第六十九話 泣いてないもん。
「こちらをどうぞ」
マサルの側仕えから俺達に食事が配られていく。
これと言って物珍しいものを渡されているわけではないが、どうにも警戒してしまうのは仕方のないことだろう。
勇者との戦闘を知っている俺とラグナロクとアリスは特に警戒してしまう。
「エク君」
「どうしたお館様」
「ちょっと食べてみて?」
俺はエクスカリバーに食事を促す。
「毒なんてはいってねーよ!!」
マサルが潔白を証明しに声を大にしていうが俺はそれを横目に、エクスカリバーに強めの指示をする。
「アリス、エク君に毒味させて」
「はい。エク君。食べなさい」
「ほぉぉぉおおお!我が主とお館様の言葉が刺さるのだぁぁああ!」
エクスカリバーは最大限に興奮して食事を口にしていく。
「少しは俺達を信用してくれよ」
マサルは少し落胆気味に、それでいて呆れ気味にいう。
「あんなことあった後でそうそう信用なんてできるか」
「いや、たしかにそこの魔剣を折ったけど、その後ある意味折られたのは俺だからな!?」
確かに、ラグちゃん人型モード初お披露目は、マサルの鮮血と骨がきしむ音のBGMがセットだったな。
「お館様、我が主。普通に美味いのである」
「よし、みんな食べよう」
俺達も食事に手をつけ始めた。
「お前ら、仲間の扱い悪くねーか……?」
マサルがエクスカリバーを可哀想なものを見る目で見ている。
「いいんだ。この変態はこれで幸せという業を背負って生きてるんだ」
「そうです。ハジメ様の言うとおりです」
今日のアリスはとても辛辣だ。
「でもよぉ」
マサルも流石にそれはという顔をしているが、これが俺達なのである。
「いいぞ!いいぞ!私を物のように扱うその手腕!そして、仲間に毒味させることをなんとも思わぬその鬼畜な言葉!我が主もお館様も実に心得ている!!!」
「……なっ?」
「なにが、……なっ?なんだよ!?見てて悲しくなるわ!!」
今思うと、マサルと初めて対峙したときはいきなり襲撃されたけど、こいつも割と苦労人側の人間なのかもしれないとハジメは思った。
「ひひんはよおえで。うっく。エクスカリバーはもともとこんなやつなんだから」
何か食ってんのか?というそういう声の主をキョロキョロ探してみるが、見当たらない。
俺はマサルの斜め下に視線を落とすとそこには人型になったランスロットが口にパンを詰めに詰めた状態でいた。
「いま俺のこと、身長小さいから見当たらないって顔してんな兄ちゃん」
ランスロットが俺にきつい視線を向ける。
だが、少しも威圧感を感じてやることができない。
せいぜい小学生男子が唸ってる程度の感じしかないのだ。
「ぼく、迷子かな?あーランスロットくんだっけ!お母さんとはぐれちゃったのかな?」
俺は茶化してみる。
「てめ!俺のこと馬鹿にしてるな!!かかってこい!勝負せいやーーー!!!」
口の中のものを飛び散らせながら俺に食ってかかってくる。
よく考えたら、こいつがラグナロクを折った武器だ。
からかうぐらい許してくれと思うね。
「客だって言ってんだろうが!!おとなしくしとけ!」
マサルがランスロットの頭を抑えて座らせる。
ガルルルという声が聞こえそうな顔で俺をにらみ続けるランスロットに何故か俺は笑えてしまう。
「お前も!うちのランちゃんからかうなよ」
マサルに言われるが、引っかかるのはそっちじゃない。
「ランちゃん?ランくんじゃなくて?ぶふっ」
吹き出してしまったのはしかたない。
「ランスロットよ!いい名前をもらったのであるなぁ。実にかわいいではないか!」
「そうですよ!いっそうちのエク君と交換してほしいぐらいです」
「あるじーーーー!たまらぬーーーー!」
エクスカリバーの声が挟まったが無視しておこう。
「……うるせぇよぉ」
両手の拳をぐっと握り、ランスロットが両目にいっぱいの涙をためている。
「泣くなってちびっこ」
俺は追撃した。
「ちびっこ言うな。泣いてねーんもん」
今にもその涙は目のダムを決壊させそうになっている。
「なるほど、たしかにランくんというより、ランちゃんだな」
「だろ?」
俺は妙な納得感を感じた。
それから少しマサルと俺の距離が縮まった気がしたのは嘘じゃない。
「それにな、これ見てみろ」
そう言ってマサルは猫耳カチューシャを取り出す。
「おまえそれ、どこで買ったんだよ!?」
「買ったんじゃねーよ。俺が作ったんだ」
「作ったあぁ!?お前、その顔面で手作りとか、冗談は顔だけにしとけよ?」
「喧嘩売ってんのかテメー……!!」
ぐぬぬと唸ったあと、マサルはまぁ見とけと、その猫耳カチューシャを涙をいっぱいためたランスロットの頭にパコっとはめた。
「どうだ!?この可愛さハンパねーだろ!?」
マサルは興奮気味に俺達にランスロットを見ろという顔をしている。
確かに、可愛さの方向性は小動物系の可愛さがある。
アリスも玉藻もキャッキャしながらランスロットを囲んでいた。
ただ……。
「おまえ、そういう趣味、か??」
俺が危険物を見るようにマサルを見る。
「なんか誤解してるな?俺は、ショタコンとかじゃないぞ?ただただ可愛いものが好きなだけだ。まぁ最強に可愛いのはうちのノボルだけどな!」
出てくるのが全部男なんだよなぁと思いつつ、人の趣味はそれぞれと少し達観した気持ちになった。
「そ、そうだな。悪かった。ちょっと踏み込んじゃ行けないエリアに入ったようだ。おまわりさーんこの人でーす」
「あっ、ちょっ、そういうのやめて!」
やっぱりこいつ日本人だな。
これに反応してくるんだから確定だろう。
わざわざお互いの素性はいわないものの、俺達に謎の結束が芽生えかけている、気がしないでもない。
それからの道中は割と悪くなかった。
護送車を除けばまぁ快適だった。
そして翌日ゲートに到着して、俺達は順々に懐かしいニブルの地に戻った。




