第七十五話 気まずい神託
「主……。来ているぞ、来ているぞ。私の内なる喜びの炎が!!!」
エクスカリバーは喜びを全身を震わせてアピールしている。
「なんで私が、こんな恥ずかしい思いを……」
アリスはもらい事故だと言わんばかりの顔をしている。
「そこはまぁ仕方ないだろ、なんやかんやエク君に守ってもらったんだしな」
「それはそうですけど……」
アリスは一つため息をつくと、完全に諦めたようだった。
「まぁ私としては、これからしばらく我が主に座ってもらうのも難しいであろうからな」
「そうなのか?」
「当然である。これから妻に会おうというところでそのようなことはできぬのである」
「ほう?さすがのエク君も妻の前ではそうもなるか」
「というより、下手をすると、私は殺さるかもしれぬのでな」
殺される!?
エクスカリバーの奥さんってそんなバイオレンスな感じなの!?
「ならいっそ、エク君を奥様に引き渡したほうがこの世のためですね」
アリスが冷ややかな目で椅子にしているエクスカリバーに言う。
「はぁはぁ。主、たまらぬ。しかしこれがしばらくお預けというのも、考え方によってはご褒美と捉えることができそうである」
このエクスカリバーの平常運転を制止できるほどの馬力のある奥さんって、かなり特殊なのが出てきそうだな。
玉藻が治療を続けていたトールがこちらとマサルたちを見て状況を把握しようとしているのが俺の目に入ったが。
しかし、トールはどうも事態を飲み込めていないようだった。
「ハジメ君。一体これは何があったと言うのだ…?」
「そちらについては私から…。やっぱりハジメ様お願いします」
そう言ってアリスが答えるが、自身の状況が、騎士を椅子にして腰掛ける、女王様もびっくりな状況であることに気づき、俺に話を振ってきた。
俺は吹き出しそうなのをこらえて、トールに説明する。
「敵からの襲撃がありました。ですが、敵としては最悪の相手です。ロキの更に上位、そういう類の神が仕掛けてきたようです」
「なんと!神から直接のか!!」
トールは驚きを隠せなかった。
この世界の原理原則からすると、逆らうことが決してできない相手。
それが神だからだ。
「やはり、ハジメ君が御遣いであるというのが関係しているのだろうな」
トールは妙に納得している様子だった。
「このままここにいると俺のせいで、というのはどうかわかりませんが迷惑をかける可能性もあり、やはり俺はここを離れる必要があるかと思っています。幸い俺にはコイツもいるので」
俺はそう言ってラグナロクに目を向ける。
ラグナロクは、任せてという自身満々な顔をしている。
「あれはやばかった。ランちゃんが命を盾にしようとするぐらいだったからな」
マサルが口を開き、庇っていたノボルも意識がしっかりとして、会話ができる状態まで回復していたようだった。
「ハジメさん。きっとあれはこちらの戦力でどうこうできる相手ではないと思います。どうしましょう」
そう言ってハジメは俺の方に、真剣な、魔王としてというよりは統治者としての視線を投げている。
「俺達は治療の後、エク君の奥さんに会いに行って来ることにする。どうやらエク君に必要なことみたいなんだ」
アリスの椅子になっているエクスカリバーは、鎧をカシャカシャと音をさせながら頷いている。
「ギーネに会いに行くのか?」
子供からは出てこなさそうなはっきりとした声でランスロットが声を出す。
「そうである。なにか問題があるのか?」
「い、いい、いや?」
ランスロット明らかに動揺してるけど何かあるのか?
「ならば問題ないであろう。妻に夫が会いに行く。すばらしいことではないか」
「そ、そうだな。まぁ俺としては特にパワーアップも必要ないし、マサルと魔王とで魔族領に帰るよ」
ランスロットはどうにも、この場を離れたいようだ。
「そういうわけにもいかないだろ。ランちゃんじゃあの怪物とは戦えないんだろ?」
「それは、そうだけど…」
マサルも、戦う力がほしいというのはあるようだ。
「兄ちゃん。せっかくだからハジメさん達と一緒に、行ってみたら?」
「ノボル!それはだめだ。その間にあいつが攻めてきたらどうすんだ!?」
「だろだろ?だから帰ろうぜマサル!!!」
マサルはノボルを心配しての発言だと思うが、ランスロットはどうにも、悪さを親にバレたくない子どものように見える。
あいつなんか隠してるな?
「ランちゃん。大丈夫だよ。俺こう見えても魔王だし、いざというときは多少身を守るくらいできるさ」
ノボルは大丈夫というがマサルは不安でいっぱいという表情をしていた。
『心配しなくても、しばらく攻めてこないわよ』
ロキの声が部屋に響いた。
最近この広域放送みたいにロキ出てくるけど、前は俺の頭に響かせてたのに、あの悪魔幼女めんどくさくなったな?
『めんどくさいとかじゃなくて効率の問題よ』
忘れてた。
俺の頭の中筒抜けだったんだ。
トールはロキの声を聞いて、跪き祈るようにあたりを見回している。
「で、なんでお前にカーリーが来ないってわかんだよ?」
「カーリー?」
マサルが不思議そうにしている。
「今回敵の名前だよ。自分で名乗ってたんだ。シヴァの妻だってよ」
「シヴァとかカーリーとか俺知らねー名前だ」
きっとマサルくんは神話とか好きじゃなかったのかな?
「兄ちゃん。カーリーってあれだよ。割と愛情に歪んでるタイプの神様だよ。錯乱して大暴れして旦那さんを踏んづけて我に返るような変わり者だったはずなんだ。となると、今回攻めてきたのがカーリーとして、これは困ったなぁ」
ノボルはそういう知識も潤沢らしい。
「何が困るんだノボル?」
「カーリーはね。格が高いってのもあるけど、この手のちょっと倒錯気味に攻めてくる相手は約束とか理由があってではなく、自身の感情で攻めてくるパターンが多いんだ」
「そんなのみんな同じじゃないのか?」
マサル君減点。
全然一緒じゃありません。
『そこのお猿さん。あんたちょっと黙ってなさい』
「んあ!?今俺のこと猿っていったか!?」
ロキの言葉にマサルが反応する。
『ハジメ。あんたはわかるわよね?』
「感情がトリガーになるってことは、戦略も戦術も無しにその時の感情で動くから読めないってことだろ?」
『正解。あたしのおもちゃとしての格が一つ上がったわ。おめでとう』
「お前は、俺を馬鹿にしとるんか……。まぁそれで、話戻すけど、なんで攻めてこないんだ?」
そこがこの話の大事なところなんだよ。
『簡単よ。ハジメがあの女の現界した体を半壊させたから。アンタたちが今いるその世界に神の干渉は原則不可。それを可能にするには現界用の体が必要になるし、神はそれを一つしか持てない。後はわかるわね?』
「体が治るまでは、手を出したくても出せない」
『だぁい正解。よくできました』
なんか腹立つな。
『そういうわけだから、そこのお猿さん。気まずそうにしているその聖剣持って、エクスカリバーの奥さんに会ってきなさい。これは神託だと思ってくれていいわ』
「まぁた俺を猿って!!ん?ランちゃん、気まずくて行きたくないの?」
「そ、そんなことないぞ!!」
ランスロットは明らかに目が泳いでいる。
『そうは行っても、七日もすればカーリーの現界体も治るだろうし、早めにしなさい』
ロキはそう言って声が消えた。
ランスロットが気まずい?
ランスロットとエクスカリバーの間に何があるんだ?




