔は不敬よ』
やべ。
心の中透けるんだった。
「今履修した。んで、ラグちゃんは神格の一部はもう持ってるから特定条件をクリアすればいいんだろ?何すりゃいいんだ?」
『これが簡単なようで難しいのよ』
「もったいぶるなよ」
『それはね。自身の存在理由と意味を定義づけることよ』
「……なんだその曖昧なふわーっとしたやつは」
存在理由と意味って言われても、これですって出てくるわけないよな。
コンビニで売ってるわけでもないし。
『そのふわーっとしたやつが大事なのよ。そもそも、聖剣は神の使徒に相当するから意味も無く存在できないのよ』
「じゃあ何か?あの変態エク君と、ガキんちょランちゃんにはそれがあるってのか?」
『あるわよ、アーサーなんて、あんな感じの癖にかなりかっこつけた理由があるんだから』
「アーサー?」
『あ、やばっ。真名の方言っちゃった』
真名ってそう軽々しく言っちゃっていいもんなのかよ……。
『まぁいいか、アーサーだし』
まてまて、この扱いを見るにアーサーって……。
『お察しの通りエクスカリバーの真名よ』
当たりかよ……。
しかも、それじゃアーサー王伝説のエクスカリバーの持ち主その人じゃん。
『そこも正解。その人が剣に姿を変えてエクスカリバーよ』
ここじゃ地球での伝説そのものってわけにはいかねーのか。
「それで、エク君の存在理由ってのは何なんだ?」
『アーサー、いやここではエク君の方がいいわね。エク君の存在理由は、理想の国を作りそれを理想郷として民を守ることよ。もっとも今は剣だから国造りって言うより、自身の手に納まる民を守り抜くことね』
おっと?
それってラグナロクとキャラ被りしてない?
『そうでもないのよ』
また心透かしやがったな。
「どうちがうんだよ」
『根っこはいっしょ。でもそれが自身の存在理由であると、他者から伝えられずに自分が心に刻むこと。これができてないと聖剣にはなれないのよ』
伝えちゃいけないってのはきついな。
「だからさっきは触れるなって言ったのか」
『そういうこと。もし誰かの言葉がきっかけでそれを自身の存在理由だと思い込んだら一生聖剣にはなれないの』
思ったより真面目な理由で驚いたが、その条件をラグナロク満たせば、戦闘力含めて神を退けることができるってことか。
「あ、そうそう。ギルドで神剣ってのを見たんだけどこれってなんだ?」
『……それはまだハジメには早いわ。まずはアタシのおもちゃとして右往左往してから質問しなさい。伝えること伝えたから帰るわ。じゃね』
「あっ、お、おい!!」
その後ロキに話しかけても返答はなかった。




