第七十六話 アリスの見落とし
「なぁ本当に気まずいとかじゃないの?」
マサルが再度確認する。
「だから違うって言ってんだろ!!」
ランスロットも何故か必死に否定している。
そういう反応は逆に怪しいな。
俺は訝しむようにランスロットに視線を送る。
「お、俺は関係ねーからな!」
ランスロットは逃げるように剣の姿になって喋らなくなってしまった。
何が関係ないのやら。
「ランスロットのやつ、何を隠しているのだ?まぁ連れていけばわかることである。剣になったのなら運搬も楽であるな!」
エク君も結構そういう所強引だよね。
俺たち、というより俺とアリスなのだが、先程の戦闘で負った傷を玉藻に治療してもらう。
「オトン。途中から記憶が無いタイミングがあるんやけど、私なんかされたんか?」
それはカーリーが時間を止めた時のことだろう。
「カーリーがあの時俺とラグちゃん以外の時間を止めたんだよ。その時のことだろうな」
「そういう事かいな。なんや、知らないところでなんかされてそうで気持ち悪いわぁ」
「結果的にかなりヤバい状態だったしな」
「でもなんでオトンは今無事なん?私が聞くのもなんやけど」
あの時ヴェルダンディのトンボの刃が出なかったらどうなっていたか分からないのが実情だからな。
「なんでか正確には俺も分からないけど、前に俺の右肩切り飛ばした攻撃がラグちゃんから出たんだよ」
「あー……。それで」
玉藻が何かを察したような顔をしている。
おそらく俺が察しているのと同じだろう。
俺が右腕を落とされた後、玉藻が回復した時に俺に吸い込まれた呪い。
きっとそれが関係している。
でも、それだとヴェルダンディは間接的にカーリーに逆らっていることになるはずなんだけどな。
「まぁなんにせよ今は無事。それでいいってことにしようぜ」
考えても分からないものは分からないからな。
「それより、玉藻の短刀だよ。まさか簪が短刀になるとは思わなかったわ」
「オトン気づいて私に渡したんちゃうん?私すぐ気づいたで。あー嫁に来いってかこの色男ーって」
「どこの世界に娘に求婚する親父がいるんだよ」
「ここにおるやん」
玉藻は俺を指さす。
「なんでやねん!あ、俺まで関西弁に」
俺は玉藻につられてツッコミを入れてしまう。
「うちはいつでもかまへんで。それにあれやろ?家名を傷つけるぐらいなら自決しろ的なやつ」
玉藻は俺の治療が終わるにつれて魔力枯渇で子供姿になっていった。
俺は子供モードになっている玉藻の頭をグリグリと撫で回す。
「こぉんなガキンチョに求婚されてもなぁ」
「なっ!?おとーちゃん!うちをバカにしてるんやな!?ええで!乗ったるわ!いつか魅惑のぼでぃでおとーちゃんノーサツしたるわ!」
玉藻が子供の癇癪のように地団駄踏んで宣言する。
しかしそれを見たラグナロクが玉藻に近寄り、頭に置いた俺の手に重ねるように自身の手を重ねる。
「玉藻ちゃん。そういうことは誘惑できる大人になってから言おうね」
ラグちゃん切れ味ヤバすぎ。
ラグナロクが、ちゃんとかつけて呼ぶ時はだいたいが、刺しに行く時だよね。
「おかーちゃんまでそんなこというん!?うち自信なくすわぁ……」
玉藻はおよよと崩れた。
「で、もう治療は大丈夫そうか?」
「……それはもう大丈夫や。しっかり完治させたわ。その結果この姿や!見てみぃ!!」
玉藻は自身の子供姿を見せつけるようにその場でくるりと1周まわった。
「おー」
「可愛い可愛い」
俺とラグナロクが親の顔で手をパチパチと叩く。
「ここまで子供扱いかいな!もう知らん!おとーちゃんなんて豆腐の角に頭……」
「ぶつけても死にはしないな」
俺は食い気味に玉藻の言葉に自身の言葉を被せた。
「キーーー!うち拗ねるで!?可愛い娘が反抗期迎えるで!?ええんやな!?」
俺とラグナロクは、まぁ年頃の娘ですしという顔でにこやかに玉藻を見ている。
「うわ!すごい可愛い狐さんですね!子供の姿にもなれるんですね!」
声をかけてきたのはノボルだった。
玉藻はノボルを見ると、デレデレと態度を軟化させる。
カーリーに襲撃されてから意識が戻ってすぐだと言うのに、ノボルはかなり回復していた。
俺はデレデレと軟化する玉藻にもう一押しと、マサルに目配せする。
マサルはすぐに察して、ノボルの後ろに音もなく忍び寄り、猫耳カチューシャを神すら見逃す早業で装着し、俺にサムズアップをしてきた。
「ま、また兄ちゃん!!やめてって言ってるのに!!」
「あかん。もうおとーちゃんたちに弄られたのなんて吹き飛ぶわ。この可愛さは犯罪級……あ、鼻血が」
玉藻は鼻を抑えて1人退場して行った。
「え、タマモちゃん、私の治療……」
アリスが次は自分の番と待っていたのに、ノボルの介入で鼻血を出した玉藻が退場したためアリスだけ擦り傷だらけのまま残されてしまった。
「なんで私がこんな扱いに……」
「なんか、ごめん」
俺はアリスにぺこりと頭を下げる。
「いいんですよ私なんて……」
いじけるアリスが体育座りで絨毯に人差し指をコネコネし始めてしまった。
これはちょっとフォローしてやらんといかんな。
「アリス、さすがにこの扱いは悪かった。この後2人で食事でもどうだ?ラグちゃん悪いけど待っててくれるか?」
「いいよ。アリスと美味しいもの食べてきて」
「ハジメ様!」
アリスは目をキラッとさせて俺を見てくる。
よし、多少は機嫌も治ったかな?
すると余計な声が飛んでくる。
「おいハジメ!ここ来る時言ってた美味い飯屋行くんだろ?俺も連れてけよ!美味いならノボルも一緒に!!」
「兄ちゃん!2人の邪魔しちゃダメだよ!!」
「あ、アリス……?」
俺は困惑してアリスを見ると、アリスはやれやれという顔をしてひとつ息を吐くと、いつもの優しそうな顔に戻って言った。
「いいですよ。仕方ないですね。ハジメ様次は2人きりでお願いしますね」
「もちろんだ。今回はすまんが許してくれ」
「次までにいいお店探しておきますよ」
アリスは約束を取り付けたものの少し残念そうではある。
しかしアリスは大事なことを見落としている。
「ハジメ!その美味い飯屋ってのは、どんな料理が出るんだ?肉か?魚か?」
マサルはワクワクを隠せなくなっている。
「あぁ。ここに来る時に見たいい店はな、食べると体力が回復するんだぞ?多分俺が前に行ったところと同じなら、地下がそういう飯屋で1階が普通の飯屋。その上の階に治癒師が待機してるはずだ」
「なんだそのそういう飯屋って?」
マサルが不思議そうに聞くがそれよりもアリスだった。
顔を真っ青にして、膝がガクガクと震えている。
「ハジメ様もしかしてこれから行くのって……」
俺は小声でアリスに言う。
「……薬膳だ。2人の飯を邪魔されたんだ。これまでの事含めてきっちり精算してやる」
アリスもヒソヒソと返してくる。
「で、ですがそれって私たちも必然的に薬膳に……!!」
「大丈夫だ。着いたらマサルだけ地下に押し込んで俺らは1階で食おう」
アリスはパッと明るい顔になる。
「さすがハジメ様!」
「おい、お前らなにヒソヒソ内緒バナシしてんだよ!早く行こうぜ」
ふっ。
これから地獄を見るとも知らずに呑気なものよ。
俺は悪代官のような笑いを浮かべる。
「結局みんなで行くことになったし、ラグちゃんも来るか?」
「……行かない。あそこは多分後悔するよ」
「私は、行ってみたいのである!お館様推薦の店であるからな!」
ラグナロクは何かを察しているようだった。
エクスカリバーは多分喜んじゃうかもしれん。
だが少し気になる。
トールを放置していいものか?
するとトールから声をかけてくれた。
「私はもう大丈夫だ。覚えてはいないが戦闘もあったのだろう?部屋の荒れ具合を見ればわかる。戦ってくれたみんなは外で食事でもしてくるといい」
トールは体を何とか起こしてノボルに向き直る。
「魔王よ、せっかく来ていただいたがこのようなことになってすまない」
王として頭は安易に下げられないが、謝罪の言葉は伝えていた。
「いえいえいえいえ!気になさらないでください。
こちらが押しかけた側ですし、皆さんともお話できましたので」
ノボルはホッとした顔をしていた。
俺たちはトールを近衛騎士に任せることにした。
アリスもかすり傷とはいえ、怪我はしているので応急処置だけして、食事から帰ったら玉藻に見てもらおう。
それまでに玉藻は鼻血を止めておいてくれると助かるのだけど、部屋出てどっか行っちゃったからな……。
悩むのももったいないので俺たちはアリスの応急処置を済ませて、薬膳料理二号店に足を運んだのだった。




