第七十七話 悪夢の前菜
マサルはノボルの手を引きルンルンでニブルの街を闊歩している。
ノボルも被害者になってしまうのか。
城を出るときに、マサルはせっかくだからとノボルも連れていくと言って聞かなかった。
俺とアリスは顔を見合わせてどうしたもんかという目くばせをしたものの、薬膳にはマサルだけ強引に押し込んでしまえばいいかという結論になった。
エクスカリバーも心なしかウキウキしているように見えるが、こいつはまぁ平常運転だろう。
食事処に着いたら、俺とアリスの一世一代の壮大なミッションが始まる。
マサルに抵抗されたとしても、薬膳に押し込む必要があるのだ。
「ハジメ!そろそろ着くのか?」
マサルは昼休みに同僚とランチでも行くような顔で俺に問いかけてくる。
「お、おお。そろそろ、あっ。あれだよ。あの店だ」
俺は近づいてくる、俺とアリスにとって恐怖の垂れ幕が出ている店を指さした。
「すげーな。ここは薬膳やってるのか!ん?薬膳?この世界に薬膳ってあったのか?怪我まで治るなんてほとんど黒魔術みたいだな!あははは」
こんなところで野生の勘働かせんじゃねーよ。
これから地獄に落ちてもらうんだから。
「す、スゲーだろ?それにフルコースなんだぜ?」
「そ、そうなんです!以前私たちがいただいた時なんてすごかったんですから!」
アリス、それは言っちゃダメなやつだ。
「すごかった?そんなに回復に効くのか??」
「兄ちゃんすごいね。ハジメさんたちに感謝しないとだよ?デート邪魔してるのにこんなところ連れてきてくれるんだから」
ぐっ。
ノボルの人を疑わなさそうな言葉が俺の良心を……。
横のアリスを見ると、アリスも心が痛いですという仕草で俺を見ている。
「これは必要な犠牲だ…。やむを得ないことなんだ」
俺はアリスにヒソヒソと耳打ちする。
「ですがハジメ様。このままだと、一つ間違えたらノボルさんまで犠牲に……」
アリスもヒソヒソと返してくる。
「まぁた内緒話かよ。もしかしてこの店……」
「ど、どうした!?」
もしかして、マサルの野生の勘が、この店は危険だと気づかせたのか!?
「実は隠れた名店で、本当は人に教えたくない系の店なんだな??なんか悪いなぁそんな隠し玉出させちゃって」
ふぅ。
マサルのオツムが残念で命拾いした。
「エク君は……まぁご褒美か」
「む?それほどまでに美味なのであるか?」
「方向性さえ間違えなければ、至高の美味だよ」
「なんであるか?そのなぞなぞのような方向性というのは?」
「見りゃわかる」
俺はそうエクスカリバーに話し、店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ!」
店員の声で迎え入れられる。
いや、この店員、俺知ってるぞ。
「あなたたちはあの時の!」
店員も気づいたようだ。
「本日は薬膳と通常メニューと……」
店員はそういいながら俺たちを見回し、アリスだけが治療前の応急処置状態であることを見つけた。
「なるほど。あの時と同じですね。一名様、薬膳にご案内です~」
パンパンと手を打ち店内に告げると、アリスを地下へ案内しようとした。
「ハジメ様!?想定外の事態が!!」
アリスは慌てふためきながら俺に救いを求めるような視線を向けている。
くっ。
死なばもろとも!
「店員さん。今日はここにいる全員が……」
言いたくない。
言ったら俺の死亡まで確定してしまう。
俺は片目から敗北の涙を流し、爽やかに店員に告げた。
「……薬膳だ」
「ハジメ様!?」
アリスは、そうじゃないという目で俺を見ている。
わかる。
わかるって。
俺たちは回避してマサルだけって言いたいんだろ?
でもこの状況じゃもう無理だ……。
「おや、皆さんですか?食材足りるかな……?ちょっと確認します。四名様に変更できますか~?」
店員が確認を入れるところにマサルが割って入る。
「あっ。すみませんもう一人います。ほら、むくれてないでよ」
「もうお一人で五名様ですか?」
マサルはそういって背中のランスロットを揺さぶる。
『なんだよ。俺はいま話したくないんだよ』
「いいから。うまい飯だってよ?」
『……わかった』
そういってランスロットは人型になる。
飯にはつられるのかよ。
「うまい飯?」
店員が不思議そうにマサルを見ている。
おいおい、アンタがそこ疑問持っちゃ駄目でしょ。
すると、地下の階段下から五名大丈夫との声が響いてくる。
はい。
俺たちゲームセットです。
「ではこちらへ」
店員は俺たち五人を地下へ案内した。
俺とアリスにとってこの階段は、まるで死刑台への十三階段だ。
「アリス。諦めよう。生きて帰れたら俺たち結婚しような」
「嬉しくないです嬉しくないです!!そんな死ぬこと確定するみたいなプロポーズ!!」
死亡フラグもしっかりと立てて、俺たちは席に着いた。
ヴァルと同じ配置と、一セットしかないテーブル。
ここまで同じかよ。
「それでは、本日は薬膳のコースとなりますので、まずは前菜のサラダでございます」
店員はそういって五人分のサラダという名の刃物、もとい葉物をテーブルに並べた。
始まるぞ、悪夢の薬膳が。
「なんだこれ!地球じゃ見たことない野菜だなぁ!どんな味するんだ??」
マサルはウキウキを崩さない。
「兄ちゃん。なんかこれ、よくないオーラを感じるけど大丈夫かな」
「何言ってんだ。ハジメが美味い飯って連れてきてくれたんだ。きっと美味いはずだぜ?」
俺の良心をアイアンメイデンにでも入れたいのだろうか?
「はぁはぁ。お館様よ。私はこのサラダになぜだか興奮を覚えるのだが、なぜだろうか??これは初めての経験である」
畜生。
真性の変態は、ここの薬膳の正体に遺伝子レベルで気づいてやがる。
「じゃあ、お先にいただきまーす」
そういってフォークにこれでもかとサラダを突き刺し、マサルは口に運んだのだった。
どうか、みんなが無事にこの後を乗り切れますように……。




