第八十話 宛てどころはカムラン
ここに来るのも懐かしさを感じる。
「それで?その小柄な方がどちらさんだって?」
ルードはノボルを舐めるように見ると、俺に問いかけてきた。
「だから魔王様だって」
「んなわけねーだろ。魔王軍とは戦争中なんだぞ?なのにその大将がこんな敵陣にのこのこ来るわけねぇって、そういや王城で魔王がニブル王と会談とか言ってたな、いや、その情報も本当かどうか」
ルードは自問自答でループに入って行ってしまった。
「なんで信じらんねぇかなぁ。俺が紹介してんだし、アリスもいるんだから信憑性あるだろうよ」
「そうは言ってもなぁ。俺の想像してた魔王ってのはこう、鶏の両足もって引き裂いて血を啜るようなヤベーやつってイメージだから、こんな小柄なのが魔王って言われてもよ」
俺だって魔王の印象はノボルとはかけ離れてたけど、そんな鶏ちぎるようなどこぞのロックスターみたいなやつとは思ってなかったぞ。
「あのぉ……」
ノボルがしびれを切らして、話し出した。
「戦争、停戦にしました。先ほど」
「え、マジで?」
俺の方が驚いてノボルに聞き返してしまう。
「はい。ハジメさんたちが来る直前にニブル王と停戦協定と、共闘の約定を交わしたところだったんです」
「マジかよ。ノボル、シゴデキさんだったのか。って、共闘?」
「はい。ハジメさんたちも神の一柱から襲撃を受けていたと思いますが、うちの魔族領も襲撃されてたんです。兄ちゃんでも瀕死まで追い込まれて、ヴァルで瀕死になった直後に神と戦闘でまた瀕死という状況だったんですが何とか撃退だけはしました。ですが魔族だけだと次が対応できないということで」
「それで共闘か」
「そうです」
「ちょっと、ちょっと待ってくれ。俺を置いたまま話を進めないでくれ」
ルードが割って入ってくる。
「要するに、アンタは本当に魔王で、今は戦争が停戦になっているで合ってるか?」
「その通りです、ルードさん」
「んで?ハジメたちもアンタらも、どこぞの神様に襲撃喰らっていたと?」
「おっしゃる通りです……」
ノボルは少し力なさそうに答えた。
すると、俺としても予想外なラグナロクが反応を見せた。
「マサルは、神様を撃退したの?戦えたってこと?」
ラグナロクはそこにかなり固執しているように見えた。
「ラグちゃんどうしたんだ?なんだからしくないぞ?」
「……」
ラグナロクは少し唇を噛み、両手を強く握っている。
俺はラグナロクのこの反応に少し疑問を持っていた。
すると、俺にだけロキが話しかけてくる。
『その娘のことは今は触れないであげて。あとで説明してあげるから』
わざわざ俺にだけ言ってくるってことは、何かあったんだな。
『その通りよ。だから今はその話は流しておきなさい』
了解だよ。
俺はそのまま、話を蒸し返さず事実だけを確認するようにした。
「マサルはどうやって撃退したんだ?」
「かなり防戦一方だったと聞きました。基本的には防いでランスロットが治癒しての繰り返しで、ほとんど魔族領の盾として戦っていた状態のようです」
ノボルも兄の戦いを誇らしそうでもなく、どこか申し訳なさそうに説明した。
「あれ?でも、神様は絶対がこの世界のルールじゃなかったか?」
「それはアレだよ」
ルードが話をまとめに来る。
ルードは慣れた手つきでタブレットを取り出し、ポチポチと作業を始めた。
前にラグナロクが魔剣だと説明を受けたときも、タブレットにしか見えないその端末で説明を受けたことを思い出す。
ルードが、あれでもない、これでもないと何かを調べているが何かを見つけたようで、これこれと俺たちに画面を共有した。
「魔剣、じゃなくて聖剣の説明か」
「そうだ。それでな、ここ見てみろ」
ルードが指さす画面のそこを全員が注視する。
ラグナロクが最初に口を開いた。
「聖剣は、魔剣が上位進化を果たした存在……?」
「魔剣って進化するのか?どうやってよ??」
「そこまでこれには書いてねーよ」
ルードはすこし苛立ちながら答える。
俺はまぁまぁとルードをなだめつつ、タブレットに視線を戻すと、隣のページに気になる文字を見つけた。
「神剣ってなんだ?」
「これか?俺もわからねーんだ。そもそもこのページあるけど開けねぇんだよ」
ルードは操作するが神剣のページは開くことすらできなかった。
「な?」
「たしかに。まぁ見れないページをどうこう言っても仕方ないか」
「まぁ今は諦めるこったな」
「ハジメ様。ここを見てください」
アリスが画面を指さす。
――――聖剣は神の使徒として魔を打倒するものとされている。
――――神の意思に従う為、神の意志を防ぐことができると言い伝えられるが、その真偽は定かではない。
「魔ってのは、この流れだと、魔剣のことか?つまりここで言うならラグちゃん??」
「多分そう。だからラグはマサルの振ったランスロットに当たって折れたんだと思う」
ラグナロクは口惜しそうにそういう。
みんなで集ってタブレットから情報収集ってこれじゃ現代の日本と変わらないが、便利であることは確かだな。
「ただ単純に魔剣には聖属性特攻ってわけじゃないのか。それに、神の意志を防ぐって言ってるけど、カーリーが来た時エク君逃げろって言ってたよな?これがもし本当ならカーリーの攻撃防げるんじゃねーの?」
俺は疑問を含めて口にする。
「ハジメ様それであれですよ」
「……そうか!触媒か」
「そうです。おそらく奥様に会いに行くということは、その触媒を奥様が持っているのではないでしょうか?」
「だいぶ俺の中で話がつながってきたわ。ルード。ギーネって名前の女性がいる街に行きたいんだけど知ってるか?」
俺は名前だけで街を見つけろだなんていう無理難題を吹っ掛けた。
「おいおい名前だけで見つけられるわけねーだろ。それにギーネって多分愛称だろ?正式名称ぐらいだせねーのかよ?」
「そうは言ってもなぁ、エク君もランちゃんもギーネとしか……」
「ん?なんだその、エク君とかランちゃんってのは」
「あぁ、今はいないけどな、聖剣のエクスカリバーと同じく聖剣のランスロットだ」
ルードは何かが思い出せそうという表情で額を叩いている。
「ここまで出てんだよ。ここまで」
ルードは自身の首を指しながら頭を抱えている。
でもなぁエク君もランちゃんも名前だけ見りゃ完全にアーサー王伝説のそれだもんなぁ。
「もうちょいヒントはねーのか?」
「んー。ギーネってのはエク君の奥さんだ」
「エクスカリバー……。ギーネ……。ランスロット……。不倫……?」
おいおいなんか不穏な事言い出したぞ。
するとルードは、目玉でも飛び出すのかというほどに目を見開いた。
「思い出した!!!それはギネヴィアだ!!!」
「ギネヴィア?」
俺はルードに聞き返す。
「そうそう!エクスカリバーの奥さんだろ?だったらギネヴィアだ!とるすとだ。目的地になるのは、カムランだな。今度はヴァルとか魔族領の真反対だわ」
ルードは世界地図を出してきて、現在地点とヴァルと魔族領、そしてカムランの場所を指示した。
そういえばこの世界来て、世界地図とか一度も見てなかったわとハジメは思い少し、恥ずかしい気がしていた。
「すげーな。てかなんでそんなに詳しいんだ?聞いたこっちが言うのもなんだけどさ」
「聖剣ってのは基本悪いやつを倒すってことになってるから、割と逸話が有名だったりするんだよ。魔剣はそういう目立つことしないから表に出なくて情報ないけどな」
なるほどと感心するが、進化前の情報がなくて進化後の逸話があるってどうなのよと思うが、そういえばここってロキが作った世界だわと思うと不思議と納得できた。
「ギネヴィアならカムランに飾られてるはずだぜ」
「飾られてる、ですか?お住まいになられてるではなく?」
アリスが質問するが、確かに俺も気になる。
「まぁそれは行ってみてのお楽しみだな。安心しろ、カムランまではそう遠くもないし、道中も魔族領の反対だから危険もないからな、っと今は停戦中だから魔族領の方も安全になるのか」
ルードが少し気を遣って言葉を選ぶ。
ノボルも察して恥ずかしそうに会釈した。
「じゃぁ、俺たちは明日カムランまでいけばいいのか」
「おっとそれは無理だ。ここから直でいけるのは中継地点のユグドラって国までで、そこから先は徒歩になる。カムランってのは思ってるより田舎なんだよ」
「どのくらいかかる?俺たちそこまで時間ないんだわ」
「ユグドラにはすぐいけるとして、カムランは一日も移動すればつくだろうよ」
ならひとまずはいいか。
既に薬膳に再訪問する人外どものせいで今日の移動は無理だ。
ロキの話だと、七日が安全圏だとすると、あと六日。
一日つかってもおつりがくる。
「ありがとなルード。オッサンもたまには役立つじゃん」
俺はルードにニタっとした顔でいう。
「どういたしましてだよ小僧。と、お前らせっかく魔族の報復が落ち着いたってのに、この感じだとまた危ない橋渡ろうとしてんだろ?ハジメ、くれぐれも生きてここに戻ってこいよ?」
ルードからの精一杯の心配の言葉だった。
案外俺はここの人たちから心配されるぐらいには仲良くなっていたのが嬉しかった。
俺たちはルードと、意気消沈して不貞腐れたエルマに挨拶してまた明日来ると告げ、ニブル王城に戻ることにした。
明日はユグドラに向けて出発だ。




