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不運の集大成で死んだら、悪神のミスで絶対死なない豪運おもちゃにジョブチェンジしました  作者: 社会不適合者
聖剣エクスカリバー編

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第七十二話 お遊戯会

『あらぁ??思ったより元気そうなのが何匹かいるわねぇ』

 声の主は未だ姿を見せないが、部屋全体を包んだ粘度のある空気に触れている肌という肌からその存在を感じさせられる。


「つっ……」

 声を掛けられればかけられるほど、右肩に熱を感じる。

 先日切り離された俺の肩はまだ完治してないということか。


『ハジメ!大丈夫!?このまま意識を失ったらアイツの操り人形になっちゃう!我慢して!!』

 ラグナロクが叫ぶような声で俺に訴えかけてくるが、すでに右肩の熱と、ねっとりとした空気で覚醒も呼吸もこちらのコントロール下から離れてしまっている。

 まるでギギギという古い扉の音がしそうな重さで俺は横に首を向けると、アリスも同じように呼吸を支配されていた。


『わが主!意識を保つのである!ここが正念場であるぞ!!』

 ふざけたトーンではなく、至極真剣なエクスカリバーの声も聞こえてくる。

 マサルも同じくという状況のようだ。


『なかなかしぶといわねぇ。あんまり強くすると器の方が壊れちゃうしどうしようかしら』

「おま、え。誰っだ!!!」

 俺は喉がつぶれたような状態から絞り出すような声をあげてみる。

 この声は届いているだろうか?


『あら!!まぁまぁ!!私の神力を受けて、まだ歯向かってくるなんて、よほど心が強いのね!ちょっと興味がでるじゃなぁぁい!』


 ――――パキパキパキ


 先ほどまで粘度の塊のような空気が一瞬にして消え失せ、目の前のティーカップの飲み物、花瓶の水、窓、全てが凍り付いていく。

 一瞬にして奪われた熱は俺の指先の感覚まで鈍くしていくが、俺の右肩は依然として熱を感じさせてくる。

 窓の側、数メートルというところの床から静かに氷の粒が集まり、人の形を成し始めていた。


「ぶはっ!!はぁはぁ!い、息がで、きるぞ。ゲホゲホ」

「ハジメさ、ま。ご無事で、すか?」

 アリスも意識がはっきりしてきたようだ。

 マサルは俺たちよりも早く復活していたようで、一心不乱にノボルを揺すっている。


「おい!ノボル!目を覚ませ!兄ちゃんの声、聞こえるか!?」

 俺も横にいる玉藻に目を向けるがこちらも同様意識を失っているようだった。

 しかし、あまりに存在感を放つ人型をした氷の塊に対する警戒心が解けるわけもなく、玉藻を注視することができない。


「こっちだとこんな姿になっちゃうの?なんだか不細工ね」

 人型をした氷は次第に人の肌のいろ、髪、服になっていき、そこには大人のお姉さんという風貌の、それでいて危険しか感じることのできない人物となった。


「あなた!私たちに何をしたんですか!?」

 アリスが立ち上がり俺の前に被るように移動し、エクスカリバーの切っ先をその人物に向けた。


『主!それはダメである!私たちでは手も足も……ぐあぁ!!』

「きゃぁあぁぁああ!!」

 氷から人となった人物はまるでデコピンでもするようにアリスに向かって空気を弾くと、横殴りにでもされたかのようにアリスとエクスカリバーを吹き飛ばした。


『ぐぅぅ。今の私のみでは、主の体を回復させることも、くっ』

「何度も、何度も、ゲホっ。ハジメ様の目の前で醜態は晒せません!」

『いかん!主!相手を挑発するようなことはいかん!ここは撤退のみである!』

 エクスカリバーからは普段のふざけた感じは一切せず、完全な戦闘モードになった声が聞こえる。


「挑発?羽虫がなにしたって言うのかしら?そんなのどうでもいいの。あなた、いいわね。そのうち飼ってあげるわ」

 そういって女は俺の顔に指先を添わせてくる。


『ハジメ!逃げて!私たちじゃ勝てない!!』

「玉藻が……!!」

「あら、この子が気になるの?」

 そういって、玉藻の尻尾を掴みそのまま持ち上げる。


「手を!離せ!!!」

 俺はラグナロクの切っ先を女の喉元に突きつける。


「いいわその執着心!この間のツンツンした金髪の娘と、勘のいいお姉さんもいいけど、あなたもほんといい!」

 そういって、くねくねと悶える仕草をすると、そのまま玉藻を揺らし始めた。

 揺らされるにしたがって、玉藻の簪で止めていた髪が解けていく。

 俺の手が無意識に震え始めていた。


『ハジメ!怒っちゃだめ!!ここで怒ったらあの女の思う壺だよ!!!』

 俺にもラグナロクの声は届かなくなっている。


「やめろって、いってんだろうが!!!!」

 俺が喉元に突き立てたラグナロクの切っ先を押し込もうと踏み込んだ時だった。


 ――――シュルシュル

 ――――カラーン


 玉藻の簪が床に落ち、それと同時に意識を失ったはずの玉藻が目を覚ましていた。

 尻尾を掴まれて宙づりにされている玉藻は床に落ちた簪を掴むと、自身の尻尾を掴むその手目がけて振り抜いた。


「あら怖い。この子はまだやんちゃな盛りね」

 女は玉藻の振り抜いた手を躱し、尻尾を掴んだまま放り投げた。

 玉藻はくるっと宙で反転して、キレイに着地して見せた。

 その手には、いつのまに手に入れたのか、短刀を握っていた。


「すごーーーい!まるでお遊戯会ね!狐のお嬢さんが宙返り!そっちの聖剣はご主人様を守って吹っ飛んで、あなたは私の視線をくぎ付け」

 女はすこぶる上機嫌な顔をしている。

 俺はマサルに視線を少し向けてみる。

 ノボルも少なからず意識を取り戻し始めているようだ。

 マサルはノボルに覆いかぶさるようにこちらに背中を向けて、ランスロットはマサルの縦になるように床に突き立っていた。


「こっちは、むかってくる気も起こさないビビりくんね。興味わかないわぁ」

 マサルの背中は震えていた。

 そもそも、マサルはそこまで落ち着いた性格をしているわけじゃない。


『マサル!いいか!このまま俺が折れたとしても、振り返るなよ!?』

 ランスロットがマサルに声をかけている。


「……わかってるよ。ノボルが第一優先だ……」

 マサルはさらに肩を震わせていた。

 あれは恐れというより、無力にいら立っているんだろう。


 ――――パンパン


 女が手を二度ほど打つと、俺とラグナロク以外の動きが止まった。

 まるで時間そのものを止められたみたいだ。


「この間はかぁんたんに精神干渉できたのに、貴女、もしかして神格持っちゃった?」

「ラグちゃん?この間って!?」

 俺は、先日ラグナロクが行った戦闘にこの女がいたことに思い当たった。

 女はラグナロクの切っ先に自ら触れると、刃に自身の人差し指を滑らせていく。

 ラグナロクの刃はその人差し指を切り、女の指からは血が流れる。


「悪くないわね。私に傷がつけられるならひとまず合格」

 そういって女は自身の血をペロリと舐めると、すでにそこにラグナロクがつけた傷は無かった。


「そのご主人様のあなたなら、もっといいわね」

 女は再度俺の元に近づくと、軽く頬にキスをした。


「これであなたはわたしのおもちゃっ!」

 女はキャッキャしてはしゃいでいるが、状況とのアンバランスがハジメに冷や汗を流させる。


「さ、さわんじゃねーーーー!」

 俺は効かないとはわかっていても、女を払いのけるようにラグナロクを振り抜いた。


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